第5話 決着。
爆風が晴れるとボロボロになった西宮先輩ともう瀕死状態の荒川陣営の1人が見えた。この瀕死の男は見たことある顔だ。
たしか名前は、、、そうだ隣のクラスの「西園寺龍平」だ。
彼は国立仙台魔法中学に通っていたとかで、すでにある程度魔法で戦うことができるようだったがこればっかりは経験の差だろうか、
魔法量自体は西園寺の方が多い可能性すらある。それでも彼の爆発がジャストミートするタイミングを避けた上で吹き飛ばされる前に彼に全力のパンチをぶつけた西宮は強かった。
いくら魔法が扱えるからといってこのタイミングを掴めるようになれたのはやはり踏んだ場数の差だろう。
「残念だったな1年生。いい魔法だったがやろうとしていることが見え見えだった。これからに期待だな」
西宮先輩は瀕死の1年生に詰め寄りそう言った。そしてぐったりと座っている彼にアッパーを食らわしKOした。これで東雲研究室側が4人残っているのに対して荒川研究室側は2人。もう勝敗は見えていた。
「水瀬!このまま旗取りに移るぞ!」
「オッケー!夕輝、援護するわね!」
勝負は順調。勝ちは確実。しかし何かが引っかかる。1年生をさっき倒して残りは2人。だが何かがおかしい。
そしてここで第三者として見ていた秋月は気付いてしまったのだ。
さっき倒された1年生は旗本で守りに徹していたはずなのだ。どうゆうことだ?一体何が起きている。あの一瞬で旗本のやつが体育館中央まで行くとかありえないだろ。
そしてその答えは西宮先輩と桜野先輩が敵陣営の旗の間近まで迫った時に判明した。
「トランスパレント。解除」
西宮先輩と桜野先輩の背後に突如としてさきほど倒したはずの1年生が現れた。そしてもちろん現れただけで留まるはずがなかった。
「瞬間爆破。レベル3」
1年生は2人の肩にそっと触れたのちそう言って2人の肩を中心として大爆発を起こした。不意をつかれた2人はせいぜいこの1年生の存在に気付けたくらいで何もできることなく塵となってしまった。
そして1年生は中央部で爆風に乗じてトランスパレント。いわゆる透明化魔法を使って隠れていた2人と合流して東雲研究室の旗を3人で取りに来た。
そこからは申し訳ないが俺は見れなかった。山田さんと水谷さんは得意魔法を駆使してゲリラ戦を挑んだが、蹂躙されるのみだった。
かくして俺と中西にとっての初めての研究室の試合は訳も分からず混乱のままに敗北に終わった。
その様子を見ていた選手控え室では当然荒川陣営が盛り上がっていた。
「ほらな東雲!やはり勝つのは俺たちだっただろ?」
「やられたな。室長がアホだからてっきり他もアホだと思い込んでいたがアホはお前だけだったのか」
「あ?なんか言ったか?」
「いや、お前がアホって話してたんだが」
「おう、んでお前ってだれだ?」
これを素で聞いているんだから荒川は正真正銘のアホだ。
「やられたぜ、俺も水瀬も反応できなかった」
そう嘆いているのは西宮だ。
「クッソ何が『残念だったな1年生。いい魔法だったがやろうとしていることが見え見えだった。これからに期待だな』だよ。恥ずかしすぎるだろ」
本当にやろうとしていることが見え見えだったのはどっちのことだか。
「俺が吹っ飛ばしたのは序盤で東雲もはめたダミー人形だったみたいだな」
「ああ、ありゃ俺のダミー人形に西園寺ちゃんの時限爆弾をとりつけておいたのさ。人形を動かすことなんて他愛もないが、さすがに爆発魔法を使わせることは無理だからな」
西宮に答えたのは荒川研究室の安藤だ。ちなみに関係ないが彼と西宮は同じクラスだ。
「ああ、やっぱお前のダミー人形だったのかあ、そりゃいくら1年でも仙台魔法中出身のやつがあんな弱いわけないか」
「おいそれじゃあまるで俺のダミー人形が弱いみたいじゃないか」
「事実だろ」
「あざすw」
安藤の返事は投げやりになっていた。こういう時は適当に相槌を打っておけばいいと昔から決まっている。
「ふひー、なにもできなかったー」
「たしかに3vs2にしても相手に一撃も与えられなかったのは私も悔しいわ」
山田と水谷も嘆ている。2年生の2人は人数差があったとしても1年生と同級生2人に完膚なきままに叩きのめされたのだ。なかなか辛いものがあるだろう。
「あー、あの時俺が水谷に回復魔法うってればなあー」
「同じよ。どうせ私をフル回復しても、私1人じゃまたすぐボコられてただけよ」
「あーー、じゃあもうどうしようもなかったのかよおー」
この後2人の嘆きは10分近く続いた。
この戦いは東雲研究室の全員にとって悔しいものだった。もちろん見ている俺たちも含めて。
6月に校内対抗の試合がある。紛れも無い本番だ。優勝を目指す東雲研究室としては当然荒川研究室とも再戦することになるだろう。
その時リベンジを果たすために明日からは研究室内でUNOをしたりMYLIFEを見たり、ましてやイチャイチャする時間なんてないのはもう既知のことだろう。
その日から東雲研究室は本格的に始動し始めた。幸いにも2月の校内大会を最後に東雲研究室はほとんどの体育館使用権やトレーニングルーム使用権などを条件つきで他に譲っていたので6月までほぼ毎日どこの研究室よりも恵まれた環境での練習に挑めた。
1年生の俺たちとしても当然レベルアップは果たすことになる。
だが研究室というのは学園生活においてほんの一部の要素でしかない。その前に俺たち1年生には来週に迫った入学研修旅行、5月後半の中間試験という学校行事を備えている。
俺の魔法世界の高校生活はまだまだ始まったばかりだ。