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9 ゼノ

お母様を助ける方法があるなんて。

私なら出来るかもしれないなんて。


「どうすれば良いのですか!私は何をすれば?」

「落ち着け、先ずは確認したいことがある」


早くお母様を助けたいと気持ちが急く私をゼノ様が諌めた。


「何を確認すれば...」

「さっきの事だ。朝俺を起こした時、俺に触れたよな」

「あ、はい。袖だけでしたがすみません」

「ああ、謝る必要はない。それよりも俺に触れた時に何も起こらなかったのか?」


何かとは?

思い出しても特には何も無かったと思う。

私が首を傾げるとゼノ様は淡々と話し出した。


「そうか。隠す気も無いが、俺にはタチの悪い呪いが掛けられている。

そいつはかなり強力で俺に近付いた者に伝染するおまけ付きだ」


ゼノ様が袖を捲り掌を上に向けると、真っ黒な霧みたいものがじわじわと溢れ出てきた。

黒い霧はうねうねとゼノ様の腕に絡まりながら蠢いている。

見ているだけで気持ち悪くなるくらい不快でおぞましいものだった。


何故かシルキーさんは私の背後に隠れる様に移動した。

5歳児を盾にするってどうなんだろう。


「動くなよ」


そう言ってゼノ様はうねうねする黒い霧に絡まれた腕を私に伸ばしてきた。


「ヒッ!」


足の不自由な私は逃げられず仰け反り変な声を出してしまった。

黒い霧が触手みたいに伸びてくる。

目の前に迫ってくる黒い霧の禍々しさと恐怖で顔を背けた。


「大丈夫だ、見てみろ」

「......」


恐る恐る恐怖で綴じていた眼をゆっくりと開けてみるとゼノ様の掌が近くにあるだけだった。

あの黒い霧は見えず禍々しさも全く感じない。


「お前には呪いが伝染しないみたいだ」

「...」


ゼノ様は私に伸ばしていた腕を戻した。


「普段は俺が強引に呪いが外に出ないようにしていたんだが、呪いの匂いを敏感に感じる精霊達には嫌われてしまっていたんだ。そこにいるシルキーはこの屋敷に宿る精霊で呪われてからずっと姿を見せなかった」


シルキーさんは精霊だったのね。

こんなに美しい人が居るのかと思っていたらそれは納得だわ。

それよりも呪いが私に伝染しないのはなぜなんだろう。


「そしたら今朝お前と一緒にシルキーが居る。さらには俺の近くに居ても平気な理由はお前が原因だろう。

案の定、お前は俺の呪いを弾いて力を弱めた。

こんな事は昔【聖女】と呼ばれた知り合いが使った神聖力よりも強い神聖力じゃなきゃ出来ない事だ」


訝しんだ目で睨まれると私は言葉が出なかった。


「まあ、お前の正体は後回しにしておいてやる」


その言葉にほっと胸を撫で下ろした。


「お前は神聖力を持っているという事は聖魔法を使えるという事だ。

聖魔法は邪悪なるものを弾き浄化する事が出来る」

「じょうか?」

「そうだ。生きる死体(リビングデッド)となったお前の母親を浄化して人として眠らせる事が出来る。生憎と俺には聖魔法は扱う事は出来ん。お前が浄化出来なければお前の母親はその身を腐らせながら永遠に森を彷徨うか、肉体と共に魂まで破壊するしかないだろうな」

「そ、そんな!でもどうやって...」

「お前にやる気があるなら魔法の使い方は教えてやろう。

どうする?」

「やっ、やります!教えて下さい!お願いします!」


お母様を魔物にしたままになんて出来ない。

あの優しくて美しいお母様が魔物となって腐りながら永遠に森を彷徨うなんてそんな残酷な事を許せる筈がない。



この日から私の魔法訓練が始まった。







謎の魔道具らしきモノや材料らしき物体、積み上げられた大量の本で埋め尽くされた部屋へ移動(シルキーさんの魔法でまた浮かべて貰った)して、ゼノ様はソファに座れるスペースを作るとそこへ座らされた。

ゼノ様が指を鳴らすと本棚から一冊の本が私の目の前までふよふよと飛んできた。

それを両手で受け止めるとずしりと本の重さを感じた。


「字は読めるか?」

「はい、難しい単語じゃなければ読めると思います」

「それじゃ先ずはそこを読んでおけ」


両手で抱えていたその本がパラパラとページが捲れる。

止まったページには『魔力操作と制御について』と書かれていた。


「はい。分かりました」


リュリメア王国では5歳から魔法について学び始める。

魔力は誰しも持っているけれど魔法を使えるのは1000人に1人だと云う。

私は生まれつき筆頭宮廷魔導師であったお父様よりも魔力量が多いらしかった。足が不自由であった事もあり魔法について少しだけ習ってはいた。

とは言っても魔力の感じ方のみだが。

自分の魔力をどうすれば魔法に出来るのかは全く知らなかったのでちょうど良い内容だった。

私は本に書かれた文字を目で追いながら理解しようと必死に読んだ。



魔力は全身を血液の様に巡っているという。

それを感じる事が出来ればゆっくりと体内で循環させる。

体内の魔力を動かす事が出来れば魔力を放出する訓練をする。


纏めると随分とアバウトな内容であった。


「あのぅ」


羊皮紙に何かを描きながら謎の物体を物色するゼノ様に声を掛ける。


「なんだ?」

「読みました」

「そうか」


ゼノ様が徐ろに私の頭に手を乗せた。

え?

そして髪を撫でるようにするとふわりと風を感じた。


「風を魔法で作った。今魔力を感じれたか?」


しまった。

動揺して分からなかった。


「もう一度、お願いします」


何度か繰り返してもらうとゼノ様の手から風と一緒に何かが出ているのが分かった。

そして同時に私の中の何かが引っ張られる様な感覚があった。


「お前の中に同じ様なものがある筈だ。それがお前の魔力だ」

「私の魔力...」



その後シルキーさんに昼食の時間に呼ばれるまでには私の中の魔力を感じれる様になった。

でも魔力と一緒に違う何かが混じっている気がした。


「それは神聖力だろう」

「しんせいりょく...」


昼食後それをゼノ様に話すと返ってきた応え。

私は『神子』の話をする事にした。


お読みいただきありがとうございます

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