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悲劇のはじまり

ある事件が起きてからイスラーンの街は変わってしまった。


活気溢れる街の音も人の笑顔も消えた。

代わりに、銃撃音やサイレンの音がする。


国外へ避難する人。武器をもち戦う人。故郷を離れず耐え生き抜く人。


そして、毎日きていたノアからの連絡も途絶えた。


…………


事件の日


リリーはいつものようにアルバイト先のカフェへ向かう準備をしていた。

昼からの出勤なので、ゆっくり支度をする。

窓を開けて、イスラーンの賑やかな街の音を聞きながら準備をするのが日課だ。


「今日は何を着ていこうかな..」タンスにかかっている洋服たちを眺める。


すると外から突然大きな音がした。


バァァァァァァァン


何?!車の事故?!

リリーは窓から外をのぞくと、パルミラ城の方から煙が見えた、


その後も続いて激しい音が聞こえる。


銃撃音だ。


リリーは急いで窓を閉じてカーテンをかけた。

「何事..?」


するとドンドンとドアを叩く音がした。


「フェリスよ!リリー。大丈夫??」


隣人のフェリスがやってきた。

急いでドアを開けてお互いの安否を確認する。


ブラヒムさんは仕事へ出かけているようだ。


「何が起こっているんですか?」リリーはフェリスに聞く。


「ついに戦争がはじまるかもしれない..」フェリスが暗い顔をしてボソッと呟いた。


ついに……?


それからフェリスは口を閉じて何も話そうとしなかった。

私が外国人だからだろうか。


住民は地下にあるシェルターへ向かい、落ち着くまで待機となった。

ディルマさんがみんなの背中をさすっていた。


何が起こっているのか分からないまま、アルバイト先のソフィアに安否確認のメッセージを送った。


『ソフィア大丈夫?何が起こっているのかな?今アパートのシェルターにいます。

これからどうなるのかな?』


するとすぐに返事が返ってきた。


『リリー無事でよかった。外は危険だから出ちゃだめよ。カフェは落ち着くまでしばらくお休み。あなたの無事を祈っているわ。』


なぜ誰も教えてくれないの?


…………


あれから時間がたち、夜を迎えた。

銃撃音も止まり、住民たちはそれぞれ部屋に戻ることになった。


人がいなくなり、そっと私はディルマさんに声をかけた。


「今何が起こっているのですか?」


彼女は悲しく微笑み、部屋で話しましょうとディルマさんの部屋へ向かった。


温かい紅茶をだしてくれて、一口飲む。


沈黙がしばらくつづいたが、ディルマさんが口を開いた。


「この国はね偽りだらけなのよ……」小さい声で話し始めた。


――西の地域は5つの国からなり、独裁政権の長い歴史をもつことは知っているわね。


長く続く独裁政権により、経済格差や失業率、増税により苦しい生活を送る層がいる。

これまで我慢をしてきていたが、ここ数年民主化を求める運動が近隣の国で勃発した。

その国では、国民が武器をもち政府を戦う武力衝突が過激となった。


これまで西の国の中心であるイスラーンは沈黙を続けてきた。

失業率は近隣の国に比べると高くはないが、格差社会は変わらない。


生まれた環境によってこれからの人生が決まるのだ。


だがある事件をきっかけに、これまでの独裁政権への不満が爆発したのであった。


その事件とは…

ある青年が民主化を求め、政府に抗議活動を行っていた。

彼は施設生まれで、十分義務教育を受けることができず義務教育が終了後、生きていくためには働くしかなかった。

就職先も学歴重視で賃金が低く、大学卒業の後輩の方が高い賃金と役職をもらえている。


【この国に平等などない..教師になるという夢を追うことすらできない…】


そこで彼はソーシャルネットワークを使って国外へと訴えつづけた。


彼の想いは届き、国外政府が彼の記事をみつけニュースに取り上げられたのだ。

イスラーンの国民は、事実を告発した勇気ある青年に声援を送るようになった。


だがしかし、イスラーンの現状を知られたくない政府は、影響力をもつ青年の口封じをする。


青年は脅しに負けず、ひたすらネットに拡散していったのだ。


ついに政府は脅威である彼を殺害することを決めたのだ。

ザハルの日が過ぎた後、口封じのために放火魔を装い彼のアパートに火をつけ青年を殺害した。そのアパートは全焼し、青年を含め30名の市民が亡くなった。


この事件を聞いた国民は、悲しみとともにこれまでの我慢と怒りが沸点を超え、

彼を声援していた人々やアパートで亡くなったご家族や知人がデモを起こしたのであった。


「全然知らなかった…」リリーは背中に汗が流れた。


ニュースは毎日欠かさず見ていたし、町の人々やボランティア先でも国に対し、不満や悲しみを抱く人がいるなど感じ取れなかった。


「そうだろうねぇ。ニュースでは報道規制がかかっていたからさ..

外での政治への発言は禁句。どこで政府の犬が見ているからわかりもしないからねぇ。

この国は平和のように見えるが、一部の人間に支配されているのさ。」


私は背筋がゾッとした。

夢でみたことが現実に起こっている。私はここで生き抜くことができるのだろうか。


これまで体験したことがない銃撃音に戦争。


祖国へ無事帰国することすらできるのだろうか…

外にでたら殺されてしまうのではないか…



■■■■■


あれから街の経済は止まった。

かろうじてスーパーだけがやっていた。


街中に響き渡るサイレン。

少したつと爆弾が落ちた音がする

窓から空を見上げると数体のミサイルをもった小型機が舞う。


銃声、悲鳴が止まらない。

多くの住民が隣国へ避難し始めた。


アパートの住民たちは談話室に集まり、それぞれのもつ情報を共有する。

国を出るべきか。武器を持ち立ち向かうか…


隣にいたフェリスにブラヒムの話を聞いた。


「ブラヒムさんは今どうされているんですか?」


「私たちのために戦っているわ。」彼女は結婚指輪を握りしめブラヒムの無事を祈るように話す。


あれから反政府軍の組織の一員となり、革命運動とし武器をもち戦っている。

戦うことで自分の家族を守ることを選んだのだ。


「ブラヒムさんが心配ですね……」


「国のために戦う彼を誇りに思うわ」フェリスは悲しそうに微笑んだ。


………

ある日、ブラヒムがアパートに戻ってきた。


そこにはフェリスさんを溺愛するブラヒムさんの優しい表情はなかった。

険悪した恐ろしい顔だった。


「無事でよかった…」お互いにぎゅっと抱きしめる。


私の顔をみて、悲しい顔で微笑んだ。


彼はアパート住民に革命運動に参加しないかと勧誘しにきたのだ。

リリーにも声がかかったが断った。


数日後、違う反政府軍の人がきた。

勧誘がだんだん強制になり、革命運動派も市民を襲うようになった。


戦争は人をこんなにも狂わせる。


ブラヒムがアパートを出るとき、リリーは意を決し質問をした。


「ブラヒムさんはなぜ戦うことを選んだんですか?」


「生きていくためには、戦うしかないんだ。大切な家族を守るためも…」


「またいってくる。」ブラヒムは銃を背中にかけアパートを背にした。


あんなにも優しい人たちが一変した。


守るもののために戦うという。


だが、そのためには人の命を奪っていいのだろうか?


…………


私たち住民は、この場所も危ないことを悟り、隣国との境界線に建てられた避難場所に移動することになった。


深夜に車にのって避難する。

避難場所に向かいながら、ただただノアのことが忘れられなかった。


内戦が起きてから、返事が返ってこない携帯を握りしめる。

「ノア..」彼がどうか無事であってほしいと祈る。


どうしてあの時会わなかったのだろうか

なんでノアの言葉にきちんと向きあわなかったのだろうか。


後の祭りのように、自分の行動に後悔をする


どうか無事でいて…



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