第9話 桜色の小京都ー急ー
桜咲く兼六園。ここは県内随一の桜の名所として知られるとともに全国においても名勝兼六園として名を轟かしている。
兼六園という名前だけが有名になっていくことから名称ではなく、名勝兼六園と言われているそうだ。
その中に地元の人にすら知名度が高くないとある歴史的建造物が1つ。それが成巽閣だ。前田家13代目当主の斉泰が母の隠居場所として建築したそうだ。
「え?けっこもういるんだな」
中西は成巽閣のチェックポイントに十数人の人が群がっている光景に驚きを隠せなかったようだ。
「そうだな、13代に母と具体的なワードが多かったからかもな」
「そんな純粋にすんなよお」
中西と話しながらチェックポイントで『SSA関係者』と書かれたお兄さんから紙を渡され、そこにCP1のデザインが描かれたスタンプを押された。
ちなみにこのお兄さんはSSAのOBさんらしい。やっぱりこうゆうのにすら外部から取り入れないあたりに保護体制の厳戒さが垣間見える。
兼六園を出て老人があるけば転げ落ちるような坂を下っていた俺たちの前からまさかの老人が歩いてきた。さらになんと話しかけてきた。
「ほっほ、修学旅行かね?」
いやこの時期に修学旅行はないだろ。。
「いや4月に修学旅行はねーよじいさん」
んで?なんで中西そのまんま言ってんの?
「へっへそうかのー、まあ楽しみなさいや。青春時代は人生のほんとに短い間だけなんじゃぞ」
そういうとお爺さんは俺と中西の肩をトントンと2回たたき坂の上へ杖をつきながら登っていった。
この時俺たちは気付いていなかった。俺たち自身に脅威が迫っていることに。
「よけろおお!秋月!!!」
え。この声は月城先生?!なんでこんなところに?
背後からの突然の怒号に俺の思考は停止した。
その一瞬のうちに俺は月城先生に飛び蹴りをくらい、坂の端っこに蹴り飛ばされた。
「ぎりぎりだったな、、、」
俺は混乱していた。意味がわからなかった。お爺さんと話した直後、いるはずのない月城先生が俺たちの背後に現れ、直後飛び蹴りを入れられたのだ。
色々理解できないことがあるが、たしかに俺の瞳に映るものが1つ。明らかな驚形、腹部の先の桜が体を透けて見えていた。
———-血だらけの月城先生だ。
「リストレイント」
月城先生が言い放った直後、地面から黒い鞭のようなものが出てきて、それはさきほど俺たちと話していた老人に絡みついていった。しかしさっきとは違い老人の手は赤く染まり、全身が返り血で先ほどの面影はなかった。
老人は瞬く間に黒い鞭のようなものに顔面以外の全てを纏われ拘束されてしまった。
「せ、せんせい。どうゆうことですか」
現場の坂は騒然としていた。スマホのシャッター音が鳴り止まない。
「この老人に肩を叩かれただろ?」
「は、はい、、」
俺の声は掠れていた。とゆうよりも出なかった。恐怖に声帯が圧迫されていた。
中西は口元を押さえながら坂の脇に立ち並ぶお土産やさんの壁によしかかっていた。
「あの肩を叩いた時にお前たちの魔力を測ってたんだよ。このクズ野郎は。そして、200以上魔力量があったお前たちは当然組織の抹殺対象だった」
組織ってなんだよ、なんで殺されなきゃいけないんだ。てかなんで月城先生はここにいるんだよ
聞きたいことは山ほどあったが俺の口は開かなかった。月城先生は息を荒げながら話続ける。
「その組織こそが国内最大の反政府組織、angeだ。」
理解はできないがするしかなかった。俺たちのような将来的に政府側に立つことになる人間を若いうちに潰したかったというところだろう。
貫通した腹部を抱えながら月城先生は
「先生、お願いします」
と言い残して、その直後に姿を消した。
なんだったんだ今の時間は。。
周りからの一般人の騒ぎは留まるところを知らない。
結局、唖然としたままその場から動けなかった俺たちが、魔法警察に保護されたのはそれから10分ほどたった後のことだった。
時は10分ほど遡り、生徒たちが泊まっていたホテルの大広間では、学年の先生。さらには副学校長が腹部に穴をあけ帰ってきた月城先生の治療に当たっていた。
「ふーー、これで大丈夫ですけど」
汗だくで弱々しい声を放った人物は4組の担任の白須賀という若い男だった。得意魔法は回復。噂によれば蘇生も条件つきでできるとかできないとか
「21世紀美術館裏の広場で魔力量1500越えの人物を発見。特定に移ります」
淡々と報告するのは1組の担任の松中先生。得意魔法はサーチ。半径50キロもの広大な範囲の人の魔力量を計測でき、さらには1人に的を絞った時にはその人物の個人情報までもを特定できる。
「enge所属の53歳、日比谷輝と特定。早急に現場に誰かお願いします」
「僕行きますよ」
「月城先生、まだ無茶じゃないのかね?」
すっかり元どおりになった月城先生を諭したのは副校長だ。
「いや、このくらい現役時代に比べたら全然ですよ。ほらさっきの二の舞にならないように早く転移お願いします」
月城は4組担任の秋山という若い女の先生に言った。得意魔法はもうお察しかと思うが転移。人も含めた対象を半径50キロ以内のどこにでも転送できる。ただし重量が重くなるごとに成功率が低くなっていく。
まあもっとも人1人くらいなら、いらぬ心配だが。ちなみにさっき月城が秋月たちの元に突如現れたタネもこれだ。
「いや月城さん休んでてくださいよ、このくらい自分行きますよ」
月城が転移される直前で声をあげたのは、5組担任の神堂だ。正面戦闘全般が得意な上に、視覚奪取という相手の視界を一面暗闇に変える超高難易度魔法の取得者だ。たしか国家警察魔法部の重鎮を務めていたが、とある出来事がきっかけで教師に転職しだそうだ。
月城は5大魔術師から、神堂は国家警察重鎮から教師に転職した。お互い先生連中の中では実力が頭1つ抜けている。ちなみに神堂は月城をライバル視している。
結局神堂が現場に転送された。
「いや全く、今年は優秀な先生が勢ぞろいですなあ」
呑気に高らかな声をあげたのは副校長だ。
「だから例年ではありえない花の都を研修先に選んだんでしょう」
回復が得意な白須賀がそう言った。事実、今年は月城十六夜というビックゲストが学園の先生として来ることから運営陣はこの代に有力な先生を詰め込んでいた。
そして通常地方の都市や山奥で行われる研修を魔法世界においての4大都市の1つ。『花の都金沢』で行ったのだ。
こんな英才教育もこの代から各界の重鎮を輩出しまくって伝説の代と言われるような学年に育て上げるためだ。
そう17年前の第100期生のように。