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第26話「女の本音」

「はい、これ返すわね」


 そう言って、サオリは身分証を差し出し、


「ありがとッス」


 それを受け取るヴァンプ───……が!

 「待った」と、サオリががっしりとそのヴァンプの手を掴んだ。


「んな?!」


 うぇ?! な、なんぞ?!


「ねぇ……」

「うひっ?!」


 ほぼゼロ距離にサオリの顔が近づく。

 彼女の吐息すら間近に感じられるソレ───。


「さ、サオリさん?! ち、近いッス」

「ふふふ……。アタシ聞いちゃったの」


 へ?


「な、何をッス? 誰にッス?」


 な、なんだ?

 何を聞いたって?


 えええ?

 俺、どっかでミスしたっけ??


「んふふ~。…………聞きたい?」


 ヴァンプは内心の動揺を抑え、今一度冷静に状況を分析する。


 そして、周囲の様子をコッソリ探った。


 もしかすると、既に身バレしており、周囲には軍が部隊を率いて包囲している可能性もあるかもれないと───。


 だが、


(ありゃ?……感知範囲にはこっちを注視している気配はない?──んんー? ホントにサオリだけだな? 人の気配すらないぞ?)


 どうなってるんだ?

 あ、いや。それよりも……。


「な、何を誰に聞いたんス?」


 ニヤニヤとしつつも、どこか妖艶な笑みを浮かべるサオリ。

 彼女は至近距離でヴァンプを(なじ)る様に見つめていた。


 そして、ニチャァ……と口を開けると、まるで猫がネズミを甚振る様に、実にさも楽し気に言うではないか。


「───クリスティから聞いたんだけど、」


 ぬむ?

 く、クリスちゃんから?


「……アナタ。先日の古戦場で、スケルトンの名前を一体一体言い当てたんですって?」


 …………………………は?


「えっと??」


 それが何だって言うんだよ───。


「……なぁんで、普通の人間のアナタ(・・・・・・・・・)が、昔の戦士の名前を知っていたのかしら?」


 それも、た~くさん。


「んね?───お姉さんに教えてくれないかしらぁ? アタシ、すっっっっっごく興味あるんだけど」


 う…………………………。


 あれか。

 あの時のことねー……。


 ……………………え?


(そ、それが……なにか変なことか?)


 敵を知るのは戦いの基本。

 たまたまヴァンプの記憶力が良かっただけでおかしなことなど一つも……、

「い、いや───その、たまたまッスよ。たまたま!」


「……たまたま? たまたま(・・・・)忘れられた古の戦士の家紋を覚えていた(・・・・・)って言うのかしら?」


 あ……。


「あぅ、あ。その───…………」


 や、やべぇ……。

 そ、そそそ、そうだった。


 人類は短命種が多い。

 エルフやドワーフでもない限り、普通(・・)は、大昔の名もなき戦士のことなど誰も知りはしないのだ。


 ましてや、

 あの戦場(・・・・)は魔族が功を競った場所。


 完全勝利し、人間を完膚なきまでに叩きのめした屠殺場だ。

 人間の家紋など、戦った当事者くらいしか覚えていないだろう。


 すなわち、あの戦場のスケルトンの個人を特定できるのは……。


 全滅した人間の軍と─────魔族だけ。


 つ、つまり…………。


「───ほ、ほら! あれっす! も、紋章官のバイトを昔にしてたことがあって、家紋をちょっと勉強してて……」


「国は滅び、すでに御家すら存在しないような古き騎士の家紋を、アナタが一体どこで勉強したのかしら?」


 ぐ……。


「と、図書館ッス」

「あら? アタシの所属する、王立記録院にだって残っていないような資料を閲覧できるような図書館があるの? へぇ」


 うぐ……。


「く、クメルバ共和国首都には、デッカイ図書館があるんス!……そこの本を、」

「ないわよ?」


 へ?


「ないのよ」


 やけにはっきりと否定するサオリ。

 だ、だけど、そんな一方的な───。


「いや……。な、なんでそんなことわかるんス? サオリさん、行ったこと無しでしょ?!」

「いーえ? もちろんあるわよ? それに、あそこの図書の目録を作ったのはアタシなのよ?」


 げ……!


「ま、マジっす?」

「本気と書いて、マジよ」


 「たしか、100年くらい前かしらね~」と、サオリは昔の記憶を遡っている。

 そりゃあ、ヴァンプの出まかせではあるけど、まさか本当に?!


「ふふふ。……この世界にアタシが関係していない図書館や記録院なんて、どこにもないんじゃないかしら?───それこそ、魔王軍支配地域(・・・・・・・)の図書館を除いて、ね」


 ぐ、クソ……。


 つーか、この腐れアマ───、一体何歳なんだ?


「ねぇ、ヴァンプ?…………………どーして嘘つくのかしら? ねぇ……どーしてぇ?」


 目を細めて薄く笑うサオリ。

 妖艶な気配を纏い、女の香りが鼻に絡みつく───……こ、コイツ。


「う、嘘じゃないッス───ちょっと、記憶違いというか、あはは」


 ………………や、ヤバイ。

 つい変なこと口ばしっちゃった?!


 ぼ、墓穴掘りまくってる!


「んふふ~……記憶違いで、スケルトンの名前が分かっちゃうのね?───全滅した古の国の戦士たちのことまで、へぇ~」


 「凄い、凄い」と白々しく拍手してみせるサオリ。


 その目は全く笑っていないし、瞳の奥は既に確信に満ちている。


 そして、

 もう誤魔化しようがない───……。

 真実はすぐそこに……。


「あの国が滅びたのは、数百年も前のこと───……。それをまるで昨日のことのように思い出せるなんて……」


「だから、違───」


 しかし、サオリはヴァンプには皆まで言わせず、フルフルと首をふると、

「…………やっぱり、魔族は不老なのね」


 少し寂しげな眼をしてポツリとこぼす。


 そこに何かの感情を読み取れそうな気がしたものの、サオリは表情を消してしまった。

 何気ない様子にチロリと赤い舌を出して唇を舐める妖艶な仕草。

 それにヴァンプの思考が乱される。


 それにしてもこの仕草!

 それは、まるで捕食獣を思わせ表情にもみえ、ヴァンプをして背筋が凍る思いだ。


(ど、どうする? どうすればいい?)


「……ねぇ、どうするの? 魔族さん」


 や、()るか?!

 物陰に引き込んで喉をこう、「ブシュ」っと、一気に掻き切れば───……。


「殺す?……ねぇ、殺しちゃうぅぅ?? あははは! その手に隠し持ってる匕首(あいくち)で私の喉を切っちゃうのぉ?」


 うふふふふふふふふふふふ。


「ぐ……」


 見透かされてる。

 こりゃ、不意はつけそうもないな……。


 しかし、コイツ……何が狙いなんだ?!


 ネチネチとしつこく攻めてくるが、お、俺は絶対に自白しないぞ!


 こうなったら俺も覚悟を決めよう。


 サオリ──────悪いがここで死んで、






「………アタシね。人類とか魔族とかどうでもいいの」

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