第1話
僕は目の前の光景が信じられなかった。
「ぐ・・・この・・・」
パーティで一番の巨漢であるラーハンが、
【黒甲冑】に首を捕まれその身を宙に浮かせている。
そのままゴキリと言う鈍い音がして、
戦士ラーハンは動かなくなった。
「ラーハン!!」
そう叫んだのは僕ではなく、
パーティの回復役リラだ。
だが彼女もまた地面にへたり込んだまま動けない。
度重なる回復魔法の行使により、既に魔力が枯渇しているのだ。
「このっ・・・」
そう言って魔法を放ったのは、
パーティの頭脳でもある賢者アリアハル。
アリアハルの得意な爆炎魔法が【黒甲冑】を包む。
「なっ!?」
だが【黒甲冑】は爆炎を物ともせず、
一足飛びでアリアハルとの距離を詰めると、
右手に持つ巨大な大剣を振り下ろした。
「そ・・・んな・・・」
リラが掠れた声で呟く。
【黒甲冑】はゆっくりと振り向くと、
大剣を引き摺りながらこちらに歩いてくる。
僕は心臓の鼓動が早まるのを感じた。
ああ、僕も死ぬのか。
そんな事を考えた。
僕はただ目を瞑り、
恐怖に身を強張らせた。
だが僕の予想を裏切り、
【黒甲冑】は僕の真横を通り過ぎる。
まるで僕のことなんて眼中にないかのようだった。
そのまま歩き続けた【黒甲冑】は、
リラの目の前で足を止めた。
「あ・・・いや・・・・」
か細い声でリラが言う。
だが【黒甲冑】はそんな言葉には一切耳を貸さず、
大剣を横薙ぎに奮った。
ザクンと鈍い音がして、
リラの身体が真っ二つになる。
僕は未だに目の前の光景が信じられなかった。
まさか彼らがこんなに簡単にやられてしまうなんて。
絶望に支配される僕の目の前に、
一つの影が現れた。
「・・・ラーハン、アリアハル・・・・リラ・・・」
既に冷たくなった仲間の名を呼ぶ声。
そこにいたのは金髪碧眼の剣士だった。
「・・・ロイド・・・」
僕は彼の名を呼ぶ。
「・・・すまない、遅くなった・・・」
彼は僕の顔を見ると少しだけ安堵したような顔をする。
僕は彼の顔を見て、
一気に涙が溢れた。
そしてロイドは一つ大きなため息を吐くと、
【黒甲冑】へと向き合った。
「お前が・・・やったのか・・・?」
ロイドの声が怒りに震えている。
優しい彼がここまで感情を露わにしたのは初めてかも知れない。
だが、【黒甲冑】はその声にピクリとも反応しない。
ロイドは険しい顔をすると、
その手に持った剣を【黒甲冑】に向け構えた。
僕はロイドを静止するために声を掛けようとしたが、
僕の声が届くよりも早く、
ロイドが飛び出すのが見えた。
そこからの事は良く覚えていない。
記憶にあるのはロイドの剣が真っ二つに折られたこと、
そしてロイドの体を【黒甲冑】の大剣が貫いたことだ。
そして僕はいつの間にか気を失っていた。
その日、
大陸最強と呼ばれた冒険者パーティは壊滅した。
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