第5話
丘を登り振り返ると、町が見えた。
【蒼天の轟竜】として過ごした町。
そして今しがた追い出された町だ。
晴天の青空に僅かな雲。
吹き抜ける爽やかな風は幾分か僕の心を楽にしてくれた。
「・・・さて、どこへ行こう」
そう呟き考えるが、どこにもあてはない。
今さら故郷の村には帰れないし、
かと言ってどこかに向かいたい場所があるわけでもない。
なにせこの数年間はロイドを筆頭に、
ただひたすらに人々のために戦ってきたのだ。
他のパーティーに比べて休みが少ないと、
よくラーハンが文句言ってたっけ。
けどロイドは止まらなかった。
「轟竜の咆哮は、曇天を穿つ」
それがロイドの口癖であり、
僕たちのパーティー名の由来でもあった。
その言葉はロイドの生まれた地方のことわざで、
真の強者は世界の憂いを払うに相応しい力を持ち、
それを正しく使う責任があると言う意味らしい。
ロイドは本当に世界を平和にしようと考えていた。
だからローハンも文句は言うけど、
結局はロイドと一緒に戦っていたのだ。
僕自身は決して戦力になっているとは言い難かったけど、
それでも【蒼天の轟竜】の一員であることに誇りを持っていた。
僕はそんな事を思い出して、
また堪らなく悲しい気持ちになった。
ふと空を見上げると渡り鳥が群れをなして飛んでいた。
「南か・・・」
渡り鳥に見を委ねるのも良いかも知れない。
僕はそんな理由で、南へと歩を進めた。
・・・
・・
・
あれは僕とロイドがまだ二人で冒険者をやっていたときのことだ。
「スキルが目覚めた時のこと?」
「うん、そう。どんな感じだったの?」
僕はロイドに尋ねた。
スキルは教会の神託を受け、それを認識するのが一般的だ。
だが中には神託を受ける前から自分のスキルを認識するようなタイプもいる。
そういったタイプは殆どが強力なスキルであることが多く、
<剣聖>のスキルを有するロイドもその例に漏れなかった。
「そうだな、俺の場合は――――」
そう言うとロイドは自分の剣を鞘から抜いた。
「これ、どう見える?」
ロイドが僕に尋ねる。
「どうって、剣だよね?」
僕は答えた。
「何か見えるか?」
ロイドの言葉がよく理解できず、
僕は首を振った。
「・・・俺には見えるんだ。剣を包む光が」
「光?」
「そう、青い光だ。剣の意志とでも言うのかな」
「剣の意志・・・?」
「剣が光るとまるで剣が自分の身体の一部になったような感覚になる。そして分かるんだ、剣をどう振るえば良いのか」
「そう、なんだ・・・」
僕は呟いた。
スキルに目覚めていない僕は、
ロイドの話がなにかのきっかけになるんじゃないかなんて思ってたけど、
逆にロイドとの差に打ちのめされることになった。
やはりロイドは特別だ。
・・・
・・
・
僕は一人、街道を歩き続けていた。
今は森の中を突っ切る薄暗い道の中。
町を繋ぐ街道と言っても、
そう多くの往来があるわけではない。
魔物が出るこの世界では、
町の外の移動にはそれだけでリスクがあるのだ。
そうして歩いている時に、
不意に僕は異変を感知する。
「―――――悲鳴?」
どこかから叫び声が聞こえた。
誰かが魔物に襲われているのだろうか。
どうする助けに行くか、でも僕一人の力じゃ。
そんな事を考えていると、
不意に胸の中に、熱い何かを感じた。
ドクン。
僕の心臓が大きく鼓動する。
それと同時に僕は駆け出していた。
まるで見えない何かに後押しされるように、
僕は全力で走った。