009
「発熱するはずだ。九番ガスケットが緩んで電装系に接触、ショートしてる」
案内された機体で、ハルトは胸部点検口から潜り込んでいた。
「直りますか?」
「ちょい待ち……一番から五番、クリア。六番エラー。……カメラも死んでる。排熱系が腐食してボロボロじゃないか。BR-FUの一番から三番、ユニットごととっかえ。個別に触るより早い!」
「手配します!」
その頃、格納庫の一角では、ハルトのクラスメート達が集められていた。
「これより、貴様たちは実践投入される」
集まったクラスメートたちを前に、アストナが訓辞を行う。
「正直なところ、貴様らはひよこにもなり切れていない。だが、人手が足りないため、仕方なしに投入される。よって貴様らは、死にたくなければ勝手な行動をするな。勝手な行動をすればそれだけ自らの、そして友軍の命を危険にさらすと思え。わかったな? わかったら返事をしろ!」
「イエス、マム!」
およそ三十人の返事が重なる。
だが、そのうちの何人かは納得のいった目つき、表情をしていない。
アストナはそれをわかっていても何も言わない。
「全機、搭乗!」
クラスメート達は駆け足でそれぞれの期待に乗り込んでいく。
『アストナ』
「ステイシアか」
空間投影モニターが開き、装操者の専用スーツに身を包んだステイシアが映る。
『良いのですの?』
「あいつらのことか? 正直前線に出したらすぐに死ぬだろう。だからこそ後方支援を言いつけておいたのだがな。そうでもしないと前線で戦う定数がそろわなくなってきているのはお前もわかっていることだろう?」
『それは! ……確かにそうですの。でも……いえ、この話はやめておくですの』
「そうだな」
願わくば戦うことなく過ごしてほしい。もともと兵士でないのだから。
願いとは裏腹に、今は戦わなければいけない。だからこそ、そんな言葉を飲み込んだ。
『ステイシア・フォクネス大尉、出撃しますの』
アストナは願う。友の、そして教え子の無事を。
そして自らの乗機に向かうべく、踵を返した。
◇
それは、似ているものを無理やり上げろ、と言われれば牛だった。
その牛が八本足で、背中に不規則にこぶがあり、首が三回ねじれていれば、だが。
『先行攻撃部隊、突破されました!』
オペレーターの声が焦る。
『奴の足を止めろおぉぉぉ!』
何機ものマシナリーナイツ、黄丹がいびつな牛のメーグ・オーガに接触。すれ違いざまに高出力レーザー砲を打ち込む。
その保有する重力場により、いくつかのレーザーはそらされるが、それでもメーグ・オーガの体に当たる数のほうが多い。
『だめだ。効いてない! エースは! 格闘戦を仕掛けられる奴はまだ来ないのか』
すれ違いざまに攻撃するといっても、全員が無事でいられるわけではない。すでに二桁に上る機体が、メーグ・オーガに食われていた。
『お待たせしましたの』
ここで到着したステイシア機が、一気にメーグ・オーガに接近する。
腰のマウントから引き抜いた筒から六本のレーザー光が伸び、六角錐の刃を形成する。
『くらいますの』
一閃。
切り上げられた刃が、足の一本を半ばまで断ち切る。
メーグ・オーガもただやられているだけではない。
指向性の重力波の塊を飛ばし、包囲を固める黄丹を弾き飛ばしていく。
『後方支援機! 破損機の回収を!』
先達に引きずられるような形で、ハルトのクラスメート達の機体が回収に向かう。
そこは戦闘が繰り広げられている宙域。
メーグ・オーガにそらされたレーザーの一発が、クラスメート機の一機を貫く。
『ワガーハ! 味方を撃つなんて!』
『ここは戦場だ! よけれないほうが悪い!』
『そんな!』
引率役に食って掛かる。
『死にたくないならなんでマシナリーナイツに乗った!?』
『だからといって!』
『もういい! お前は邪魔だ! 他の奴が速やかに回収しろ』
嗚咽や恨み言が聞こえてくるが、引率役は気にしない。
気にしたらやっていけない。
必要以上に気にかけることは、すなわち周囲の警戒がおろそかになり、自分の、ひ
いては僚機を危険にさらす。
『後方気を付けろ! 抜けられた!』
『なっ! チクショウ!』
たとえ衛生兵でも適性があれば前線送り。
それだけ人的資源が足りていないのです。