Guess where :)
汗。皮膚の穴は数限りない。そこから、ふつふつと、止めどない。噴き出した液滴が重なりあい、小指の爪の半分もない大きさになったところで、垂れた。
繰り返される分泌は、代謝を即物的に理解する手助けとなる。からだの奥底で、酵素が蠢いていることの結果を把握する。
尻に敷いたマットレスの反発を、忘れかけているのは、長いことその場に留まっている証である。
砂粒の不可逆的な運動は、そのまま沙也加のこれまでを具現化しているようでいて、その実他の人間に対しても該当する法則なのだという当たり前さに、居心地が悪い。
ノーメイクの肌の露出から、顔は活力にみなぎっている。ただし、途方もなく痒い。癪に障る。
本来であれば、砂の往復が二回残しているタイミングで、外気に触れることは(あくまでも沙也加の見解として)禁忌とされていて、想像しただけで後ろめたさを否めない。
忸怩たる思いに縛られる手足を、その生来頑固な精神に語りかけることで被っていた帽子をかなぐり捨てる形で以て緊急脱出を試みるに至る。
ドアの解放はすなわち恒常性維持機能の再生を促すものであるから、刹那に呼吸が酷く軽くなるのは頷ける。
「走らないでください」
用務員は裸足でステッキブラシをかけている。だからどうしたと言わんばかりに沙也加はなおも韋駄天のごとく目的地へと馳せるのだ。
泉の淵が視認できたところで、柄杓で水を汲み上げる。もちろん走り続けているから、動作に淀みなし。
頭から被る清水は、万物を律する作用を秘めているのであろうか、まるで稲妻のように脳を揺さぶる。
決して立ち止まらない。行け、行くんだ沙也加。己を鼓舞して待ち受けるのは四度の魔境。
大股で、脇目もふらずにジャンプする。
重力に引き寄せられる。踵から順に密度最大の衝撃が体内を駆け巡る。
くふう。涎が漏れる口の端から垂れ流す。自然に身を任せることこそ至極の快楽を産むのだ。
「我、整ったり」
目を閉じて広がる暗黒のなかの暗黒。超絶ブラックマターに侵食された網膜に反比例する脳で弾ける閃光のまばゆさよ。
だらりと思考放棄していた毛穴たちは身を引き締めて整列している。毛穴どころではない、沙也加を構成するあらゆるすべてを包括していた。
痒い顔面に付着していたミネラルは、照明を乱反射させる水面に溶けていく。
厳しい視線を送りつけてくる用務員など、沙也加の世界にとってなんら影響を及ぼさない、微々たる要素の集合にさえ値しない。
君がそこでせこせこシャンプーを詰めていられるのも、客である沙也加が大枚はたいて繁く通うことの賜物である暗黙の了解を忘れてしまう理由にはならない。
大開脚し、後頭部から沈んでいく。口から泡を吐いて眼球に水の膜が覆われる痛みに笑う。
そう言えば、四度ではなくて十度だったらしい。備え付けの温度計にはそのように表示されていた。しばらく風に当たったら、三回戦といこうじゃないか。
(了)




