第8話 桜色の小京都ー序ー
入学研修旅行2日目。朝ごはんをホテルのレストランで済ました俺と中西と夏目は部屋でスマホゲームをしていた。
「よしきた!よしきた!ハイスコアあるぞこれ」
中西は興奮して音ゲーを楽しんでいるようだ。余談だが音ゲー中にメール等の通知が来ると曲が中断されるため少しイラっとくる。いや内容によっては殺意すら湧いてくる。
『ピコン!』
そうこのように通知がなるとムカつくのだ。
「はあああ?学校から?フザケンナよおい」
案の定中西はブチ切れている。一体なんの内容だと俺と中西はそれぞれのスマホでメールを見るとそこにはこう記載されていた。
入学研修旅行2日目について。
1年指導課
本日はフリータイムとする。ただし、ホテルの部屋には清掃が入るため金沢観光に出掛けること。その際以下のヒントを元に7つのチェックポイント全てを発見した生徒には通常定期試験や特別試験でしか獲得できない校内ポイントを与えるものとする。2日目はボーナステストと思って有意義に過ごすこと。
なるほど。観光時間は3日間の中でさすがに半日はあるだろうと思っていたが1日丸ごとは少し想定外だった。そして何より想定外な事がもう1つ。
全てのチェックポイントを発見した場合、校内ポイントを貰えるということだ。これは恐らく今後なかなかない機会だろう。これを見過ごす手はさすがにない。
しかし問題はそのヒントが少し厄介なことだ。いや少しどころか全て意味が分からない。送られてきたヒントがこれだ。
ヒント1。13代が母のために。
ヒント2。主人公がいた場所
ヒント3。清流と緑と和菓子。その神の土地
ヒント4。天から見れば丸。水中
ヒント5。古都を見下ろす400年の森
ヒント6。命の幸。金沢の大阪。
ヒント7。歴史ある現代建築。始まりの場所
うん。さっぱり分からない。さすがに校内ポイントを観光のついでに、、、と言った形で配る気はなさそうだ。やるならフリータイム全てを返上して挑戦する必要がありそうだ。いやそれでも全て見つけれるか危うい。数多い観光名所を1から巡っていけばタイムオーバーは必須だし、かといってこのヒントを解くのは正直骨がおれそうだ。
まあそれでも校内ポイントがかかってくるとなればやらない生徒の方が少数派になってくるだろうが。
俺も中西と一緒に回ることにした。ちなみに夏目は
「ガチでいきますわぁwwwwww」
という言葉を残してなにやらパソコンをいじり始めた。恐らく入念に場所を特定してから一気に回るつもりなのだろう。
俺もさすがにノープランで行くのは危険だと思い、中西とメールを見ながら考察した。
「いやー、さすがにメジャーなとこだとは思うんだよな」
「でもよお、秋月。金沢は歴史的建造物も博物館も現代建造物も山ほどあるし、メジャーなとこ全部当たってる時間はないぜ?」
「まあー、そりゃそうだよな」
「でもよ、実は俺もう1つ分かっちまったんだよ」
「まじでか?中西」
俺は少し驚いた。あのアホの中西が俺より先に1つ分かるとはな
「ヒント1の13代ってよ、市長さんのことだと思って検索してみたんだよ。ただ母についてのものなんかなかった。そんで次は金沢の武将について検索してみたんだ」
「あー、100万石の前田家か。」
一応説明しておくと前田家とは織田信長の幹部級家臣の1人前田利家のお家で加賀100万石と言われる日本屈指の繁栄を見せた大大名だ。
「んで、その13代目がどうしたんだよ」
「それがよ!調べてみたら成巽閣っていう建物が13代目の前田斉泰さんの母親の隠居場所だったんだよ」
いやごめん。どこそれ。思わずすぐに反論に移ってしまった。
「いやいや。でもそんな聞いたことない所をチェックポイントにするか?」
「ところがどっこい!その成巽閣っていうのは兼六園の中にあるんだよ!これならチェックポイントの可能性は全然あるだろ」
うそだろ、アホの中西。。。アホキャラどうすんねん。
「え?まじで?兼六園って3代名園のあの兼六園?それもう正解やん」
そうして普段はクソの役にくらいしか立たない中西の奇跡のひらめき(といってもネットサーフィンしただけ)によって俺たちは1つ目のチェックポイントを特定した。
パソコンとにらめっこしている夏目に別れをつけだ俺たちは市内バスで兼六園に向かった。
当然バスの中でもヒントの解読に努めていた。その中でいくつか解読に成功したヒントがあった。
まずヒント6は恐らく近江町市場という金沢の活気ある市場だろう。
命の幸は市場であることはもちろん。ここは金沢市民に市民の台所といわれている点からも、天下の台所と言われる大阪と共通点を見出した。
さらにヒント7は歴史ある現代建築で、金沢の旅の始まりの場所という点から金沢駅の鼓門だと予想した。
ここは世界の美しい駅100選みたいなのに選ばれた国内たった2つの駅の1つだしここを見せたい学校側の意図も見える。
ヒント3は茶とお菓子から茶屋街と推測。さらに清流という点から浅野川が横に流れる東茶屋街だと特定した。
とりあえずその4つをバスに乗って一気に巡ることにしたがどうしてもあとの3つがわからなかった。
「天から見ると丸。水中。うーーん、水族館かなんかか?」
「そりゃさっき調べたけど水族館は市内になかったじゃねーか」
「はー、意味わかんねえなあああああ」
おいここはバスの中だぞ。後ろのおばあちゃんがお前の大声にびっくりして入れ歯を飛ばしちゃったじゃないか。それが後頭部にぶっささっている俺の気にもなってくれよ。
時と場所を同じくして中西の声に驚いたご老人が飛ばした入れ歯が後頭部にぶっささっていた魔法学生がもう1人。鈴星花音その人だ。
「ねえー、花音!ほんとに秋月くんたちについてって大丈夫なの?あの人たち言っちゃなんだけどアホだよ?」
入れ歯がささったままバス前方を見つめる親友に困惑しながらも梅園莉子が囁いた。
「知らないわよーー!私の目的は校内ポイントじゃなくて秋月くんのメアドを手に入れることなの!」
大きな囁き声で入れ歯がささったままの少女は返事をしてきた。囁き声の意味を理解していないのだろうか?
「え、でもやってること。ストーカーだよ?」
「違うわよ!平安の時代も恋する異性のもとに通い詰めたでしょ??それと同じよ?」
「はあー。お好きにどうぞ」
ため息をついた莉子は悟った。あー、こいつ秋月くんたちよりアホだわ。。。と。そしてそこから反論することを放棄した。
秋月、中西、鈴星、梅園、さらに入れ歯がとれた老人数人を乗せた市内バスは兼六園へと向かう。窓の外では強風に晒された桜が1枚、また1枚と散り始めていた。