4,ドレスを着せてパーティーへ
「今度パーティーがあるんだが、そこへ出てみないか」
「……?」
ある日のこと。
俺の突然の発言に、リズが掃除をしながら相変わらずの無表情な顔で振り向いた。
「パーティー。知ってるか?」
「……知らない……かな」
パーティーも知らないんだな。
まあそれも当然か。礼儀と言っても奴隷の礼儀しか知らぬ彼女のことだ。
俺は自信たっぷりに笑った。
「じゃあパーティーで大不人気の俺こと男爵様が教えてやろう。パーティーというのはな、祭りのことだ!」
「…………」
沈黙しないでくれ。恥ずかしいだろう。
俺は気を取り直し、今度のパーティーの説明を始めた。
いわゆる社交パーティーである。
女衆は着飾り、男は女とダンスを踊る。そんなとても楽しい時間だ。
が、俺には女縁というものが皆無だから、踊る相手がおらず毎回手持ち無沙汰だった。しかし今回は、
「リズ、お前がいる。だから俺は困ることなどないのだ!」
まただんまり。
本当に感情というものがないのだろうかと思える人形めいた顔に、彼女はまるで関心を持っていないのだろうと俺は思った。
だがしかし、俺は仮にも主人だ。だから、
「お前もそのパーティーに出席すること。わかったか?」
リズは無言で頷いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
本来、社交パーティーは貴族だけの場所。
決して従者、それも奴隷などが入っていい場所ではないのだが。
「バレなきゃいいさ。バレなきゃ」
そうして俺は早速準備を始めていた。
相変わらず借金まみれな俺だが、ドレス一着くらいならギリギリ用意ができる。小柄なリズに合わせ、子供用のものを仕立てた。
「着てみろ」
「ん」
晴れ空のような青いドレスを身に纏ったリズは、まるでどこかの貴族令嬢だった。
顔などはこの上なくいいし、食事をきちんと摂るようになったおかげでスタイルも抜群。俺は言うまでもなく、彼女に惚れ直した。
「可愛いな。お前、どこかの貴族の生まれじゃねえのかって思うくらい可愛いぞ」
「…………」
また無表情を返される。
けれどこれがきっとパーティーの時には笑顔に変わる。自分が美しいのだと、皆に羨まれる存在なのだと思えばきっと嬉しくなるはずだ。
俺はそういう意図があって、パーティーに彼女を連れて行くのだ。
「髪を整えてある程度の礼儀を仕込めば完成だな。社交界に出しても恥ずかしくないようにしてやるからな」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
マナーやら何やらの特訓を終えて、いよいよパーティー当日がやって来た。
青のドレスを揺らし、金色の髪を靡かせる少女。彼女は俺に手を引かれ、古めかしい馬車に乗せられる。
「ごめんな、古い馬車で。新しくて高いのは全部売っちまったから」
「……ん。ご主人様が御者、する?」
「そうだ。御者も解雇しちまったからな」
今は、屋敷には俺とリズしかいない。庭師もメイドも執事も御者も、解雇、解雇、解雇の嵐。
今頃別の貴族の屋敷で働いてるんだろうなあ、あいつら。
そんなどうでもいいことを考えながら、俺は御者台へ。
うまく運転できる自信はないが、ある程度は練習している。少なくとも事故らないとは思う。多分。
「リズ、いいか?」馬車の中へ声をかけた。
返事はない。恐らくは問題ないということだろうと捉えることにし、俺は屋敷を出発した。
貧乏男爵が、謎の美少女と社交パーティーに現れたらどんな顔をされるだろうな。
まあいいか。とにかくリズが笑ってくれれば、それで。




