生活
イスラーンにきてはじめての週末を迎えた。
領事管理局での手続きが終わった後、日常生活品の買い出に加え、学校への手続きで…
あっという間に時間が過ぎていった。
はじめての週末は隣の夫婦ブラヒムさんとフェリスさんのお家にお邪魔をした。
フェリスさんがイスラーンの家庭手料理をふるまってくれたのだ。
サラダに豆と野菜のスープ、ピラフ料理、そしてデザートまで!
「どれもとっても美味しそう!」
「そうだろ~フェリスの料理はどれもおいしんだ。」幸せそうにブラヒムがいう。
フェリスさんのことが大好きなんだなぁっと感じだ。
食事が全部食卓に並びフェリスさんが席についた。
「みんなでお祈りをしよう。」ブラヒムが手を差し伸べる。
ブラヒムとフェリスはある宗派の信者で、お祈りを欠かさず行っている。
私はキョトンとしてしまった。
だがすぐにここは”宗教と共にある国”だということを思い出し、2人と同じ動作をする。
はじめての体験にドキドキしながら、右手をブラヒムに。左手をフェリスに。
互いに手をつなぎ、お祈りの言葉を言う。
「今日も見守ってくださりありがとうございます。大切な命に感謝します。明日もどうか素晴らしい一日になりますように。いただきます。」
私はただただ目をつむって2人の祈りの声をきいた。
食事の後は、シンから持ってきたお茶を飲みながら、2人の馴れ初めやイスラーンの文化について教えてもらった。
「フェリスとは学生からの付き合いでね~10年かかったんだよ~」
「もう。恥ずかしい!やめてよ!」照れながらいう。
「それよりどう。イスラーンは?母国とはまた違った文化で大変かい?」
「宗教がそんなに身近にないので朝のお祈りにはびっくりしました。
でも皆さん外国人にも親切でとっても住みやすい国です。」
「そっか~。よかった。」
「西の地域は治安が不安定って聞いたけれど、ここは平和ですね。」
「そうね…。今は平和よね。」フェリスは最後のお茶を飲み、下を向いた。
違和感を抱いたが、深く追究するべきじゃないと感じた。
その言葉の裏にはどんな意味があったのだろう…
……
別れ際に、2人は私の両手をとってぎゅっと握ってくれた。
「またご飯を一緒に食べましょう!」
2人の温もりを感じ、受け入れてくれたことが嬉しかった。
「今度はシンの料理をご馳走させてください!」
■■■■■
……翌日
ついに今日から学校が始まった。
アパートから徒歩圏内だが時間に余裕をもって向かった。
外国人向けの学校のため、建物は思ったより小さかった。
授業はイスラーン語、イスラーンの歴史と宗教を専攻している。
イスラーン語は、一対一のプライベートレッスンで言語の習得を目指す。
先生は女性で、とても丁寧に教えてくれた。
……
学校に通い数カ月がたち、これまで以上にイスラーン語を使えるようになった。
日常会話であれば問題ないぐらいまで成長した。
「リリーさん。ずいぶん上達しましたね!」先生がほめてくれた。
今までは世界共通語を使って会話をしていたので、イスラーン語で会話ができるが嬉しい。
学校が終わった後には、カフェでアルバイトができるようになった。
■■■■■
~アルバイト先のカフェ~
「ソフィア、コーヒーオーダーはいりました!」
ソフィアはアルバイト先の先輩で、愛嬌溢れる看板娘。
年齢もリリーと近く、お休みの日が合えば買い物など一緒に遊ぶほど仲がいい。
実はソフィアのおかげもあり、イスラーン語が少しずつ話せるようになったのだ。
「リリーこれよろしくね!」
ソフィアが作ってくれたコーヒーをリリーがお客様に出す。
まだリリーは作ることができないため、受付に立ち注文とレジ打ちを担当している。
「リリーの常連客増えてきたね~」ニヤニヤしながらソフィアが言う。
「そんなことないよ。むしろソフィアのお客さんに申し訳ない。」
もともと受付はソフィアが担当しており、看板娘としてお店を活気づけてきた。
「大丈夫!私の作った飲み物に喜んでくれているし、お客様の顔見えるから挨拶できるしね。」
「可愛すぎるのも罪よね~。」ウィンクをする。
「どこからくるの。その自信は…」笑いながら2人は遅番の人と交代をした。
ロッカーで制服から私服に着替えていると、ソフィアがカレンダーをみて声をあげた。
「ねぇ!もうすぐザハルの日じゃない!!リリーはどうするの?」
「ザハルの日?なにそれ?」
「えー!知らないの!恋のイベントよ!!」
ソフィアが言うに、お世話になった人、恋人や夫婦、そして好きな人に花を贈る日だそう。
男性から女性に花を贈るのが一般的だが、今は女性からでもいいそうだ。
女性にとっては一大イベントらしく、恋人がいない人はザハルの日までに出会いを探すみたい。
「ソフィアは気になる人いるの?」
「ちょっとね!」照れながらいうソフィアはとっても可愛いらしい。
「ザハルの日まであと2か月あるんだから、頑張るわよ!」ソフィアはガッツポーズをした。
「はは…攻めすぎないようにね。」
恋愛に対し縁が遠くなっている今、どちらかというとザハルの日という行事事態が楽しみであった。