服飾会議
短めです。
「さて、それじゃあ集めた情報を統合しよう」
トットの墓参りを済ませて『歌う乙女』へと戻ってきた俺たちは、部屋に集まって顔を突き合わせていた。
ルヴェル用に用意してもらった大部屋なので、レンを含む全員が入ってもまだ余裕がある。
まずは俺とクロエ、アトゥラが聞いたシャザムの見解と情報を話す。
それらを聞いた皆は頷き、その顔は明るくない。最終的に苛烈な手段を取りうる相手だと判明したのだから、そうもなろう。
「私は前のツテを頼って情報を集めたけれど、同じようなものだったな。ラスロー自治領の求めに応じて人、食料、武器、その他野営道具なんか、色々と流れていっている。相当な量で、魔獣発生の対応にしても多すぎるから黒い森への対策の分も」
ラ・ミルラが古巣のドズムンド商会から仕入れてきた情報を教えてくれる。領主が本腰を入れ始めているのは確実なようだ。
「冒険者たちも似たようなものだね。今はラスローが騒がしいから、腕に覚えがあるやつは稼ぎ場所だって。領主が黒い森探索になにか報酬をつけるかもしれないって話もでてきているね」
イルシュカからの話も似たようなものだった。ルヴェルやラゴウ、トゥリアやシウも同じようで、分かったことといえばさほどの猶予はないだろうということだ。
「こうなれば、急いで黒い森に行くべきだな」
「そうだな……明日にでも出発しよう」
ルヴェルの言葉に頷く。到着してすぐの出発となればルカは寂しがるかもしれないが、帰りにまた寄ると言えば機嫌を直してくれるだろう。
となれば――。
「じゃあクロエとアトゥラはここからは服は着替えてくれ」
「わかったわ」
俺の言葉に二人が頷く。できればルヴェルとラゴウも目立たないようにしたいが、人間の生活圏で竜人を目立たなくするなどほぼ不可能だ。どうしてもやるならば、二人を部屋や馬車から出さないという方法ぐらいしかないが、この二人がそれを了承してくれるとは思えないし、俺もそんなことはしたくない。
ただ、それでも魔女との諍いがある場所にいかにも魔女然としたクロエたちを引き連れるのはさすがにできない。
「服? 服ってなに?」
「自治領の辺りに行くのにこの服だと目立つし良くないからって、トーヤが変装用の服を買ってくれたのよ」
「は!?」
イルシュカの声が部屋に響く。その大きさに俺とクロエ、アトゥラが驚いてそちらを見やる。
「服を? 買ったの? トーヤが? 二人に? 服を買ったの?」
「え、ええ。変装用よ」
「……ルヴェルを基点にして集合っ!」
イルシュカの号令で俺とクロエ、アトゥラ以外の全員がルヴェルの周りへと集合する。
そうしてルヴェルを中心に車座になって、なにやらごにょごにょと話し合う。
「……これ、なんの時間?」
「……さあ? でも多分逆らったら酷いことになると思う。主に俺が」
トゥリアとそんなやりとりをしていると、会議が終わったのか全員が元の位置へと戻ってくる。
そうして全員が着席しなおして、イルシュカが俺を見ながら口を開く。
「というわけで、トーヤは私たちにも服を買うように」
「いやどういうわけだよ」
「ルヴェル、こんなこと言ってますけど」
イルシュカがルヴェルに水を向けると、竜人の姫は腕を組んで俺を見やる。
「トーヤ」
「な、なに……?」
「お前はこの集団にいる唯一の男として、皆に平等であらねばならない。クロエに服を買ったのならば、私たちにも服を買うべきだ。当然、お前の見立てでな」
「あー……」
集団で誰かだけが贔屓されれば嫉妬も生まれるし、軋轢も生まれる。
そういう意味で一理ある。あるが、そもそもルヴェルやイルシュカは今更そんなことを思うような女性たちではないはずだ。
なので――。
「本音はどうなんだ?」
「私たちもトーヤの選んだ服が欲しい」
腕を組みながらなぜか胸を張ってそんなことを言う。周りを見ると、他の女性陣も同じような顔でこちらを見ていた。
そんな彼女たちの様子に、つい笑ってしまう。
「分かった、分かったよ。じゃあ、全部終わってまたこちらに戻ってきたら、そうしよう」
財布には少し痛いが、それでも皆が喜ぶなら。
「え、じゃあ私もこっちの店で欲しいわ。竜人の島で買ったのは払うから!」
「クロエ?」
「だってこっちのほうがいっぱいあるじゃない。アトゥラも!」
「へ? いや私は別にあそこのでも……」
「いいから。アトゥラの分は私が払うから。一緒に選び直してもらいましょう!」
クロエがなにやら目に炎を宿してそんなことを言う。あまり見ることのないクロエのそんな姿に苦笑しながら、俺は口を開く。
「クロエがそれでいいなら、それで。ただ、全部終えてからだな」
俺の言葉に、全員が力強く頷いた。
こうなったら、ついでにルカにも買ってやるか。




