第10話「ジレンマ」
舐めプ全開のヒラヒラした服───「せーらー服」とかいうやつ。
防御力はほとんどない。
───まぁいいか。
あれ、防御力無さそうだし。
攻撃側のヴァンプ達にとっては好都合だ。
そういえば、今度──隙があったら殺せって、魔王様からも言われてるし、ちょうどいい。
あの命令も、もうちょい早ければなー。
先日、望むと望まぬと、ナナミと添い寝するはめになったのよね。
命令がもう少し早く出ていれば、ヴァンプは迷わず勇者の寝首を掻いていたのに……。
(しゃーないっスね……。そう上手くはいかないものっス)
逃したチャンスは大きかった……。
だけど、まだまだ機会はあるはず。じっくりと待つとしよう。
───それまで、ヴァンプの胃が持てばだけど……。
だって、この子……無意識に結構エグイ攻撃してくるのよね……。
たまに俺ッチのこと気付いていいるんじゃ───とか気になっちゃう。
なんか、やたらと懐いてきたと思えば、たまに勇者パワーで思いっきり殴ってくるし……。
ヴァンプが魔族で四天王の強者でなければ、脳ミソがバーン! と破裂していてもおかしくない……。
本気でそのうち死人が出そうだ。
まぁ、いいや。人類のことは関係ないしね。
───このまま懐かせておこう。
……あんまし、くっ付かれるとマジで怖いけど。
「───イチャついてないで。……で、どう攻める? スケルトンくらいなら正面から特攻しても問題ない気がするが……?」
「イチャついてないッス」
「い、イチャつくだなんて……キャッ♪」
いやいやいや、イチャついてないっつーの!
で……ナナミちゃんは、何を顔を赤くしてるのよ?!
人のこと、全力でぶん殴っておいて「キャッ♪」じゃねーよ、ボケッ!!
ぶっ殺しますよ?!
……んで、脳筋のオーディさんよ。
アンタは自慢の剣をズラリと抜いて不敵に笑ってるけど、この微妙な空気に収拾つけてよッ!
ばーか。
「馬鹿ねー。敵は後方警備部隊だけじゃないわよ。重要地点なんだから守備部隊が近くにいるに決まってるじゃない」
お……その通り────。
チッ───サオリめ……。
伊達に800年生きてる年増ババアなだけはある。
他の連中よりはお頭が回るらしい。(なんか「年増ババア」って言った瞬間睨まれたような……??)
そう、サオリのいうとおり、補給処の近傍には有力な魔王軍が控えている。
それも機動力の高い部隊で、戦場の火消しとして便利使いされる機動旅団だ。
だが、わざわざそれを教えてやる必要はない───。
なんたって、勇者たちに言われたのは補給処の捜索と内部の偵察だ。
その任務は充分に完遂した。
しかも、地図付き。これだけあればオマケが来るわいッ。
普通、これだけの成果があったら十分に信頼に足るだろう。
勲章を貰ったっておかしくないだろう。───要らんけど。
「む……なるほど。言われてみればそうかもしれんな」
「そ、そっすよ! せっかく俺ッチが苦労して地図まで入手したんスから有効活用してくださいッス」
ここぞとばかりに、苦労アピール。
とは言え、さほど苦労したわけではない。
なんたって、潜入工作員。元の所属は魔王軍だもんね。
こーいうときは、四天王の階級章と魔王軍の身分証を持って、堂々と補給処に行き、「オッス、オッス」って感じで挨拶してから───ちゃ~んと、正式に許可を貰って地図の写しを取ってくればよい。
もちろん、魔王軍文書管理課の地図の発行担当にも確認しているよ?
ゆえに、写しとはいえ───正式な許可つきの、正真正銘の魔王軍の補給処の地図なのだ。
「───むぅ。気に食わんが、その汚れっぷりからすると随分苦労したのだろうな……」
忌々しそうにオーディはヴァンプの全身を見下ろす。
ジロジロ見るなし、そっち系の人かと思っちゃうぜ……?
───確かにヴァンプの汚れっぷりは酷い。
はたから見るものには、いかにも長期間の苦労がしのばれるだろう。
もっとも、この汚れはワザとである。
潜伏していた風を強調するため、わざと体をドロドロに汚して苦労を装っているだけだ。
実際には、その辺で適当に時間を潰してからのこと。
つい数時間前まで補給処の酒保で、茶ぁシバいてました。
で、あとは──……頃合いを見計らってから勇者パーティを呼べば、凄腕斥候かつ、苦労人ヴァンプさんの完成だ。
ん?
補給処の魔王軍に何か言われなかったのかって?
……言われても、そんなもんごり押しですよ。ごり押し。
ヴァンプさんこう見えて、四天王。
魔王軍では階級序列最高峰の『隠密のヴァイパー』さんだよ?
師団も持ってたんだから!
……壊滅させちゃったけどね。
ま、よーするに魔王軍内では、魔王様の次くらいに偉いんだからね。
ふふふ、下っ端どもに逆らえるはずもなし。
というわけで最高機密でもある補給処の地図をちょろまかしてきたというわけだ。
それもこれも、魔王様の命令に忠実に従うがゆえ。勇者の信頼を得るためにやむを得ない手段なのよ。
軍の機密より、魔王様の勅命の方が上位──────だから、これは主命なのだ。
そうして、ドヤ顔をしていると、オーディを始め、勇者パーティの面々が殺気を募らせていく───。
え?
な、なになに?!