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2,食事のマナーを躾けてやる

 俺はリズにまず、それなりの服を与えてやった。


「これ着ろ。その格好も魅力的だけど目に毒だから」


 使用人に着せていたメイド服だ。

 けれどそれを受け取ったリズは、ちっとも動こうとしない。


「着ろって」


「――――――?」


 微妙に小首を傾げて来た。

 俺の言葉が理解できていないのか? 難しいことを言ったつもりはなかったのだが。


「だから着ろ。その格好じゃあれだろ」


「……これ、奴隷服、わたしの」


 相変わらずの機械的なカタコトで問いかけてくる。

 もしかして、いや恐らく、彼女は今着ているボロ服以外に袖を通したことがないのだ。


「もうその服ボロボロすぎるだろ。これが新しいお前の服だ。わかったな?」


「……ん」


 するとすぐさま、リズは服を脱ぎ出した。その場で。

 俺は「うわあっ」とか情けない声を出して、慌てて視線を逸らす。


 危ない危ない。うっかり彼女の裸体を見てしまうところだった……。

 いくら奴隷とはいえ少女は少女だ。然るべき時まで見てはならない物もある。


 俺はふと思った。頼めば、今すぐにでも『然るべき時』を作ることができるのではないか。

 でもすぐに首を振る。それじゃあ意味がないじゃないか。


 正直に言おう。

 俺はリズに惚れた。それもぞっこんだ。

 どうしても彼女を手に入れたい。でもそれは命令なんていう形でやりたくないのである。

 リズに笑顔になってほしい。それで、俺のことを好きになってもらいたい。


「なんだろ。さっき出会ったばっかりなのにな」


 今まで社交界で美女を遠目に見るだけだった俺にとって、彼女の姿はあまりにも眩しすぎた。

 俺って超単純。


 どうやらメイド服に着替えたリズが、俺のことをじっと見つめていた。


「好きにしていいぞ」


 そう言ったが彼女は動かない。

 そうか。何か命令しなきゃ何もできないのか……。


「じゃあそうだな。料理作れるか?」


「ん。作れる……けど」


「なら作ってくれ。俺は料理下手くそだから」


 最後の使用人を解雇してからこの数日間、俺は領民から納税として支払われる米だけで生きて来た。

 俺は手料理など作ったことがないのである。一度やってみたがとんでもない味だった。

 ので、作れるというのなら非常にありがたい。俺はリズを厨房まで案内した。


「――――」


 リズは黙ったままで調理を始める。

 俺はその端正な横顔を、じっと眺めていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「こら! 床に這いつくばって食べるな! 美少女っぷりが台無しだろうが!」


 俺は怒鳴っていた。

 料理が出来上がったはいいものの、リズが自分の皿を地面に置き、まるで犬のようにして食べ始めたのである。

 これは恐らく奴隷教育の賜物だろうが……行儀が悪いにも程があるだろう。


「……これ、普通」


「お前にとっちゃ普通かも知らんが、机の上で食べろ。床が汚れるし」


「わたし、汚さない」


「汚さなくてもだ! とにかくマナー違反なんだよ」


 相変わらずの空虚な目は、無理解の色をしているように見える。

 俺は大きくため息を漏らした。


 食事のマナーすらいちいち指導してやらねばならないらしい。

 これでは赤子ではないか……。こんな美少女な赤ん坊がいてたまるかよ。


 皿を机に置き直すと、俺は、彼女を椅子に座らせた。


「食べろ。遠慮することはないから」


「――。それ、命令?」


「う……、そうだ。命令だな」


 食べなきゃ死ぬし。

 見たところ、リズの体は少しだけ栄養不足のように見えた。普通より胸や尻の肉具合が……おっと、これは言い過ぎか。

 まあいい。とにかくいただくとしようか。


 年齢は分からないが、恐らく十五、六。

 人生の大半を奴隷として生きて来たであろうこの少女に教育を仕込むのはなかなかに大変そうだ。


 それでも俺は、彼女をしっかり育て上げようと思っている。

 だって将来……妻にしたいという野望すら抱いているのだからな!


 だからまともに食事くらい取れるようにならないと困る。

 こんな人間的な、普通の食事が当たり前になって、そしていつかきっと。


「美味いか?」


「…………」


 ただただ沈黙を貫き、もぐもぐと口を動かすリズ。

 その表情を見ても何も感じ取れない。まるで何も考えていないかのように見えた。

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