9,それでも俺は
「リズ、俺はお前が好きだ」
言った瞬間、ものすごく恥ずかしくなる。
大の男がこんなことで真っ赤になるなんて情けないことだが、これは一世一代の愛の告白なのだ。
リズの青い瞳が俺へと向けられる。
彼女はまるで信じられない言葉を聞いたかのように固まり、そして、
「…………ありがと。ずっと、思う存分使って」
違う。
彼女の歪んでしまった心には俺の告白が真っ直ぐに伝わらなかったようだ。
俺が言いたいのはそういうのじゃない。もう一度想いを言葉に乗せる。
「あのな、リズ」
「――?」
「俺はさ、お前を嫁にしたいとそう思ってるんだよ」
沈黙。
人形のように固く引き締められた唇が、少しだけ震えたのを俺は見逃さなかった。
「……妾にするの、構わない。好きにして……」
「妾じゃない。正妻だ。――好きにして、いいんだな?」
俺はそっとリズを抱き寄せる。
ああ、なんて小さい体なんだろう。でも彼女はとても温かくてそれだけで幸せな気分になる。
俺はそのまま驚く彼女に顔を近づけ、唇を押し付けた。
甘くとろけるような恋の味がする。
俺はずっとこれを待ち望んでいたんだ。そんな風に思った。
「リズ」唇を離すと、そっと彼女の名前を呼ぶ。
他の不安とか邪念は一切なく俺はリズを見つめる。
今この瞬間は、目の前の震える少女のことだけを一番に考えたいのだ。
「……っ。わたし、奴隷。ご主人様の妻になるの、迷惑……」
「ちっとも迷惑じゃない。パーティーでだって、王女様に引けを取らない美人だったろ?」
「――でも」リズは俯いた。「幸せになれない、奴隷のルール。わたし……許されない」
「許す。俺が全部許す。お前が奴隷なのはわかってる。それでも俺は、」
――ああ、恥ずいな。
「お前と一緒に幸せになりたいよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リズの頬が赤く染まるのを俺は見た。
まるで、年頃の少女のように。
いいやリズだって本当は立派な乙女なんだ。
いつも人形のような顔を見せつつ、俺に代わって雑務を行って俺を支えてはくれているけれど。
「幸せに……なっても」
「いい。嫌でも俺がさせてみせる」
「父さんと、母さんと、兄さんに捨てられたこんな女でも……?」
「ああ。リズ、俺はお前に一目惚れして、それからずっとゾッコンだ」
今度は頬にキスをしてやる。
リズは不安そうに俺を見上げながら言葉を続けた。
「……。本当の、本当に? もう打たれない?」
「こんなに可愛い女の子を鞭で打ったりするわけないだろ。もしも誰かがお前に鞭を振るうようなことがあったら、俺がそいつをぶっ叩いてやるよ」
「奴隷、人になる資格ない。人になっていいの……?」
「奴隷だって人間だろ。道具じゃないんだからさ。リズは間違いなく人間だよ」
ああ、もうこいつは。可愛すぎるだろ。
俺は旅芸人の女をふと思い出す。リズの母親だという彼女は、輝かしい金髪の美女だった。けれどもリズの愛らしさはそれを簡単に上回っている。
……俺の妄信的な愛と言われればそれまでだが、構うものか。
リズには人間として生きていってほしい。いや、当然のことなのだけれども。
もう何も嫌なことはないんだと、声を大にして。
「お前はたった今から奴隷じゃない。リズ、俺の嫁になってくれ」