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花鳥雲月録 ~乙女と不機嫌な護り人~  作者: 五十鈴 りく
第二部+海榴の章+

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十「伝言」

 昨日までの食欲のなさが不思議なほど、今朝は空腹であった。レイレイは朝餉の粥をぺろりと平らげる。

 それから、さっぱりしたいからと湯殿の支度をルーシュイに頼み、湯浴みを済ませてから、ほんのりと頬を上気させてルーシュイのところに戻った。

 ルーシュイがいれてくれた茶を、彼の正面で啜る。


「でも、どうしてわたし、あの夢を見ておかしくなってしまったのかしら? ルーシュイ、ユヤン様はなんと仰っていたの?」


 するとルーシュイは、茶碗を机の上に置いて軽く首を揺らした。


「深入り無用とのことです」

「無用って、その理由が知りたいのに」

「私は理由などよりも二度とあんなことが起こらぬようにすることの方がよほど大切かと」


 不機嫌にそう告げられた。レイレイはしょんぼりとするしかない。


「あのね、シャオメイの想い人に夢の中で会った時から何かがおかしくなったの。その人には子供もいるんだけれど、その子も同じように不鮮明だったわ」

「妻子持ちですか? あのシャオメイが……」


 ルーシュイも少なからず驚いていた。そうした不徳と清廉なシャオメイはあまりにそぐわない。


「気になって仕方がないの。でも、あの人に会うとわたしはまた具合が悪くなりそうだから、シャオメイのことをどう思っているのかなんて訊けないわ」

「……それがなくとも、妻子持ちにそう堂々と訊いてはいけないですよ」


 呆れられてしまった。

 そうかもしれないけれど、ではどうすればいいのだろう。


「でも、シャオメイはその人を諦めて別の人のところへお嫁に行こうとしているみたいなの。ねえ、ルーシュイ、どうしたらいいと思う?」

「どうと言われましても……その相手の方がマシではないのですか?」


 淡白につぶやいて、その途端にレイレイの顔色が変わったせいか、ルーシュイは慌てて言い足した。


「いえ、こればかりは他人が口を挟むと余計にこじれてしまう問題かと思います。逆に言うのなら、誰も手を貸さずとも、二人が求め合うくらいでなければ寄り添う意味もないのではないでしょうか」


 諦めると決めたシャオメイ。

 けれど、シャオメイの気持ちは諦められる程度のものだろうか。

 レイレイはルーシュイを諦めることなど考えられなかった。拒絶されようと追いかけた。どうしてもそばにいてほしいという強い気持ちがあったから。


 シャオメイはどうなのだろう。

 優しいシャオメイは家族に迷惑をかけてしまう不安に耐えられなかったのかもしれない。

 急に黙ったレイレイに、ルーシュイは小さく息をついた。


「レイレイ様、ユヤン様からの御伝言です。『深入り無用。けれど君と関わりの深いただ一人にのみ会うのであればよし』――だそうです」


 実のところ、ルーシュイはこの伝言をレイレイに伝えたくなかったのではないだろうか。この夢を見ることで体調を崩すのなら、なるべく関わらないように仕向けたかったのだろう。

 それでも、シャオメイが絡んでいる以上、レイレイが簡単には諦めない。それがわかったから、本当に渋々伝えてくれた。


「関わりの深い? シャオメイのこと?」

「恐らくは。レイレイ様のお体の異変を引き起こしたのがそのシャオメイの想い人だとするのなら、その人物を避けてシャオメイの夢に直接語りかけるということです。……ただ、その人物が何者かわからぬ以上、できることならこの件は早めに切り上げて頂きたいものですが」


 歴代の鸞君を見守ってきたユヤンは、レイレイの不調の意味を知っているのだ。だからこういう助言をくれた。


 本当に、あの貴人は何者なのか。レイレイをあれほどの状態にしてしまうのだから、相当に力の強い術者なのだろう。

 人品は卑しくないように見えたけれど、シャオメイはあの人といても大丈夫なのか――

 考え始めたらきりがない。


「……わかったわ。シャオメイと一度だけ話してくる。でも、本当に一度だけにするから。これ以上ルーシュイに心配はかけたくないし」

「そうして頂けるとありがたいですね」


 と、ルーシュイは苦笑した。


「念のために今晩はおそばに控えさせて頂きます」

「うん」


 素直にうなずいたレイレイに、ルーシュイは何故か項垂れた。


「あの、ですから危機感をもう少し持たれてください」

「大丈夫よ、シャオメイに会うだけだもの。でも、気は抜かないつもり」


 力強く答えたつもりなのに、ルーシュイの目がどこか冷ややかだった。


「いえ、そうではなくてですね、今朝も申し上げましたが――もう結構です。レイレイ様のそういうところがある意味、鉄壁の守りかもしれませんね。私の理性を試されているのでしょうか?」

「試すって?」

「……もう、本当に結構ですから」


 そんなことを言って、深く長い溜息をつく。

 おかしなルーシュイだと思うけれど、何か頭が痛そうな素振りをするので疲れているのかなと思った。

 

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