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あの扉の向こうから。  作者: えりこ
3/7

もがく者

ああ、私死ぬんだ…と、耳元で風がゴーゴー鳴り響く中でぼんやりと思った。死ぬ時って痛いのかな、苦しいのかなあ。目をぎゅっとつむり、地面と激突したときの衝撃を待つ。あまりの恐怖に気を失った。


 

 気がつくと、目の前は澄み切った青空が広がっていた。

 あれ?全然身体が痛くない…。ってことはさっき突き落とされた時に死んで、天国にいるとか?いやいや、ただいつもみたいに家の庭に寝そべっていて、めっちゃリアルな夢を見てた可能性もあるけど…。

 明日香はとりあえず起き上がって、辺りを見渡し、自分のいる状況を把握しようとした。

 しかし、なんと視界に飛び込んできたのは天国にありそうな花畑でもなく、家の庭でもなかった。明日香は乾燥しきった荒地のど真ん中におり、遠くにはさっき扉から見た家と干からびた田んぼのある風景が見渡せたのだった。

 えっ?どどっどういうこと??てか、ここどこ??夢はまだ終わってないの!?それともガチで現実??現実ならあの高さで落ちたら命はないだろうに。明日香は骨折どころか、かすり傷さえないのだ。試しに頬を思いっきりつねってみる。ちゃんと痛い…。

 頭の中はかつてないほど混乱している。ただ一つはっきりしているのは、ここが知っている土地ではないということだ。つまり、あの扉から遠いどこかの場所にとばされたということになる。とりあえず、人に聞いてみようと思い、明日香は人を捜しに集落らしき方へと足を向けた。


 だんだんと家々や田んぼに近づくにつれて、この土地の異常さがわかってきた。家は木造で、茅葺き屋根になっている。しかし、壁には穴が空き、屋根も風で吹き飛びそうなほど傷んでいる。しかも、半袖でも快適なこの時期に田んぼには水さえもないというのはおかしすぎる。明日香はこの光景に呆然としながら歩く。 

 ひとつ目の家を通り過ぎ、そろそろ人に会えるかなと思い始めたとき、近くの木の下で動くものが視界に入った。なんと布の塊が動いていた…!思わず後退りながら、よくそれを見ているとそれがボロボロの布にくるまった女性であることがわかった。髪の毛は白髪混じりで、布の間から見える足は折れそうなほど細くて骨が浮き出ていた。その時、その人が目を上げたので、明日香と目が合った。目はぎょろっとしており、その目は黄ばんでいた。生きる気力をなくしているのか、なんの感情も感じられなかった。明日香はおぞましいものでも見たかのようにゾッとした。今すぐにもここを離れたくなり、ゆっくりと後ろに下がろうとしたとき、その人が明日香の服の裾を掴み、声を発した。その人を振り切って逃げるのは流石に失礼だと思い、

「はい?どうしました?」

と早く立ち去りたい気持ちを抑えて聞いてみた。その人は必死の形相で

「○%×$☆♭#▲!※」

と絶対に日本語ではない言葉を喋った。う、嘘でしょょおお?!?!日本語じゃない?!?!あまりの衝撃に気が動転して恐ろしく感じ、明日香は思わず「ごめんなさいっ!」と言って走って逃げてしまった。日本語を喋れる人を早く見つけて安心したいという気持ちでいっぱいだった。そこら中を走って巡り、人を必死で見つけようとした。家はたくさんあるのに、日中であるにも関わらず歩いている人が不自然に少ない。冷や汗が吹き出す。

 ようやく人を見つけた。その人は家の壁に寄りかかり、服は破れて裸同然の格好で、手には何か小さなものを掴んでいた。

「すみません。ここってどこですか。」とその人と少し距離をとって、恐る恐る聞いてみる。反応はない。もう少し近づいてさっきよりも大きくはっきりとした声で話しかける。

「あのー、すいません!」

反応なし。おかしい。心臓の鼓動がより一層速くなる。さらに一歩近づこうとした時、その人が手にあるものが何かがわかり凍りついた。腐敗してかろうじて原型をとどめているが、あの形はどう見てもネズミの死骸だった。そして、その人の目は完全に死んだ人の目だった。恐らく、立ったまま事切れたのだろう。

 明日香は悲鳴をあげながら全力で走った。

いやだ!いやだ!早く家に帰りたい!お母さん、お母さん、助けて!誰でもいいから助けて!とりあえず、さっきの場所まで戻ろうと全力で走る。突き当たりを右に曲がって、あとはまっすぐ行けば…。

 明日香は角を曲がった。そして…この世のものではないものを見た。体長二メートルぐらいのナマズのような、ヒルのような紫がかった黒いぬるぬるとした生き物がこちらに背を向けているのである。そして、その生き物の下からは人間の足が垣間見えた。た、食べてるっ?!明日香はあまりの恐怖でその場から動けなくなってしまった。そして、その生き物がゆっくりと振り向いた。触手が、クネクネと動いている。その口からは血が滴っている。そしてこっちへと触手を伸ばしてきた。

「ぎゃゃあーーーー!」

逃げようと方向転換しようとした。その時、足元の石につまづいてうつ伏せに転んでしまった…!背後からは生き物の黒い影と血の匂いが迫っていた。


 


 



 

 

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