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上野信次 優雅にして華麗なる除霊の日々  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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ホーンテッドな館(2)

 コンビニを出てから、上野はようやく家に到着した。かかった時間は、行きと同じく二時間である。途中、またしても六台のタクシーを乗り継ぐ羽目になったのだ。そのため、若干ではあるが不快な表情になっていた。

 ちなみに、この日は都内だけで十人以上のタクシー運転手が緊急入院し、ちょっとしたニュースになっていた。全員に共通しているのは、運転中にいきなり気分が悪くなったこと、病院で少し休んだら良くなったこと、検査したがどこにも異常がなかったということである。ネットでは「実は新種のウィルスが漏れ出たのではないか」などといったデマが飛び交っていた。



 

 その異常現象の根源である上野は、家に帰るとリュックを開けた。中から、買ってきたものを取り出す。

 そんな上野の姿を、金髪の女と顔が半分の男と四つん這いの老婆が眺めていた。

 やがて、そこにもうひとり加わる。


「ううう、ううう」


 奇怪な声をあげながら、近づいて来た者がいる。おかっぱ頭にランニング、半ズボンの男の子だ。こちらは五体満足だが、肌は死人のように青い。ゆっくりとした動きで上野に近づいていく。

 上野の隣に座ると、彼の顔を見上げる。


「ううう、ううう……」


 奇怪な声を発しながら、上野の体に触れる。すると、彼は横目で子供を見た。


「また、ひとり増えたのか」


 ボソッと言うと、缶ビールを飲みながらテレビのスイッチを入れた。

 画面には、不思議な格好の男たちが映し出される。アメフトの防具を着た男たちが、バットを振ったり野球のボールを投げたりしているのだ。


(全国三千万人のラガーボールファンの皆さん、こんばんは。今夜は、ベイカー・サクソンズVSオオサカ・ライガースの試合をお送りします)


 とぼけた顔のアナウンサーが、挨拶の言葉を述べる。

 直後、試合が始まった。上野はビールを飲み、つまみの柿ピーをぽりぽり食べつつ、ラガーボールなる競技を観戦する。このラガーボール、アメフトとベースボールを合体させたようなルールの競技らしい。

 やがて、その表情も変わってきた。隣にいる少年幽霊に向かい、試合の解説をし出したのだ。


「いいか、今のはスペックのブロックが見事だったんだよ」


「あれは、レストレードがミスをしたんだ。あそこはバントだな」


 そんなことを、訳知り顔で一方的に語っている。少年幽霊はというと、黙ったまま聞いていた。

 その後ろでは、霊のトリオも控えている。


(さて、ライガースの切り札コブラマスクは間に合うのでしょうか。何せ、プロレスラーとラガーボールプレイヤーという史上初の二刀流を成し遂げた選手です。しかも、ラガーボール初の覆面選手でもあります。先ほど、ノーロープ有刺鉄線電流地雷爆破デスマッチにてジュラシック・ノートンに勝利し、球場へ向かっているとの報告が入りました)


 アナウンサーの言葉に、上野は思わず顔をしかめた。


「クソ……コブラマスク、間に合ってくれ」


 言った直後、拳を握りしめる。すると、子供がうううと呟いた。上野の気持ちを察したのだろうか。

 上野は、そっと子供の頭を撫でる。と、その時にアナウンスの興奮した声が聞こえてきた。


(おっと、ただいま情報が入りました。コブラマスク、球場に到着した模様です。ブルペンにて、投球練習をしているとのことです)


「おおお、到着したか」


 呟いた直後、上野は子供に説明を始める。


「これから、コブラマスクという選手が出てくる。凄いんだぞ。覆面レスラーでありながら、覆面ラガーボールプレイヤーでもあるんだ。しかも、抑えの切り札であり代打の神さまなんだぞ。見てろ、凄いから」


 霊に向かい、上野は一方的に語る。

 子供はというと、テレビをじっと見つめていた。興味をそそられているらしい。


(さて、試合は九回表、一対〇でベイカー・サクソンズがリードしています。マウンドには、抑えの守護神・コブラマスクが立っております)


 画面には、覆面の男がマウンドにいる。キングコブラのようなデサインの覆面を被っていた。体は、他の選手に比べると小さい。

 だが、そんな覆面選手に対し観客は大声援を送っている。

 その声援に応えるかのように、コブラマスクはふたりのバッターを立て続けに三球三振で仕留めた。超豪速球のストレート勝負で、どちらも空振りしてしまったのだ。

 次いで、打席に立ったのは……ベイカー・サクソンズの主砲であるシャーロックだ。不敵な表情で、バットを構える。

 コブラマスクは、またしてもストレートで勝負した……が、シャーロックはぶんとバットを振る。

 カキーンという音とともに、打球は高く上がっていく── 


(おおっと当たったぁ!)


 アナウンサーが叫び、観客がどよめく。そんな中、ボールは高々と上がっていった。ホームラン間違いなしの打球だ……が、ここでライガースのシコルスキーが動く。凄まじい勢いでグラブを外し放り投げた。

 直後、なんとスコアボードに飛びつき、よじ登っていったのだ。まるでボルダリングのように、壁をすいすい登っていく。

 スコアボードのてっぺんに登りつき、素手でボールをキャッチした──


(アウトだあぁ! シコルスキーのファインプレーにより、サクソンズの主砲シャーロックを抑えたあ!)


 絶叫するアナウンサーの声を聞きながら、上野は満足げにウンウン頷く。一方、子供の霊は納得いっていないような表情で首を傾げていた。今のはいいのか? とでも言わんばかりの表情だ。

 その様子に気づき、上野は説明する。


「今のは、普通の野球ならホームランだ。しかし、ラガーボールはルールが違う。今のプレー、ラガーボールならアウトになるんだよ」


 聞いた子供は、納得したようにウンウン頷いた。




(さて九回裏、ライガース最後の攻撃ですが……サクソンズ抑えの切り札、ワトソンがマウンドに立っております。このワトソンの変化球を打ち崩すのは、非常に難しいでしょう)


「あのワトソンはな、とんでもない奴なんだ。あいつの魔球・ダイラガーボールを打てた者はいない。で、そのダイラガーボールというのはだな……」


 上野が子供に向かいダイラガーボールの解説をしている間に、状況はツーアウトでランナーが一塁という場面になっていた。

 そして、打席に立っているのはコブラマスクだ。彼は突然、バットを片手で持つ。

 さらに、バットの先端を上空に向けた──


(オーッと、コブラマスクが高々とバットをさしあげている! これは、予告ホームランのポーズだぁ!)


 実況アナウンサーが興奮して叫び、上野は食い入るように画面を見つめる。その横では、子供が画面を見ながら呻き続けていた。

 

「うお、うおお……」


 霊も興奮しているのだろうか。だが、上野は完全に無視だ。ごくりと唾を飲み、画面を見つめる。

 直後、凄まじい歓声が聞こえてきた──


(こ、これは! やりました! 入ったぁ! いや、出たぞぉ! 場外にでたぁ!)


 アナウンサーの興奮した声が、テレビから聞こえてくる。そう、コブラマスクは打ったのだ。打球は高々と上がり、客席を超え場外へと飛び出す。

 直後、上野も飛び上がった。


「うほほーい! コブラマスク! 凄いぞ!」


 叫んだ直後、子供の霊を抱きしめた。相手は戸惑い、困った顔をしている。

 だが、上野はお構いなしだ。さらに、奇声を発しながら子供にハイタッチを迫る。霊は仕方なく、ハイタッチに応じた。

 さらに上野は、後ろの霊トリオにもハイタッチを迫る。その迫力に気圧(けお)されたのか、霊たちも応じてしまった。

 霊のひとりひとりとハイタッチを交わした後、上野はビールを飲む。さらに奇怪な踊りを始めた。どうやら、勝利の舞のようだ。霊たちのことは完全に無視である。

 目の前で踊り狂う中年男を、霊たちはただただ眺めていることしか出来なかった。






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