6,リズは金運の女神様!?
例の社交パーティーの件は大きく噂になったが、しかしお咎めなしだった。
あれはイラーザ王女の暴走ということになったわけだ。
リズについては色々あることないこと囁かれたらしい。が、俺にとってはどうでもいいことである。
――あれから数ヶ月。
俺はいまだにリズの笑顔を見ることができていない。
楽しい話を聞かせたり、領地を一緒に巡ったりした。
けれど彼女は眉一つ動かさず、人形のような整った顔で俺を見つめるばかり。彼女の心を開く方法がわからぬままに月日は過ぎる。
だが、そんな中で一つ朗報があった。それはずっと失敗続きだった領地経営が上向きになったこと。
実はきっかけとなったのはリズだった。
リズが書類整理をやっていた。
俺が慌ててそれを取り上げると、リズが不思議そうな目で俺を見てくる。
「書類整理は俺の仕事だ。間違ってもリズの仕事じゃ……」
言い終わらないうちに俺は息を呑むことになる。
だって、俺がやるのなんかよりずっと綺麗にしっかりとまとめられていたからだ。
リズは前に仕えていた他国の屋敷で、こういった仕事を任されていたらしかった。
もちろん給料などなく、少しでも間違えれば鞭でしばかれる。そんな中で否応なしに鍛えられた彼女の能力は凄まじいもので。
だから全部リズに任せることにした。どちらにしてもこの領地が終わっていることはわかっていたから。
でも……俺の領地は、あっという間に潤い始めた。
税金の管理、土地の管理。
住民の不満を整理しそして対処する。
無能な俺にはとてもできない所業を、一人でやってのけるリズ。
気づけば俺の男爵領は、かなり裕福になった。そんじょそこらの下級貴族には負けないくらいになったのだ。
「リズ、お前天才だな! 金運の女神様じゃないか!?」
「…………わたし何もしてない」
いやいやしてるだろ、色々と。
もしリズの力がなければ今頃俺は爵位返上になっていたところだ。本当にリズ様女神様。
俺はそんなことを思いながら、だが、不安視していることがある。
リズを狙って貴族たちが次々と俺の屋敷にやって来る。俺の領地がうまくいっているのがリズのおかげだとあいつらも気づいたんだろう。
設定上は養子……養子か? とりあえずこの屋敷に預けられた、ということになっているので、求婚者も多いこと多いこと。
それを追い払うのに丸一日がかかる時もあるくらいだ。いい加減なんとかしなきゃな、と俺は思っていた。
でも、どうやって?
自分からは何も喋らない、俺のことを信用しているはずもない女奴隷。
そしてそれにぞっこんになっているだけの馬鹿な男爵。
二人が結ばれる方法などあるのか?
俺にはわからなかった。
このままではきっとリズの幸せのためにはならない。
でも……でも俺にリズを手放せる勇気なんてなかった。金運の女神様が消えた瞬間、俺は没落貴族に逆戻りなのだから。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうやってダラダラ日々を過ごしていたある日のこと。
俺はふと思いつき、リズに言った。
「あのさ。今度旅芸人が来るらしいんだが、一緒に観に行かないか」
「…………。旅、芸人?」
「そうだ。楽しいって噂だぞ。なあ行こう」
パーマの金髪を揺らし、リズは黙って頷いた。
今度こそ。今度こそ成功させて、彼女を……!
しかし俺は気づけない。
リズがどこか悲しげな目をしていることに。