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Witch Craft Guardian~ヒーローを夢見た男が転生して魔女の護り手になるお話~  作者: 男爵平野
三章 ラフレン村攻防戦

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事前準備

 集会所の小屋の中で、針糸と布地が擦れる音がひっきりなしに続く。この村の住人である女性たちが数人がかりで灰色をベースとした布に暗褐色の布地を()() ぎ にして縫い付け、頭の部分は同じ布をフードになるようにしっかりと繕ってくれている。


「悪いね、急にこんなことを頼んでしまって」

「いやいや。あんたたちが山賊を倒すためのものだろう? なんでもないよこんなもの」


 この場のまとめ役なのだろう。恰幅のいい女性が笑うと、同じように作業をしている女性たちもくすりと笑う。


「あいつら、こっちが抵抗できないことをいい事に好き勝手やってるからね。畑の収穫も奪われたし、ガドルのところのミリィだって……」

「東に住んでたレーナもよ。あいつら、見境ないんだから……悔しい!」


 その言葉で場が重くなる。おそらく、攫われた女性の名前だろう。彼女たちが廃砦でどう扱われているのかは、想像に難くない。皆の手を動かすのは止まっていないが、その顔は憤激に彩られている。


「……最善は尽くすよ。ただ、成功しても村ぐるみできつい戦いになると思う」

「なあに、きついのには慣れてるさ。寒波も日照りも豪雨も地滑りも、大体経験してラフレンの村人は一人前ってもんでね。ただ奪われるだけだったのが、奴らに対抗できるってだけでありがたいってもんだよ」

「ふふ、逞しいものだな。私たちも見習いたいものだ」


 俺と同じように作業を眺めていたトゥリアが笑う。そんな俺たちの目の前で、依頼したものができあがっていく。

 とはいえ、そう大仰なものではない。俺が頼んだのは先ほどの布地で作り上げた、頭から身体をすっぽりと覆う外套だ。夜間の森から廃砦へと暗殺を仕掛けるため、少しでも視認性を阻害しようと村に頼んで布と人手を貸してもらっているのだ。


「私らのことより、あんたらは夕方から出るんだろう。作業はやっておくから少しでも身体を休めなよ」

「ありがとう。でも充分休めているよ。寝るだけが休息じゃない。こうして皆と話しているのもちゃんとした休憩さ。お陰でやる気が出てくる」

「あら、嬉しいねえ。トーヤさんだっけ。あたしがあと十歳若ければ口説いたのに」

「ええ、テリアさん。十歳で足りるの? そこは二十歳じゃない?」


 合いの手を入れた他の女性をテリアと呼ばれた女性がぶつ真似をすると、皆でけらけらと笑う。とても山賊に狙われているとは思えないほど、明るい人たちだ。

 見れば、場の雰囲気に当てられてか、トゥリアも小さく笑みを零している。


「よろしいですかな、トーヤさん」


 そこに村長のロレンさんがやってくる。


「こちらの準備はできあがりそうですな」

「ええ。そっちはどうです?」

「あちらもなんとかなりそうです。ラ・ミルラ殿がかなり的確に指摘してくださっているので助かります」


 俺たちが夜襲を仕掛ける間、残っている面々は村人を含め、村の防備を固めてもらうことになった。夜襲をすれば、どうあっても村と山賊が敵対関係になることは避けられない。そこから準備しても間に合わないからだ。

 そしてラ・ミルラはこういう場面で能力を発揮していた。彼女曰く隊商の護衛をしていたときから弱い部分がなんとなく見えており、その都度指摘して野党からの襲撃を防いでいたりしていたとのことらしい。その視点から重点的に抑えるべき所を指摘して木材で強化したり急ごしらえの物見櫓を設置したりしている。

 それに限らず彼女は元貴族だけあってそちらの風習やマナーにも通じているし、イルシュカやクロエとは別の部分の知識が大変ありがたい人材でもある。


「まあ、村の方はまだ少し時間はある。問題は私たちだな」

「そうだな。うまくいけばいいが」


 トゥリアの呟きに俺も同意する。暗殺をするのは俺とトゥリア、この二人だ。クロエは攻撃力が乏しいし、イルシュカは一人を狙うには向いていない。ラ・ミルラは遠距離に対する手段が皆無なので、弓という攻撃手段と単体攻撃能力の高いトゥリアと俺という組み合わせになった。

 先に偵察していたトゥリアによると修復が進んでいるとはいえ、まだ廃砦には崩れている場所がいくつかあるらしく、そこを使えば侵入は容易だという。あとは魔術士を捜し出して室内なら俺が、屋外にいるのならトゥリアが弓で仕留めて逃げる。

 大雑把な計画だが、現状でそれ以上詰めるのは難しい。そして時間もない。


「よし、できた! こんなもんでどうだい?」


 テリアが立ち上がり、できあがった迷彩外套を広げる。傍目には問題なく仕上がっており、受け取ってフードの部分へ頭を入れる。


「トゥリア、窓を閉めてみてくれ。これで……どうかな?」


 少し俯き加減になり、フードを深くかぶってやや猫背気味の姿勢を取って壁際へと張りつく。


「ふむ……確かにこちらの方が見辛いな。トーヤ殿がそこにいると認識していても、妙に見辛い。夜なのだから黒一色でいいと思っていたのだが、そうでもないのだな。勉強になる」

「雪山とか砂漠とか、周りの色が一色なら単色でも効果が高いらしいけどな。今回は夜の山だからこうして斑に他の色を入れた方が見辛いらしい。うん、俺の方は大丈夫だ。トゥリアも試してみてくれ」


 トゥリアがもう一つの迷彩外套を受け取り、着込んで同じように壁へ張りつく。彼女の行った通り、窓を閉めきった集会所の中ですら、人体の形をぼやけさせて見辛くさせている。


「ふむ……動きには問題ないが、丈をもう少し詰めてもらえないだろうか。私はトーヤ殿より少し背が低いからな。このままだと山の中では裾を引っかけてしまう」


 一度迷彩外套を脱いでテリアに渡し、寸法を具体的に指示する。テリアたちはすぐさまその通りに丈を詰め、縫い直していく。


「これでどうかな?」

「うむ……これなら問題ない。ありがとう」


 こちらの用意は調った。すでに傷薬や包帯、装備のチェックは終えている。村の方はラ・ミルラを筆頭にクロエたちがよろしくやってくれるだろう。


「ん……そうだ、思い出した」

「どうした、トーヤ殿」

「すまない、クロエに頼むことがあった。席を外す」


 そう言って立ち上がり、集会所の出口まで歩いてから振り返る。


「このままなにもなければ夕方に村の北側入り口で落ち合おう」

「分かった。それではまた後で」


 手を振ってくるトゥリアに振り返し、俺は外に出た。

 さて、この頼みごとが上手くいけばいいのだが。

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