表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹彩異色の夢見の巫女は隻眼の辺境伯の幸福を夢見る  作者: ミドリ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/33

26 探し人

 両親によって守られたシエルの命は、誰か大切な人の命を救う為にある――。


 はじめは生きる理由を探す為に生み出したこの考えは、長い年月を経てシエルにとって使命とも言えるものに変わっていた。


 シエルの一番の恩人といえば、アルバインの人々だ。そして、リュスこそがアルバインの頂点――象徴と言える人物その人。リュスの命を救うことができれば、シエルがここに来たことにも理由がつく。


 面倒なだけの自分がこうも温かく迎え入れてもらえたのは、きっとこの日の為だったのだと。この命を賭して守るべきなのは、リュス、ひいてはアルバインそのものなのだと。


 その日の晩も、同じ悪夢を見た。いよいよシエルは確信した。夢見の巫女エーデル・アルバインがリュスを救えと自分に言っているのだと。


 泣き叫びたくなるほど辛い夢だったが、シエルは懸命に己を奮い立たせた。ただ怖がるだけの自分とは訣別する時がきたのだ。


 今大事なのは、満月の夜の状況を事細かに把握し、リュスのいる主塔への侵入を阻止すること。その為に確認すべきは、黒装束の男たちがどこから侵入してきたのか、だ。


 リュスは警備は万全だと言っていたが、歩廊の衛兵たちは音もなく次々と倒されていた。不意打ちとはいえ、屈強なアルバインの兵がそうもあっさりとやられてしまったのは、相手が相当な手練れだったからなのではないか。


 つまり、彼らを城内に侵入させてしまってはいけない。城内に入ってくるのを何とか阻止すればリュスを助けられるのでは、とシエルは考えた。


 あの日を境に、シエルは部屋の外に出してもらえなくなってしまった。リュスが出した礼拝堂や書庫への立ち入り禁止令は、いつの間にか『部屋から出てはならない』になっていたのだ。


「お願い、エリザ。リュス様とお話しをしたいの……!」

「申し訳ございません、シエル様。ですが、リュス様のご命令ですので……」


 普段はシエルに甘すぎるほど甘いエリザも、主人であるリュスには逆らえない。どんなにシエルが懇願しようが、シエルを部屋の外へ出すことはなかった。


 長椅子に腰掛けているシエルの手を、エリザが両手で優しく包む。


「……リュス様のご命令がなくとも、今のシエル様をお部屋の外にお出ししたいとは思えません」

「エリザ、でも」

「鏡をご覧になって下さい。目の下にはくまができて、お顔の色だって真っ白じゃありませんか……!」


 エリザに潤んだ瞳で見つめられてしまえば、元々強く出られないシエルだ。ぐ、と言葉を呑み込むしかできなくなってしまった。


 寝られていない自覚はあった。明晰夢を見ている間は寝ている筈だったが、夢を見た翌朝は頭も目も疲れ切った状態で起きる。寝ている間も、夢の中では覚醒状態だからなのかもしれない。


 意識が途切れることがないというのは、思った以上に過酷だった。身体は十分に休まってはいるものの、時折日中に気絶したように意識を失っていることがある。そのことから、身体だけ休めても頭が休まっていなければ休めたとは言えないのだと気付いた。

 

 だけど、明日の夜は満月だ。もうあの夢の時まで猶予はない。仕方なく、本来であれば呼び出すなど烏滸がましいが、部屋から出られないのでリュスを呼んで欲しいとクラウスに伝えてみたりもした。


 だが、クラウスにも「お顔の色が優れませんよ。リュス様は、ご自分がお見舞いにこられるとかえって気を遣わせてしまうと考えられているようですので」とやんわりと断られてしまった。万事休すとはこのことだ。


 エリザは「リュス様のご命令なのです。申し訳ありません」と部屋から出る時は外から鍵を掛けてしまう。正に軟禁状態だ。こんな状態でどうやってリュスを救えばいいのか。


 仕方なく、露台に出て横に見える礼拝堂に向けて祈りを捧げる。エーデル・アルバインに「お願いです、私を導いて下さい」と心の中で尋ねてみるも、指輪はあれ以上の情報をシエルに与えてくれることはなかった。


 守りたいならば、自分で考えて行動せよ。次第にそう言われている気持ちになってきた。シエルに命を賭してまでリュスを守る気概が存在するのか、試しているのではないか。


(ですがエーデル様、閉じ込められた上にリュス様とお話しすることも叶わず、これ以上どう行動したらよろしいのですか――!)


 いくら尋ねても、エーデル・アルバインも指輪も、何も言ってはくれない。


 こうなれば、とにかくどうにかして侵入経路をはっきりとさせるしかない。だが、夢の開始から場内侵入までいつも大した時間がなく、未だ見つけられていなかった。


 焦燥感に襲われながら、満月の日の日中、エリザに「お願いですから横になられて下さい」と安眠効果のあるお茶を半ば強制的に飲まされ、寝台に横になった。


 疲れ切った脳は、すぐにシエルを眠りへと誘う(いざな)


 この日もまた、シエルは満月の夜の中庭に降り立った。


 前回までに、城門から入って右側半分と城門の上は確認したが、全て外れだった。入って左側には手前から礼拝堂、居館、主塔と並んでいるが、中庭から歩廊へと続く階段からはぐるりと回り込まなければならない為、まだ確認できていない。


(もう時間がないわ。今回確認できないと、内部への侵入を防ぐことができない……!)


 夢に降り立った瞬間、中庭から上れる歩廊へ続く階段を大急ぎで駆け上った。正面の門を通り過ぎ、礼拝堂に比較的近い歩廊に向かってひた走る。歩廊を警護する衛兵は、やはりシエルの気配には気付きもしない。彼らにとっては、シエルは風のような存在なのかもしれなかった。


 居館裏の歩廊に備え付けられた狭間窓から顔を覗かせ、外壁の左右を見渡す。


 月明かりに照らされた黒い影が三つ、外壁に張り付いた状態で動いていた。


(――いた! あれだわ!)


 黒装束の男三人が、手とつま先に付けた先の尖ったものを壁に突き刺しつつ、軽々と登ってきている。


(こっちから入ってきていたのね……!)


 あの日、歩廊上の衛兵たちは軒並み倒されていた。歩廊から中庭へは、高さがあり飛び降りることはできない。回り込んで中庭の階段を降りるために、邪魔だった衛兵を片っ端から殺していったのだろう。


(階段の近くでなくてよかったと思おう……!)


 最初の男が、様子を窺うように目を覗かせた後、勢いをつけて一気に歩廊に降り立つ。


 最も近くにいた衛兵の背後に素早く近付くと、衛兵の口を塞ぎ喉を一閃。鮮血が篝火の前に影となり吹き出した。


 静かに歩廊の床に倒された衛兵の身体が、ビクッビクッと痙攣している。


(ああ……! ごめんなさい、私がうまく立ち回れないせいで……!)


 殺害の場面を目の当たりにしたシエルは、衝撃のあまり息苦しさを覚え、拳で心臓を上から押さえた。そうしている間にも、残り二人の黒装束が歩廊に立つ。


 そこから先は、男たちの独壇場だった。


 目の前で繰り広げられる殺戮に目眩を覚えながら、シエルは男たちにできるだけ近付く。男たちの会話の中に、もしかしたら何か重要な情報が含まれているかもしれないからだ。


 男たちの足は速いが、騒がれないよう静かに衛兵を倒していく為、辛うじてシエルも追いつくことができた。


 歩廊から中庭に下りる階段の前で、男たちが小声で会話を交す。


「しかし、王子殿下の言葉は本当にあてになるのか?」

「分からん。しかし、悠長なことを言っていられないのは事実だ」


 男たちの言葉に、シエルは目を見開く。


(殿下――? え? この人たちは、王子殿下の配下の人間なの!?)


 この国、ヤーバルツ王国には三人の王子がいる。まさか、その中の誰かがリュスに恨みでも持っているのだろうか。だが、このような地理的に重要なアルバインを守るリュスを暗殺するなど、国を危険に晒す行為に等しい。そんな愚かしい行為を、仮にも王子ともあろう者が軽率に行なうだろうか。


「急がねば、我が国はもう終わりだ。ここで見つからなくとも、いずれにせよ見つかるまではヤーバルツ内を探すのが我々の任務だからな」

「まあ足がかりにはなるな」


 別の男の言葉に、シエルは心の中で首を傾げた。……この言い方だと、彼らはヤーバルツの人間ではないようにも聞こえる。


(まさか……ルヴァニトからの刺客なの!?)


「御託はいい。急ぐぞ」

「はっ!」


 一番体格のいい男が、残り二人に短く伝えた。


(やはり彼らは誰かを探しているのだわ。それも、恐らくは他国の王子の命令により)


 でも、一体何の為に――?


 分からないまま、シエルは男たちの後に続いたのだった。

次回投稿は木曜日(8/17)の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 何とかしてリュスに伝えられればいいんだけど……!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ