第2話
「・・・もう一度、ゆっくりと言ってくれ」
ここは西の大国ボルドー。
その王城にある、王の居室である。
今しがた震える声で指示を出したのが、
この国の王、ボルドー三世。
王の指示に従い、甲冑に身を包んだ騎士が答える。
「・・・も、申し上げます。ロイド様率いる【蒼天の轟竜】が・・・か、壊滅したとのことです」
その言葉を聞いて、ボルドー王から血の気が引く。
「王ッ!」
従者に支えられ、ボルドー王はなんとか体勢を維持した。
「ば、馬鹿な・・・あのロイドが・・・敗れるなど・・・一体何故・・・」
王は震える声で答える。
「ハッ、未確認ですが・・・魔王種に遭遇したと、情報が入っております・・・」
「魔王種だと!?馬鹿な!やつらが目撃されたのはもう百年も前の大戦期のはずだ!それが今更・・・」
「詳細は分かりません・・・」
「くっ・・・すぐに国中に調査を送るのだ!!【蒼天の轟竜】を失った今、魔王種が動き出したと知れば国中がパニックになるぞ!」
「し、承知いたしました!」
そう言って騎士は王の居室から走り去っていく。
残されたボルドー王は、
へなへなと足の力が抜け、
椅子に腰掛けた。
「・・・王」
従者が声を掛ける。
王はうなだれたまま、その声には答えなかった。
・・・
・・
・
「ここは・・・」
眼が醒めたのは部屋の中だった。
「・・・気が付いた?ラタン」
名前を呼ばれてすぐ側に人がいることに気が付く。
声を掛けてくれたのは、ギルド職員のエマだった。
「エマさん・・・?僕は・・・どうして・・・」
僕はまだぼんやりとした頭で彼女に尋ねた。
「貴方は救助されて、ここに担ぎ込まれたの。もう3日も眠っていたのよ」
「僕が・・・いったいどうして・・・」
僕はなぜ自分がここにいるのかもよく思い出せなかった。
「記憶が混乱してるのね。大丈夫よ。いいから、もう少し寝てなさい・・・まだ傷も癒えてないんだから・・・」
そう言うと彼女は僕に手のひらを向ける。
そこから放たれる青白い光を浴びると、
僕は途端に意識が遠のいていった。
夢を見た。
それは僕が冒険者になった頃の夢だった。
僕は小さい頃から少しばかり剣と魔法が使えた。
小さな村では僕に敵う者はいなかった。
これなら上手くやれるんじゃないか。
冒険者になったのはそんな甘い考えからだった。
現実に直面するのは早かった。
僕が強かったのは片田舎の小さな村の中での話で、
冒険者という集団の中では底辺に近かった。
その理由は<スキル>にある。
人は生まれながらにして、女神様から誰にも負けない才能を与えられている。
教会で神託を得ることにより、そのスキルが何かを調べる事が出来る。
例えば<剣術>や、<炎魔法>、<回復魔法>。
また戦闘には役立たないような<料理>、<農業>、<商売>なんてスキルもある。
ほとんどの人が10歳までにその<スキル>に目覚め、
才覚を発揮していくものだが、
僕は13歳になってもこのスキルが開花していなかった。
だから僕はほとんど自力で戦う他無く、
<スキル>持ちの他の冒険者とは大きな差が生まれていった。
始めは希望を持って就いた冒険者と言う職業。
僕はあっという間に落ちぶれていった。
次第に戦闘に参加しなくなり、
パーティーのサポートを行う荷物持ちに積極的に就いた。
僕は冒険者たちの荷物を運び、
僅かな日銭を稼いでいた。
いつか<スキル>に目覚めたら。
そう願い剣と魔法の修行だけは欠かさなかったけど、
その日は一向に来なかった。
次第に周囲も僕を落ちこぼれのように扱うようになり、
ギルドでも完全なお荷物扱いだった。
だがある日、僕の人生は一変することになる。
僕の寝床に一人の男が尋ねてきて言った。
「君の力を俺に貸して欲しい」
男は僕のことを蔑むこともなく、
僕の目をまっすぐに見てそう言った。
美しいほどの金髪と宝石のような碧眼。
彼の名前はロイド。
後に勇者とも英雄とも呼ばれる、
才気あふれる冒険者だった。
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