再会
~ボランティアの日~
「いらっしゃい、リリーさん。今日もよろしくね!」
ボランティアの代表を務めるキリさん。
今日はある教会にきている。
児童養護施設にいる子どもたちが、週に3回、ここ教会にきて、読み聞かせや文字の勉強、宗教について学んでいる。
今日はそのお手伝いである。
「リリーお姉ちゃんこの絵本読んで~」
「お姉ちゃんは今私とお話してるの!」
「順番ね~」
はじめは外国人ということもあり警戒されていたが、子どもたちは徐々に心を開いてくれた。
ここにいる子どもたちは、普段は養護施設の職員の方々が生活指導を行っている。
両親がいない寂しさももちろんあるが、職員やボランティアの方々の愛情が子どもたちに届いているのだろう。
彼らの笑顔をみてそう思った。
「あー!!」ある男の子が教会の入り口にある男性をみつけ指をさした。
「ノアだ!!!」男性の名前をよび、子どもたちは男性のもとへ駆け寄った。
「ノアだ!」「久しぶり!」
「みんな元気にしていたか~。ちゃんと先生たちのお話聞いているか?」
しゃがんで子どもたちの頭をなでる。
子どもたちはノアに会えて嬉しそうだ。
「あの人、たしか…」
領事管理局でボランティア活動について紹介してくれた男性だった。
ブロンドヘアにグリーンの綺麗な瞳、印象的で覚えている。
ノアが私に気付き、近づいてきた。
「領事管理局の職員です。ボランティア活動に参加してくれてありがとう。」
「先日は紹介していただきありがとうございました。ここのスタッフさんなのですか?」
「いや、以前手伝っていたんだ。」
すると少し照れくさそうにノアは頭をかきながらこう言った。
「あなたと話がしたくて…この後空いているかな?」
「ええ!?…もちろん、大丈夫です。」突然のお誘いにびっくりしたが、ノアのことを知りたいとも思った。
その後スタッフ全員で子どもたちを見送った。
「また来るからね。しっかり復習するんだよ~」
その後片付けが済んだ後、ノアと一緒に近くのカフェで飲み物を買い、時計塔のある広場のベンチに座った。
……
「ここからは、お城がよく見えますね~」
「ああ。パルミラ城を撮影するのには、ここがおすすめだな。」
イスラーンを誇るパルミラ城は、とても美しく、まるで王子様とお姫様がいる世界のように見えた。
イスラーンは国王がおり、君主制国家である。
国王もまたある宗派の信者であるが、国民にその宗派を押し付けることはない。
2人の沈黙がつづいたが、ノアから口を開いた。
「まず自己紹介だな。北西のアルマン国出身のノアです。」
「シンの国出身のリリーです。」
2人は少し緊張しながら、ぎこちなく握手をした。
「リリーさん。以前貿易会社に勤めてなかった?」
「え!あ、そうです。」
「実は…」
リリーは貿易会社で働いていたとき、ダマスクローズのお土産をもらったことがあった。
そのお土産を手配したのはノアだったのだ。
取引先の社長さんと知り合いで、シンにはない珍しいものを贈りたいと相談を受けたとのこと。
「彼からリリーさんの話をたくさん聞いてよく覚えているんだ。」
「そうだったんですね。変なこと言ってないといいけど…。」
「いやいや。彼はリリーさんの素晴らしさを熱弁していたよ。」
「お恥ずかい…あ!贈り物、大切に使わせて頂いています。」
「ダマスクローズはイスラーンの生産地なんですよね?」
……
そこからお互いのお話をした。
ノアは大学生のときにイスラーンに留学し就職したそう。
そして領事管理局に勤務しながら、文化遺産の保護や砂漠化が進む環境問題にも取り組んでいる。
またイスラーンに留学しているときに、キリさんと一緒にボランティア活動をしていたそうだ。
「なぜイスラーンに?」ノアがふと質問をする。
自分がイスラーンにきた理由を言うのをためらった…
夢でみた景色をみたいなんて変に思われてしまう。
「えーと…文化に興味があって!」そう答えることにした。
「古い歴史があるからな~。そうだ。今度遺跡をみにいかないか?」
ダマスから3時間離れたところに砂漠が広がっていて、そこには遺跡があるそう。
調査にいくそうで、そこに同行しないかと誘われた。
「砂漠に遺跡…」シンにはない文化にとても惹かれた。
「ぜひご一緒されてください!」
……
時刻もあっという間に過ぎ、アパートまで送ってくれた。
「異国での生活、苦労するだろう。イスラーン在住歴の長い先輩にいつでも相談してな。」
そういい連絡先を交換した。
きっとノアさんは、困っている人を見捨てることができない人なんだろうな。
彼と話してそう感じた。
夢でみた男性はノアさんなのかな?
…………
「不思議だな…彼女のことをもっと知りたいだなんで。」
リリーのアパートに背を向け、ノアは夜空を見上げつぶやいた。
それからというもの、遺跡の調査に同行してから2人の仲は近くなった。
今では「リリー」「ノア」と呼び合うように。
休みが合えば、食事にいったり、ノアの調査に同行しながら日帰り旅行をしたり…
お互い外国人ということもあり、意気投合することも多かった。
ノアから見たイスラーンのことをたくさん教えてくれた。
だけど、フェリスさんが言っていた、「今は平和だけどね。」
この言葉の意味については教えてくれなかった。
「それはまた今度な。」笑って話をそらされた。
フェリスの言葉を聞くまで、夢でみた世界がくるなんて想像できなかった。
【イスラーン人は裏と表を持って生きている。】
その言葉に気付くのは戦争が始まってからだった。