第13話 桜色の小京都ー論ー
金沢城は森林公園のようでとても静かだった。
門を入ってすぐは見渡す限りの芝生広場に小・中学生の団体様が好き放題レジャーシートをひき、やっぱ人混みじゃねえかよ、と落胆したものだが少し坂を登ると坂が森の中に入っていきその場は静寂な空間に化した。
とても心地よい空間だった。数分ごとに見たことない花や木、さらには歴史的建造物もあり俺たちを楽しませてくれた。
最も、鈴星(脳内お花畑)は繁華街にいた時の方が楽しそうだったが、、、
「ないわねー、チェックポイント」
ため息まじりにそう言ったのは梅園だ。無理もない、タイムアップも見えてきて焦っているんだろう。
「なんもわかんねえよおおぉぉおおーーー」
先程入り口で貰ったパンフレットを読みながら歩いていた中西にも疲れの色が見え始めていた。
「なんでここ天守閣もねーんだよ、城なら絶対天守閣にチェックポイントあると思ったのによ」
そう。金沢城には天守閣がない。昔燃えてしまったとかで再建計画は立っているが未だ実行には移せていないそうだ。
「うわっ!また虫じゃんもうやだよー」
その嘆きに返事を打つ者はいない。
鈴星も元々の自然嫌いに時間だけが経過していくことにストレスを感じ始め、なにやらイライラしている様子だ。
そして何より、俺を含めて4人とも焦りの表情を隠せなくなってきていた。それもそうだ。残る時間は1時間15分。これから2つものチェックポイントを見つけることは少し現実的ではなくなっていた。
「おーーーいおーーい」
後ろの方から声が聞こえた。うるせえっな、なんだよ。こっちはイライラしてんだよ、てか誰だよ。いつもはクールを保っているつもりの俺も今は無性に腹が立ってしまった。ん?誰だ今いつも通りとか言ったやつ。
「るっせえな、公共機関だぞ考えろやぁあ」
ごめん中西。別に公共機関ではないかな。、
声の主は朝方パソコンと格闘していた夏目だった。念入りに場所を特定してから行動する予定だったこいつがここにいるということはやはりこの金沢城にチェックポイントがあるということなのだろうか。微かな期待を寄せる。
「おいおいおいおーい!ちょっと交渉しようぜ交渉」
夏目はいつになくウキウキだ。いや、いつも通りテンション高いという表現が合っているのだろうか。
誰も返事はしない。その場に「なにこいつ死ねや」的な雰囲気が漂い始めて今後クラス内イジメとかに発展しそうだったので、とりあえず俺が対応した。
「うるっせえよ。んで?交渉ってなんだよ」
「お前らどうせチェックポイント見つけきれてないんだろ?俺ゼーーンブ知ってるぜ?」
これには俺も動揺を隠しきれなかった。
「ま、まじかよ?!教えてくれよ、頼むよ夏目ーー」
「別に減るもんじゃねえしいいけど1つ条件がある。」
「早く言えよ」
なんで俺は少し喧嘩腰なのだろうか。多分こいつの顔が俺をイラつかせているんだろう。俺は悪くない。そうやって正当化しておくことにした。
「ズバリ明日の特別試験のお前らの役職だ。」
「「「「は。」」」」
初めてこの癖のある4人の気持ちが一致した。夏目死ね。以上だ。
「お前頭おかしいんじゃねーのか?そもそもこの4人の誰とも同じチームじゃないお前がそんなこと知って何になるんだよ」
「情報を売る。それしかねーよ」
「てめえふざけてんのか?」
夏目の首に掴みかかったのは中西だ。夏目の額に自らの額を当て今にも殴りかかろうとしている。
「やめろって中西」
俺は一応中西を夏目から引き離したがぶん殴りってやりたいのは俺も同じだった。とくに人狼の俺などここで夏目に情報を流すのは投了と同じ行為だ。
「おいおい落ち着けって」
「お前と話してんのが時間の無駄だぁあ!もう行こうぜ、みんな」
中西は怒りを隠しきれていない。俺と中西と夏目はホテルのルームメイトなのだがちょっと危ない匂いがする。
「まあ待ってって、条件はもう1つあるんだよ。これか今から言う1つどっちかでいいよ」
「聞くだけ聞いてやるから早く言えよ?おい?」
やばい、しっかり見張っとかないと中西が夏目を殺してもおかしくない勢いだ。
「俺の明日の特別試験の役職が占い師だという情報を俺の班の何人かに伝えて欲しいんだ」
夏目は占い師の説明が書かれたメールを見せてきて、そういった。
「待って!自分の役職を試験開始前に班員に教えてるのはルール違反だわ」
驚いた顔で夏目を抑止したのは梅園だ。
「いや。たしかに班員にはダメだが、お前らが俺のスマホのメールを盗み見したことにすれば良いんだよ。交渉次第でお前ら儲かるぜ」
夏目の言うことはたしかにルール違反ではない。それどころか俺たちも夏目の役職と引き換えに夏目の班員から引き換えになにか対価を得られるというWIN-WINの関係だ。
「どうだ?これならいい条件だろ?」
正義感の強い中西と梅園は唸っている。だが俺としてはこの交渉で損するのは名前も知らない夏目の班員の人狼だけなのだから乗らない手はない。
「え、ちょーいいじゃん!!交渉成立!!早く教えてよチェックポイント〜」
「ちょ、カノン待ってよ」
鈴星も交渉に乗る気満々のようだった。
「お、鈴星さんはオッケーってことだね、これであと3人」
夏目は鈴星の前に手を差し出した。鈴星もそれに合わせる形でその手を握った。便乗するなら今か。俺もその2人の手に自身の手を重ねた。
「俺も乗らしてもらうぞ、夏目」
「お!やっぱ秋月は分かってんな〜。さあ!意固地お二人さんもそろそろ決意固めたらどうだい?」
梅園は地面を見つめたまま黙っている。中西は目線こそ夏目を真っ直ぐに見つめているものも、梅園と同様に黙り込んでいる。
「なあ中西。こりゃ悪い条件じゃないぜ。少なくとも俺らに負はない。別にいいじゃねえか」
「でもよ!そんなのセコいじゃねーか。そんなことしてまで校内順位をあげたいのかよお前は」
「ああ。あげてーよ。好きな職場につけるのは平均して学年トップ50位くらいまでだ。ここで校内ポイントを取って損は絶対にない。むしろ必要なものだ」
中西は自分の足元に落ちていた小石を蹴り飛ばした後で、俺に怒鳴りつけてきた。
「こんな手使って強くなっても意味ねーんだよ!!順位だけ高くても実力がついてってねーんだよ!!」
俺も負けじと言い返した。
「じゃあお前はバカ真面目にやって今日という日を無駄な時間にするのかよ!」
その言葉を聞いた中西が、喋るのをやめ、荒い息を整えた。そして中西は1度空を見上げたのちに俺と鈴星。そして夏目の手の上に自身の手を叩きつけた。
「わあったよ。実力はいつでもつけれるけど、校内ポイントなんて今しか増やす機会ないしな」
夏目がそう言うと、後ろでその光景を眺めていた梅園も数歩歩き、前へ出てきて俺たちの元に手を被せた。
「中西くんの言うとおりね。たしかにこの方法はずるいけど、今後どんな手を使ってもこなさなきゃいけないものは出てくるだろうし、その練習と思うわ」
梅園も渋々と言った様子だがこの提案を受託した。
「よし!!じゃあみんなとりあえずサイン貰うよ!これで裏切られたらたまったもんじゃないしね」
まあ友達間とは言え、校内ポイントが関わってくることだしそれは妥当な判断だろう。
ただこれで是が非でも夏目の条件を明日までに達成しなければ、俺たちは校内裁判で実刑判決を受けることなってしまった。
時間も迫っているので中西を除く3人がささっとサインを済まし、最後に中西がいつも以上に汚い字でサインを書くと、夏目は話しを始めた。
「まずヒント2の主人公がいた場所は金沢城の本丸跡を指している。この道をさらに15分ほど真っ直ぐ行った場所だ」
主人公って本丸。つまり天守閣のことを表していたのかよ。天守閣がないことを知っていて、なおかつ他の金沢の観光名所を知ってる人ならともかく俺たち観光客が分かる問題じゃないだろ。
「そしてヒント5の古都を見下ろす400年の森とは卯辰山の前田藩の金沢城入城400年目の節目の年に作られた森のことだ。」
梅園がこっちに視線を向けてきた。
「え、ここってさっき話してた所だよね?卯辰山なんて知名度もないし名前こそ似てるけどチェックポイントじゃないだろうって」
「あ、ああ。そうだな」
俺も少し驚いてしまった。正直郊外で観光名所としては大して人気もない卯辰山なんてマークしていなかった。
「卯辰山ってのは桜の名所だぜ?兼六園なんかを見飽きた金沢市民がこぞって行っているんだよ。ほら?先生が金沢の桜を楽しめって言ってたじゃないか」
なるほど。そんなとこに伏線撒いてたのかよ先生。いやてかなるほどとはならねえよ、反則だろそんなの。100点阻止問題だよ。
「ほら、驚いてるのもいいけど余裕あるのか?今から本丸行ってから卯辰山まで行くとなるとかなり時間かかるぞ」
「夏目。卯辰山ってどこにあるんだよ」
「ああ、東茶屋街のすぐ横にある。400年の森はそっからずっと登山してって大体30分くらいかかったぜ」
まさかまさかの最期のチェックポイントはもう行くことはないと思っていた東茶屋街方面だった。さらにここからバスで10分はかかる上、さらにそこから登山すればゆうに40分ともなる。
時計の針は4時を指している。間に合うかはあとで考えるとして、俺たちは夏目に軽く感謝を述べた後に本丸まで全力で坂を駆け上がりチェックポイントを訪問した。
その後行き道とは別ルートの最短距離から入り口まで戻り、東茶屋街を通るバスに飛び乗った。
だが、運の悪いことに道がかなり混んでおり、結局東茶屋街についたのはバスの予定時刻よりも10分近く遅い4時40分のことだった。夏目の話によるとここから400年の森までは歩いて30分もかかる。チェックポイントが閉鎖するのは午後5時。普通に考えれば絶対に間に合わない。
それでも俺たち4人微かな希望を捨てずに卯辰山裏通りから始まっている細い階段状の登山道を駆け上がった。それは言うまでもなく各々の全力疾走だった。
階段の脇に生えた桜が4人の走り抜けた風によって数枚散った。大量の桜が生える卯辰山で、気付けば彼らは桜の小雨を受けながら走っていた。時計の針は4時45分。タイムアップまで残り15分。




