1 私の世界の全て
大陸の東の果てにある小国リュリメア。
国土は小さく高い山脈に囲まれた閉ざされた王国である。
だが歴史は古く二千年を超える。
月の女神リュリメアーナが一人の青年と恋に落ち建国したという伝承がある。
それが嘘か誠かリュリメア王家の血筋に連なる家には稀に身体に欠陥も持って生まれる赤子がいる。
そうした赤子は月の女神の祝福を授かり月の神気と大きな魔力を持つ神子とされていた。
しかしある時期を境に長らく誕生しない神子についての情報全てをリュリメア王家は隠蔽し、長い年月と共にその伝承すら国民は忘れていった。
リュリメア王国の建国王の第一王女が興したとされるオルレアン公爵家に生まれた私はヴァレリー・シャルロット・ド・オルレアン。
オルレアン公爵家の一人娘。
お父様は筆頭宮廷魔導師を勤める魔法の天才でお城に勤めるジャン・ピエール・ド・オルレアン。
銀髪で見目麗しい長身の美男子。
お母様は元子爵家の次女で小さな頃からあまりの美しさに当時の王太子をはじめ国中の貴族子息から求婚されたけどお父様と大恋愛ののちオルレアン公爵家へ嫁いだマリー・アンヌ・ド・オルレアン。
金髪に紫水晶の瞳の超美人だ。
私はお父様と同じ白銀の髪とお母様と同じ紫水晶の瞳を受け継いだ。
容姿はお母様に似ているとみんな言ってくれるので将来お母様のような美人になれたら嬉しい。
けれども私は生まれ付き欠陥があった。
右足の付け根から下が一切動かせないのだ。
お医者様に見てもらったけど何故動かないのか謎らしい。
筆頭宮廷魔導師であるお父様が魔力の流れを見たら右足だけ魔力の流れが無いらしい。
それ以外は全く問題無い筈なのに右足は動かない。
間もなく5歳になるけど未だに右足は動かないままだ。
一日の殆どをベッドで本を読み漁りながら過ごし、偶にお散歩で車椅子か抱っこされて公爵邸のお庭をゆっくりまわるという生活をしていた。
いつか動く様になるかも知れないから、とメイドさんが朝と夜に右足をマッサージして【治癒】の魔法を掛けてくれている。
どんなに見目が良かろうと貴族の令嬢として私はハズレだろう。
それでも私が腐らなかったのは両親が充分に愛を注いでくれて、公爵家に勤める使用人達も優しい人ばかりだったからだろう。
私は公爵家の人々が大好きだった。
例えこの広いお屋敷の中でしか生きれないとしてもそれが私の世界の全てで毎日が幸せだった。
そうして迎えた5歳の誕生日。
普通の貴族令嬢ならばお披露目として国の貴族を迎えるのだが、私も両親もそれを望まなかった為に公爵家の内々で誕生パーティーが開かれた。
「誕生日おめでとう、ヴァレリー」
「ありがとうございます、お父様」
お父様からは誕生日プレゼントに私に合わせたステッキをいただいた。
「これは?」
「これは魔法のステッキだよ」
お父様が私の為に作ってくれたという。
起動の呪文でステッキから風の魔法が私の身体を包み込み、移動の補助になる様に仕上げてくれたのだ。
起動したまま杖にすれば自分の足で移動出来るかもしれない。
「お父様っ!」
私は嬉しくて両手を拡げた。
お父様はニッコリと笑って抱き締めてくれた。
歩けるようになる。
それは何よりも私にとっての希望だった。
宮廷魔導師として忙しいのに態々お父様が私の為に作ってくれたのだ。
その気持ちだけでも嬉しくて涙が溢れた。
「まあ、貴方ったらそんな凄いものをヴァレリーちゃんに作ってくれたのね。ありがとう。でもそんなプレゼントの後じゃ私のプレゼントは見劣りしちゃうかしら」
その様子を隣で見て悪戯っぽく笑うお母様。
「そんな事無いです!お母様、私はその気持ちが嬉しいんです!」
必死になっていた私を優しく撫でてくれるお母様。
「うふふ。分かっているわ、ヴァレリーちゃん。5歳でこんなにも心遣いが出来るなんて将来どんなステキな淑女になってしまうのか逆に心配になっちゃうくらいよ」
そういうお母様の笑顔の方が素敵すぎて私が照れてしまう。
「では私からはこれよ」
「ありがとうございますお母様」
お母様がプレゼントしてくれたのはとても古い一冊の本だった。
厚い革表紙で小さな宝石が散りばめられて中央に銀の三日月が描かれていた。
本が大好きな私にはとても嬉しいプレゼントだ。
かなり高価だっただろう。
「マリー、それはまさか」
お父様がその本を見て驚いていた。
お母様は微笑んでそっとお父様に寄り添った。
「ヴァレリーちゃん。この本はね、この国の建国と神子様について書かれた本なのよ」
「この国の...みこさま?」
「古い文字で書かれているからヴァレリーちゃんにはまだ読めないと思うけど明日お母様が一緒に読んであげるわ。とっても素敵なお話なのよ」
「嬉しいですお母様!明日が楽しみだわ!」
プレゼントも嬉しかったけれど明日お母様と一緒に居られる事が嬉しくて笑顔になった。
両親も私を抱き締めてくれた。
「私達の娘はやはり天使だね」
「そうね、本当に可愛らしい天使だわ。うふふ」
笑顔で抱き合う私達を使用人さん達が頬を染めて微笑んでくれていた。
その後使用人さん達からもプレゼントを貰って、私の好物ばかりのご馳走とケーキを食べて、眠るのが勿体ないくらい楽しくて幸せな誕生日だった。
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