第4話
「――――以上が、僕たちが【黒甲冑】に襲われた時の状況です」
僕は淡々と答えた。
国から派遣された書記官は無言のままペンを走らせている。
もう何度この説明をしただろう。
ようやく動けるようになった僕は、
一日の大半をこうした事情聴取に費やしていた。
そうしたやり取りの中で【蒼天の轟竜】を襲ったのは、
魔王種という強力な魔物だと言うことも知った。
だけど僕は何も感じなかった。
【蒼天の轟竜】が負けるなんて、今でも信じられなかった。
「・・・チッ、まさか唯一生き残ったのがお前とはな」
そう言って僕を睨みつけたのは、
【蒼天の轟竜】が所属する冒険者ギルドのマスターだ。
「・・・すみません」
僕は彼に謝った。
彼の言いたいことは分かる。
「ちょっとマスター!そんな言い方って!」
そう言って僕の代わりに怒ってくれたのは、
ギルド職員のエマさんだ。
「うるせぇ!!」
だがギルドマスターも止まらない。
そこからは溜まっていたもの噴き出すように、
僕を責め始めた。
僕が周りからロイドの腰巾着だとか寄生虫だとか言われていたこと。
僕の評判が悪いせいで、ロイドがどれだけ評判を落としていたかということ。
僕は何も言い返さなかった。
ギルドマスターのこの態度は別に今に始まったことではない。
この人は昔からこうなのだ。
それに僕は全部知っていた。
自分が周りからなんて言われているかなんて。
けどそれでも僕はロイドの言葉を信じ続けたのだ。
「俺は昔から言ってたよな?ラタン。さっさと【蒼天の轟竜】を辞めろって。あん?てめぇみたいな約立たずがあのパーティーにいることがどれだけ異常か分かってんだろ?」
「・・・」
「もう一人優秀な後衛でも入れるだけで、【蒼天の轟竜】の力はもっと高まったんだ。そしたらあいつらが死ぬことなんて・・・」
ギルドマスターは本当に悔しそうに言った。
彼の気持ちは痛いほど分かった。
だって僕も同じ気持ちだったから。
もしも僕がもう少し戦えたら。
回復魔法の一つでも使えたら。
ロイドたちは死ぬことなんてなかったんじゃないかって。
今までは考えないようにしていた、
でもこうなった以上、そう考えないのは無理な話だった。
「・・・すみません」
僕そう謝った。
すると何が気に触ったのだろう。
今までは僕にネチネチと嫌味を言うだけだったギルドマスターが、
顔を真っ赤にして立ち上がり僕の胸ぐらを掴んだ。
「テメェも冒険者なら何か言い返してみやがれってんだ!!!!」
だが僕は何も答えられなかった。
「マスター・・・もうそのへんにしてください・・・ロイドもそんなことは望んでいません・・・」
そう言ってくれたのはエマさんだった。
見ればその目は涙で濡れていた。
そうだ、彼女はロイドのことを――――
僕はその事を思い出し、更に胸が苦しくなった。
生き残ったのがロイドなら、
彼女のような優しい人が悲しみに暮れることもなかったはずなのに。
ギルドマスターは険しい顔をした後、
ゆっくりと僕の事を離した。
部屋の中に重い空気と沈黙が満ちる。
それからしばらくして、
ギルドマスターがボソリと言った。
「・・・ラタン。お前はクビだ。今夜中にウチから出ていけ。この街にも戻ってくんな」
「・・・そんなマスター、ラタンはまだ傷も癒えてないんですよ?」
「いいんです、エマさん」
「ラタン君!」
「・・・これまで、お世話になりました」
「・・・」
ギルドマスターは背中を向けたまま何も答えなかった。
そして僕は部屋から出ると、
そのまま自室へと向かい荷物をまとめる。
そして誰にも見られることのないよう、
僕はギルドと街を出た。