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あの扉の向こうから。  作者: えりこ
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踏み出す者

 私と興竜は王宮に降り立つ。輝くように真っ白な大理石の床と柱。見渡す限りに金銀宝石が散りばめられている。あまりの豪華さに目をみはっていると、奥の間から漢服を着た数人の女たちが出てきた。先頭を切って歩いている人がおそらく一番身分の高い人だろう。彼女たちは横一列に並び、私たちに恭しく頭を下げる。

「ようこそいらっしゃいました。」

っ…。そっか、私は予言の乙女だからこんな対応をされるのか…。明日香は思わず戸惑ってしまった。もし、この人たちが私が何もしてあげられないと知ったら落胆するだろうなあ。こんなに丁寧に私を扱ってくれなくかもしれない。この先のことを思うと心が暗くなる。

「おう、こいつを頼む。明日香っていう名前だってよ。じゃあ、あとでな。」

と私の心境とは裏腹に朗らかな表情で興竜はすたすたと奥の間に消えていった。

「え、ちょっとまっ…。」

「明日香さまは私たちでお召し物を整えさせて頂きます。」

と、興竜が入っていった部屋と反対側の部屋にきらびやかな服装の女たちに案内されることとなった。


 はあ、苦しい…。引きずるほどに長い裾と吐き気を催すぐらいにきつく締められた帯。漢服ってほんとに着心地悪すぎでしょ。王との謁見を控えているためか冷や汗と震えが止まらない。周りを見渡しても興竜はおらず、知っている顔はひとつもない。官吏らしき何人かはすごく機嫌の悪そうである。明日香は心細く、そして怖かった。

 「王のおなーりー。」

その声と共に周りは一斉にその場で跪く。明日香も慌ててそれに倣う。数段高いところから衣擦れの音がし、堂々と歩く足元が見えた。

「面をあげよ。」

あれ?この声どっかで聞いたことある…。明日香は恐る恐る顔を上げる。

「えっ…。」

と思わず声を上げてしまった。それを見た王はニヤリと笑ったように見えた。王の顔を見た瞬間から、全ての思考が停止した。…王はなんと興竜にとてもよく似ていた。こっ興竜…?!?それとも別人?!?どっどっち?!目を白黒させる明日香をよそに、王が口を開いた。

「明日香という者、待ち侘びておったぞ。よくいらした。…どうした?何か気になることでもあるのか。何でも申してみよ。」

「…おっ恐れながら、陛下があまりにも興竜に似ていた者で驚いていたのです。」

すると、さっきまでは威厳漂う落ち着いた王の顔が歪み、お腹を抱えて笑い始めた。

「ふっははは…。だよな。すまん。お前を騙していて悪かった。俺はさっきまでお前といた興竜であり、隆光と言う名の王でもある。…いやあ、ただでさえ剣士の数は少ない上に、あいつらちょっと頼りねえから俺が自ら剣士としてお前を探しにいったのよ。剣に関しては俺が一番強いしさ。みんなに内緒でな。」

じゃあ私はさっきまで王と旅してたってこと??そんなことして怒られないのかな。

 すると、さっきまで機嫌の悪そうだった官吏たちが顔を真っ赤にして怒り始めた。

「主上!!どんなに強くてあなた様は一国の王なのですよ!!行動には責任を持っていただきたい。主上に何かあったらどうするんですか!」

「まあまあ、そう怒るな。自分の身ぐらい守れる自信はあったんだ。それに俺は国民と乙女を思って、積極的に行動したつもりなん…。」

「そうは言ってもですね。いいですか、主上、…」

呑気そうな表情の興竜と怒りの表情の官吏たち。その対比が面白すぎて体の緊張が一気にほぐれた。ここでなら気楽にやってけそう。

「…とりあえず本題に入るが、明日香は予言に出てくる勇者については知らないらしい。」

すると、どよめきが起こった。知らないだと…?せっかく期待してたのに…。そう官吏たちが言っている気がした。

 ほんとにごめんなさい。こんな私で。涙がこぼれそうになる。

「明日香、別にお前のせいじゃない。…どうだ。何か良い意見のある者はおらぬか。」

 周りで議論が始まる。

「乙女が勇者なる者を連れてくるのではなく、連れてきた者が勇者となるのでは。」

「なるほど…。」

「では、勇者は誰でも良いと言うことか。」

「それは考えにくいな。」

「時ヲ巡リテ、と予言にあるから勇者を未来や過去から連れてくるってことではないのか。だが、今の明日香殿に時を移動することなどできないだろう。」

「普通の女の子であるからなあ。」

一瞬、周りが考え込む。もし、私にそんな超能力があれば…。

「秘宝の扉を使えば良いのでは?」

としばらくして官吏が沈黙を破った。

「なるほど…、それを使えば誰でも時を移動できる。何か手がかりがあるかもしれない。」

王も含め官吏たちはうんうんと頷いている。

ん…?秘宝の扉って何だろう。私がその扉を潜って過去とか未来とかに行くってことってことかな。なんかやっぱ異世界って感じだなあ。

 そんなことを思っているうちに大きなものが運び込まれてきた。白い布で覆われているため中身を確認できない。隆光こと興竜が階段を降り、扉へと近づく。そして、ゆっくりと布を外した。

「明日香、これが秘宝の扉と言われるものだ。これを潜れば現在過去未来、どこへでも自由に移動できると言われている。」

これって…。その扉は明日香が山登りをしていてケーブルカーに乗ろうとしたときに見た扉だった。そして、明日香が何者かによって突き落とされたときに潜った扉だった。唯一あの時と違うところは、傷や汚れが少なく綺麗な状態であることだけだ。

「興竜…、私がこの世界に来た時この扉を通ったよ…。」

「そんなはずはない…。」

周りがざわめく。この扉はだいぶ昔に一回使われたという記録があるだけで、長年使われていないらしい。

「でも、私が潜ったのは絶対にこの扉だった。」

なぜか明日香には確信があったた。あの時の扉はこの扉だったと心のどこかが告げていた。ゆっくりと扉の取手に手を伸ばす。手首を捻って押し開ける。 

 向こう側は霧のように靄がかかっていてよく見えない。

「言い伝えによると、取手を握っている人に最も適した場所に連れて行ってくれるらしい。」

興竜の声がとても重々しく聞こえる。今の私に最も適した場所…。いつどこに行くかもわからないところに行って勇者なる者を連れて帰らねばならないのか…。

「事態は深刻だ。今すぐ出発してもらいたい。」

と不安でいっぱいの明日香をよそに官吏の一人の一言が冷たく聞こえた。心の準備ができてないのに。

 その時温かい大きな手が肩に置かれた。

「大丈夫だ、明日香。お前ならきっとできる。お前は自分のことを無能で不甲斐ないと思っているみたいだが、別にそれがダメなわけではない。むしろ、多くの欠点があるからこそ、大きく成長でき、高くまで羽ばたいていけるものなんじゃないか。だからこそ、人生は面白くて豊かなものになると俺は思っている。お前は隠れた素質があるから乙女として選ばれた、気楽にいけ。化け物を倒した時みたいな勇気と自信がお前にはある。それらを最大限に生かし、無事成し遂げてみろ。その暁にはきっとお前はかつてよりも大きく羽ばたいているに違いない。その時まで俺はいつまでもどこまでもお前を信じて待っているから。」

 興竜…。あなたのおかげで勇気と自信が出てきたよ…。明日香は目に涙をたたえながら扉へと足を踏み出す。

「ありがとう。待ってて。」

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