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銀翼級

 扉を開け、ギルドの中へ入る。隣にはシウが一緒に来ており、目指すのは昇級試験の結果が貼り出されている掲示板だ。

 とはいえ、俺もシウも緊張の色はない。あそこまで探索して落ちていたのなら、もはや試験の意味はないだろう。


「……あった。俺の名前も、シウの名前もあるぞ。シウの名前はシウ・ヒムノリアだが」

「ああ、安心いたしました」


 シウが胸をなで下ろす。だが、その仕草もどこか受かると確証があったような動きだ。


「それでトーヤさん、もう一つの方は……」

「待ってくれ……ふむ、ブル、ロッソ、キーレン、この三名は罰金、奉仕活動、貢献値の無効化、奉仕活動が終わるまでは銅石級への降格と書いてあるな。きちんと処罰されているようだ」

「ああ、それも安心いたしました」


 こちらは本気でシウが微笑む。それにしても思ったより重い罰だった。期間限定とはいえ、銅石級への降格まで課すとは。おそらく、昇級試験中にやらかしたというのが理由の一つでもあるのだろう。

 結果を確認してからカウンターへと向かう。偶然なのか、俺たちの対応をするのは昇級試験の結果報告をした受付嬢だった。彼女も俺たちを覚えていたらしく、用件を話す前から箱を二つ取りだしている。


「こんにちは。銀翼級の昇級試験の結果を見てきたんだが」

「はい、心得ております。トーヤ様、シウ・ヒムノリア様、両者ともに銀翼級への昇級を認めます。こちらは銀翼級のプレートと、ギルドマスターからの承認書となります。プレートを紛失した際はこちらの承認書がなければ再発行に時間がかかりますので、大切に保管しておいてくださいね」


 鉄洞級の時にはなかった承認書を受け取る。銀翼級ともなれば実力は大きくなり、だからこそギルドマスターの承認書などである程度制約を設けているのだろう。鉄洞級まではあっさりと再発行されるプレート一枚にしても、この扱いだ。

 要するに、実力があるからといってあまり好き勝手に振る舞われると困るというギルドから暗に告げているのだろう。まあそれは分からないでもない。


「それと……処罰者の掲示も読まれましたか?」

「ああ。俺もシウもあの処罰で満足しているよ」

「それはなによりです。あの三人はあなた方へ行ったこと以外にも色々と細かな違反を犯しておりましたので、あのような処罰となりました」


 受付嬢の言葉に頷く。あとは三人が逆恨みしてこなければ、俺たちとしてはもうこの件を蒸し返すつもりはない。

 それを察してか、受付嬢が二つの箱を差し出す。


「それではこれが銀翼級のプレートとなります。ご確認ください」


 木の板に並べられていた鉄洞級の時とは違い、丁寧な装丁の箱を開ける。そこには銀翼級のプレートがきちんと収まっていた。


「ああ。確認したよ……今ここで着けても?」

「どうぞ。あなた方はすでに銀翼級なのですから」


 頷き、鉄洞級のプレートを外して付け替える。シウも同じようにしようとして、俺の方を向く。


「申しわけありません、トーヤさん。付け替えてもらえませんか?」

「ああ、いいよ」


 シウが首を屈め、髪の毛を手ですくい上げる。露わになった白い首筋に少し胸を高鳴らせながら鉄洞級のプレートを外し、銀翼級のそれと付け替える。


「うん、似合ってるよ、シウ」

「ふふ、ありがとうございます」


 指先でプレートに触れて微笑む。そうして、受付嬢へ鉄洞級のプレートを返却する。


「はい、では今後お二人は銀翼級からの依頼を受領することが可能になります。おめでとうございます」


 受付嬢の言葉に、鉄洞級の時と同じように周りから祝福の言葉がかけられる。だが、今回はどこか俺たちを値踏みするような視線も入り交じっている。

 おそらくは、新しく台頭してきたライバルを見極めるものもあるのだろう。俺もシウもそれに臆することなく、堂々と銀翼級のプレートを見せつけるように胸を張る。


「それでは、拠点に帰りましょうかトーヤさん。皆が祝いの準備をすると張り切っていてくれましたよ」

「……そうだな。そうしよう」


 今日は朝から皆がそわそわしていたのが眼に見えて分かる日だった。まあ基本的に依頼をこなして金を稼ぐ日々だ。こういう口実で普段とは違うことができるというのは浮き立つものだろう。

 もっとも、イルシュカ辺りは確実に酒を飲む口実ではあるのだが。

 そして――。


「……どうかされましたか?」

「……いや、なんでもない……わけはないか。帰ったら話すよ、皆の前で」


 取り繕うとして、やめる。どうもシウは俺の命の形を視て、ある程度感情や思考が分かるらしい。俺たちが顔色を見て推察するように、シウは命を視て推察しているのだ。

 それは試験発表までに何回か合同で受けた任務の時にも発揮されていた。たとえば討伐の時にもう向かってくる気のない魔物を見分けたり、森の中に潜む魔物を殺気から発見したり。

 精霊であるヴェルにも勝るとも劣らないその能力に俺たち全員が舌を巻いたものだ。そして同時に歌による援護、逗留の間に改良を加えた応援歌による支援には随分と助けられた。

 一日半を見込んでいた依頼が半日で終わったりと、その恩恵は計り知れない。

 そんなシウに、是非ともパーティーに加入して欲しい。

 だが、そのためには言わなければならないことがある。

 元々、銀翼級へ上がった時に告げると決めていたことがある。


 俺の、出自だ。

 本当はこの世界の人間ではないこと、フィーから加護をもらっているからこそここまでの能力があること。自分の実力で得た力ではないこと。

 それを聞いて皆がどういう反応を示すのか分からない。俺がここまで嘘をつきつづけていたことに、どう思うのかが分からない。

 怖い。そんな余計なことは言わなくてもいいと俺の弱い部分が告げている。

 でも、それでも。

 これは言わなくてもいいけれど、言わなくてはならないことなのだ。

 俺がクロエたちと本当の仲間になるために。

 傲慢かも知れないけれど、それでも言わなくてはならないのだ。

 そしてもしもそれが受け入れてもらえたのならば。

 その先にこそ俺が目指す、フィーが求めたうねりというものを産み出せる、その一歩となると思う。

 それでも、やはり怖い。もしも拒絶されたならば。そんな想像ばかりが頭の中によぎる。


「大丈夫ですよ。皆はトーヤさんのことを理解しています。トーヤさん以上にね」


 そんな俺の背に手を当て、シウが告げる。振り向くと、シウの瞳がじっと俺を視つめていた。


「そうだな……そうだよな」


 なんの根拠もない言葉だけれど、俺はシウに向かって頷く。

 そうして、拠点へ向かって歩き出した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公さん、本当に良い人ですね!カッコ良いです〜
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