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第20話「古の戦士」

 

「ひぃぃいいいい!!!」


 再び群れるスケルトンに悲鳴をあげるクリスティ。

 その目が光を失いようになった時──────。


「クリスティ!!」


 意外に程近くで声をかけられ、ハッと顔を起こした。


 え?

 今の声って…………。


「ヴぁ、ヴァンプ?」


 いつもの飄々とした雰囲気を潜めたヴァンプ。

 その鋭い目に射抜かれたクリスティは思わず息をのむ。


「な、なに? ヴ、ヴァンプ?」


 細目の先の綺麗な瞳に心を見透かされたようで、クリスティの心臓がドクンと跳ねる……。


「クリスティ───アンタが何を恐れているのか俺ッチには分からないス……。だけど、彼らをちゃんと見てやってくれ」


「コカカ───」

 ガシッ!!!


 そう言って、ヴァンプは襲い掛かってきたスケルトンを一体、羽交い絞めにする。

「コカ──────?!」

 それを目の前で拘束し、爛々と目を光らせる骨面をクリスティに間近で見せた。


 うぎぎぎぎぎぎぎき……。


「怖いっすか? 怖いッスよね?」

「ひ、ひゃああああああ!!」


 ゾワリと背筋が跳ねるクリスティ。

 目の前の骨が、歯をガチガチと鳴らして噛みつかんとしてくる。


 その様が、

 幼少の頃に───修行の一環として放り込まれた地下墓所(カタコンベ)のなかを思い出させた。


 暗く……かび臭い地下墓所(カタコンベ)


 死者を埋葬するとき以外は誰も寄り付かない空間で。

 哀れな骨が一人で寂し気に彷徨っている。


 そんな場所に、クリスティは放置されたことがある。

 それは授業の一環ではあったのだ。

 浄化の魔法を鍛えるために、世話役とともに放り込まれクリスティ。


 だが、彼女は不幸にも内部で遭難してしまった。


 無数の分岐の果てに、明かりを失ったクリスティは、何日も地下墓所(カタコンベ)を彷徨い、スケルトンに追われ、精神をボロボロにされてしまった。


 それが故に、神官としての力量はドワーフ族の中でも……いや、人類全体の中でも最高峰を誇るというのに、欠陥品の扱いを受けてしまったのだ。


 今回の魔王討伐のパーティに入れられたのも、当代の神官の長である大僧正を守るための捨て石でしかなかった。


 力こそ劣るも人当たりも良く従順な当代の大僧正を生かすため、ドワーフ神殿の奥で燻っていたクリスティが駆り出されただけ。


 当代の代わりに行けと。

 ……まるで、生贄のように差し出されたのだ。


 そして、ここにいる。

 よりもよって、最悪の状況で彼女はトラウマを爆発させた状態で。


 そう、クリスティはこの重要な作戦の最中にあって、アンデッド恐怖症を出してしまいパーティを崩壊させる一歩手前に追い込んでしまった。


 だけど、

「───……だけど、見るっス」


 この男は何を言っているのだろう───?


 得体の知れない冒険者出身の斥候役の青年は、たった一人でクリスティを助けに入り、身を挺して守ってくれた。

 だけど、そうでありながら彼女を虐めるようにスケルトンをつき出してくる。


 それは恐怖以外の何者でもない。


 だが、ヴァンプは許さない。

 アンデッドに恐怖するクリスティの目を、真っ直ぐに見て言う。


「───これは何に見えるっスか?」

 は?!

「クリスちゃんの目には恐ろしい化け物に見えるッスか?」


 あ、


 あああああ、当たり前だ!!

「当たり前だよぉ!」


 骨が動くなんて化け物以外にあり得ない!!


 こんな醜い、醜い、汚くて臭い、醜悪な化け物なんて─────────!!


「化けも」

「───彼は、グスタフ・ボールドウィン。200年前に戦死した、オーデロン王国の騎士ッス」

 

 ……は?


「見るっス。彼は化け物じゃない。化け物じゃないんス───」

「な、何言ってんの……」


 この男が何を言っているのか分からない。


 骨だけで動く化け物が、騎士なわけがない。戦士なはずがない。


 こいつらは化け物で、騎───


「騎士なわけがない!───こいつは化け物だ、そう思ってるっスね?」


 …………その通りだ。

 その通りだよ!!!


 こ、

 こんな醜い化け物───……。


「これを見て欲しいっス。これは、ボールドウィン家を示すチェック柄ッス」


 ヴァンプはスケルトンに体に引っ付いていたボロ布を破り取り、クリスティに示した。


 それは複雑な意匠を施されており、二つと同じものはなさそうだった。


「───人類軍(・・・)は遠征時には必ずチェック柄の服を身に着けるッス。これは戦死した時───骨になってもその人が誰か分かるようにするためのものっス」


 そ、それは確かに聞いたことがある。


 実際、クリスティも法衣の一部にチェック柄が入っており、それは一家に一つの物と聞かされてきた……。


 だからって───。


「この人は、ヘンゲルド家の侍従、メンナスさんスね」


 さらに一体にスケルトンを地面に抑え込むと、そのチェック柄を判読して見せる。


「この人は───」


 この人は、

 この人は、


 この人は──────……。


「見るっス。みんな人間っス。……化け物じゃないッス」


 そう言って、真っ直ぐにクリスティを見つめるヴァンプの目。

 なにか言いたいことがあるのか、それでも黙して語らず───クリスティをじっと見つめるのみ。


「で、でも──────……」


 何か言おうとするクリスティ。

 だが、ヴァンプは語らない。もはや、クリスティを真っ直ぐに見つめるのみ。


 彼の目が言っていた───「彼らは人間ッス」と……。


 そ、そんなこと……。

「そんなこと───」


 し、

 知ってるよ。

 知ってるよ!!


 知ってるけど──────!


「怖───」くないッス……!」




 ソッと、クリスティの頭を抱きかかえたヴァンプ。


「あ…………。ヴ、ヴァンプ?」


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