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3,奴隷癖

「なかなか奴隷癖が抜けないな……」


 俺は頭を抱えていた。

 もちろん、その原因は金髪美少女奴隷――リズについて。


 食事も相変わらず床で食べようとするし、寝る時なんて部屋の隅っこでうずくまる始末。

 この屋敷ではそんな必要はないのだと言っても彼女は「……これ、普通のこと」と言ってあまり理解してくれない。


 うーん。どうしたものか……。


 それより何より一番気がかりなのは、口数が極端に少ないことだ。

 こちらが問いかけをしないと答えない。自発的な会話は、一週間ほど一緒にいるが一度もない。


 よほど厳しい奴隷教育をされたに違いない。

 この国ではあまり奴隷を見かける機会は近年少ないが、歴史の書物などを見ていると奴隷の『獣以下の扱いが当然』というルールは知っている。


 でも俺は、リズを前にしてそんな冷酷になれるはずもない。

 服を着せ、温かいご飯をきちんと机で食べさせてやり、そして自分で話せるようにしてやって。

 そのうちきっと、この目で笑顔を見るのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「リズ、おはよう」


「…………おはよう」


 いつも通りの朝。

 俺が目覚めて居間へ向かうと、すでに彼女が料理を並べて待っていた。


「今日も美味そうだな」


「……」


「って、皿はテーブルの上に置けって言っただろ!」


 また床に置いてやがる。まったくこいつは。

 そう思って怒鳴りつけると、リズは表情を変えず微動だにしない。そして、ぺったんこな尻をこちらへ向けてしゃがんだ。


「どうしたんだ?」


「……鞭の姿勢」


「は?」俺は思わず声を漏らしてしまった。

 こいつは自分が鞭で打たれるのを待っているのか? そういうことなのか?


「あのなあリズ。いいか?」


「――?」


「俺はお前を打ったりしないし、痛めつけるつもりもない。タダ働きしてくれりゃそれで充分なんだ。できれば人間らしい生き方をしてほしいと思ってる」


「打たないの? ……変なの」


 リズは表情を変えないものの、おかしなことを言われたかのようにほんの少し首を傾げた。


 そんなに彼女の前の雇い主が無慈悲だったのか。

 いいや、前の雇い主だけではないのだろう。奴隷というのはすぐに主人に手放され、色々な環境を転々とするのが普通だと聞いたことがある。

 つまり彼女はどこでも酷い扱いを受けたというわけだ。


 俺はそう考えて、ひどくリズを可哀想に思った。

 名前もなく、食事をテーブルで食べることすら許されず、半裸で、鞭で打たれるのが普通。

 こんなのがこの世の中にあってたまるだろうか。いいや、いいはずがない。


 まだ小さい、歳のわりに本当に小さな少女だ。

 平民であれば育ち盛りであろうし、貴族ならば婚約者がいて当然の華の年頃。なのに彼女は心を凍らせて、まるで人生を諦めてしまっているように見えた。


 当然かも知れないな。奴隷として生きていくにはきっと、無感情にならなければ心が壊れてしまうだろうから。


「リズ」


「……ん?」


「俺がお前を絶対に幸せにしてやるから。そりゃ男爵家(うち)だっていつ破綻して爵位取上げになるかわかったもんじゃないが……平民落ちしても俺は構わないと思ってる」


 ああ。俺はなんと愚かだろう。

 こんな女奴隷に恋をして、馬鹿みたいだ。


 リズが僅かに目を見開いたように見えたのは気のせいだっただろうか。

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