第7話
振動を感じ目を覚ますと、
そこは走行する馬車の上だった。
「おぉ、目覚めたかい?」
隣を見るとそこにはゴブリンに襲わてていた御者のおじさんがいた。
「・・・ここは・・・?」
僕は尋ねた。
いつの間にか眠っていたのか?
状況がよく摑めない。
ゴブリンはどうなったんだ?
「・・・覚えていないのかい?君はゴブリンを倒して私を救ってくれたんだ。戦闘が終わった後にすぐ気を失ってしまったが」
「僕が・・・ゴブリンを・・・?」
ゴブリンを倒してだって?
確かにあの瞬間、身体が勝手に動いたことは覚えている。
だけど記憶はそこまでだ。
僕がゴブリンを倒せたなんて到底信じられない。
けど僕たち二人が生きていることは事実だ。
一体何が起きたと言うのだろうか。
僕が混乱し、言葉を発せないでいると、
御者のおじさんは僕の顔を見て言った。
「まずは礼を言わせて欲しい、ワシの名前はアレク、ココネの町の商人だ。命を救ってくれて本当にありがとう」
そう言うと御者のおじさん、アレクは僕の肩を叩いた。
「え、いえ・・・そんな、僕なんか・・・」
僕は答えた。
未だに記憶の混乱からは脱せていない。
そんな状態で礼を言われることに居心地の悪さを感じた。
「謙遜などせんでくれ。君がいなければ、私は死んでいた。そして同時に私の娘も」
「娘さん・・・ですか?」
僕は尋ねた。
「あぁ。娘の病気を治す薬を仕入れた帰りでね。急いでいたもので護衛も付けずに馬車を走らせていたらあのザマさ」
アレクはそう言って肩を落とした。
なるほどだから護衛が居なかったのかと納得する。
いくらスピードの出る馬車とは言え、
街道を護衛無しで単独移動するのは自殺行為だ。
「そうですか・・・」
見ればアレクのシャツは赤く染まっていた。
ゴブリンに襲われて彼自身もかなりの傷を負っていた。
だけど馬車を走らせているところを見ると、
一刻も早く町に戻りたいのだろう。
「・・・君は冒険者かい?」
アレクが尋ねた。
僕はなんと答えるか迷ってしまう。
【蒼天の轟竜】でも僕は荷物持ちに過ぎなかった。
今はもうその【蒼天の轟竜】すらも無くなってしまった。
そんな僕が今更冒険者だと名乗ることに負い目を感じた。
僕が黙っているのを見て、アレクが不思議そうな顔をする。
だがその表情がフッと和らいだかと思うと、
僕の方を見てアレクが言った。
「いや、そんなことは関係ないな。君が何者だろうと、命の恩人であることに変わりはない」
それは優しい笑顔だった。
そして不意に思った。
この人にも家族が居て、
この人の帰りを待っている人がいる。
この人が死んだとしたら悲しむ人がたくさんいる。
僕がゴブリンを倒したなんて到底信じられないけど、
この人を救えたなら良かった。
僕はそう思った。
・・・
・・
・
そこからしばらく馬車を走らせると、
町に着いた。
ココネの町。
僕が追い出された町に比べたら遥かに小さい町だった。
「ここが私の家だ」
そう言って馬車が止まったのは、
屋敷と呼べなくもない大きさの家だった。
どうやらアレクはそれなりに成功した商人のようだ。
「ぜひ今夜は泊まっていって欲しい。ぜひ礼をさせてくれ」
そう言ってアレクが再び僕の肩を叩いた。
アレクが屋敷に入ると、使用人が悲鳴を上げた。
無理もない、家の主人が血まみれで帰宅したのだ。
アレクは使用人を宥めると何かを説明し、
僕に声を掛けてその場から去った。
僕は使用人に部屋へと案内される。
「こちらをご自由にお使いください」
使用人は深々と頭を下げ去っていった。
僕は部屋に残される。
僕は自分の短剣を引き抜いて、
その刀身に目を向ける。
「ゴブリンを・・・倒した、か」
たしかに短剣には戦いの後が見て取れる。
どうやら戦闘があったことは間違いないようだ。
「・・・あれは何だったんだろう」
僕がアレクを助けようと一歩を踏み出した時、
この短剣が輝いたような気がした。
そしてその後はよく覚えていない。
ベッドに寝転がり、
記憶を辿ろうとしたが成果は出なかった。
僕はいつの間にか、
ベッドで眠ってしまっていた。