第16話 集いし7人の精鋭
特別試験の朝。午前8時に全員の携帯に学校から一斉メールが届いた。そのメールで音ゲーを邪魔された中西はご立腹だが、俺としては部屋に帰ってきてから意識を失ったままの夏目がようやく目を覚ましてくれたのでありがたい。
全くこのまま起きなかったら朝飯も食いに行けない状態で特別試験に挑むところだった。
メールの内容は以下の通りだ。
特別試験ルールについて。
1、事前に配布したカードに従って人狼陣営と市民陣営に別れるものとする。
2、人狼陣営の勝利条件は市民陣営の殲滅。市民陣営の勝利条件は市民陣営のうち1人以上が生存することである。
3、試験時間は合計30分。5分ごとに朝と夜を切り替えるものとする。
4、朝は全体チャットが繋がれ全員が1つのチャットラインで会話するものとする。2度目と3度目の朝では生存者の中から処刑する人を生存者による投票で決めるとものとする。
5、夜は狼チャットが繋がれ、人狼同士のみが会話できるものとする。占い師、霊媒師はこの間しか能力を使えない。
6、試験終了後、勝利チーム全員に生死関わらず50校内ポイント、終了時の生死関わらず1キルにつき15校内ポイント、生存時間(分)×1校内ポイント与えるものとする。
7、死者は試聴室に強制転移し、観戦するものとする。
8、各グループ以下の時間とバスで試験会場まで向かうものとする。
その後は班のスタート時間等が長々と書かれていた。俺は午前9時に7番バスに乗り、金沢魔法闘技館という施設に連れてかれ、そこで試験を行うようだ。
メールの最後には追記として「昨日のボーナスは50校内ポイントとする。」と記述されていた。
50ポイント…簡単な数字に見えるがかなりの重みだ。これでもし開始早々に死亡し、なおかつ自チームが負けたとしても50ポイントあれば校内でも最底辺という順位にはならないだろう。
キルなんてそんなに量産できるものではないだろうし、だいたい半分ほどの生徒は勝利ポイントの50を獲得できない。さらに30分生き延びたとしたところで30ポイント。50ポイントのハンデがかなり大きなものだと分かるだろうか。
見るからに気分が悪そうな夏目と見るからに機嫌が悪そうな中西をつれて朝ごはんをホテルのレストランで済まして、朝支度をしているとあっという間に集合時間20分前となった。
7のカードがフロントガラスに貼られた赤いバスにはすでにちらほらと席が埋まっていた。
「27番。後ろから2番目の向かって右側の窓際だな。」
名簿の俺の欄をチェックしながら松中先生はそう言った。一例して自分の席へ向かうと、すでに俺の隣の席は埋まっていた。
「よろしくな、秋月くん。」
クラス1のモテ男にしてうちの首席、一条だった。下の名前は自己紹介の時に言っていたが覚えていない。まあどうせ向こうも覚えていないだろう。
「優馬くんって呼んでいいかな?」
おっと覚えていた。だが生憎俺は下の名前が好きじゃないんだ。親友の中西ですら俺のことを苗字で呼んでいるレベルだ。
「いや、悪いな。下の名前で呼ばれるのには慣れてなくてな。秋月で頼むよ」
「ああ、すまないね。じゃあ秋月。ともにがんばろう」
当たり前だけど市民側は誰が仲間か分からないのか。人狼が誰かは人狼同士しか知らないのだから。
今回は西園寺も集合5分前には来ていた。その後移動中は一条の提案で自己紹介をすることになった。
うちの班は1組、2組、5組の連合班。1組からは俺と同じく人狼で既に2年生レベルの魔術が扱え、1組首席の西園寺。そしてその西園寺に惚れているであろう村田というポニーテルの、身長の小さな女の子。
2組からは俺、梅園、一条。ここは説明はいらないだろうが一応言うと一条はこのクラスの首席でクラス会長で、ついでにイケメンだ。まあいわゆる完璧人間ってやつだ。
5組からは昨日のボーナスで俺と中西を助けてくれた浅風とかいう爽やかイケメン。こいつは西園寺を越える実力を持ち、現状学年1位の実力を持つ。あ、あとカラオケが好きな嶋野くん。ちなみにデブ…じゃなかった体格が少したくましい。
なんか嶋野くんモブキャラ感出てるけど彼トーク上手くてバスの中盛り上げてくれたんだからあんまバカにするなよ。
それにしても5組の首席に1組の首席に2組の首席とこの班はいやにメンバーが豪華だ。もちろんこれらは偶然とはとてもじゃないが言えない。
きっと先生たちが班のメンバーを平等になるように仕組んだのだろう。さながらこの班は学年トップクラスとその御付きと言った所だろう。どうやら俺や梅園は貧乏くじを引いたようだな。
そうこうしているうちに計6班分を乗せたバスは金沢魔法闘技館に到着した。俺たちの班は第2試合。つまり10時からの回だ。
第1試合の人たちはバスから降りて急いで会場に行き息もつけないまま試験スタートと大変そうだったので正直助かったと言えば助かった。
施設内にはカフェがあり、そこで1人でゆったりコーヒーを飲んでいる間に30分なんてあっという間にすぎてしまった。
今回の試験も例の通りマジックルームとなっており、会場内での傷は会場から出ると全て癒える。このようなマジックルームが備えてある施設は日本中でもそう多くあるわけではない。せいぜいSSAのような魔法学校かこのような公的な施設くらいだろう。
そして10時。1番ゲートをくぐり俺たち7人は会場に入った。
そこあったのは想像していた体育館とはまるで異なったビル群だった。1キロ×1キロの空間にビルが詰め込まれ、空の見えない小都市がそこに展開されていた。
特別試験スタートの放送がなった。1度目の朝が始まった。
人狼は日が落ちた夜に街を駆け始める。そして日の照る内はは人の顔をして市民に隠れる。