008
暗い格納庫。一角だけ明かりがともされ、機械の作動音が低くうなっている。
「三番四番シリンダー交換。こっちの伝達系も破断かよ。装甲以外の八十パーセントに手を入れる必要があるとか」
はぁ、とため息を一つ。
ようやくのことでクリーニング作業をおえた破斬のメンテナンスを始めたハルトだったが、その工程の多さに頭を抱えていた。
「わかっていたことだが、五百年は大きいよな」
立ち上がって伸びを一つ。
「煮詰まってきたし帰るか」
◇
朝。
軍の当直担当の兵士は、緊張が解けかけていた。
「あふっ。今日も何もないな」
『気を抜くな。哨戒任務中だぞ』
「そうは言っても、これだけ暇だと。そういやまとめて新人が入るとかいう話はどうなったんすか」
『連中はまだ訓練中だ。シミュレーター初めてまだ半年だぞ。ようやく早いやつが実機訓練始めるかどうかってとこだ』
「はぁ。まだそんなんすか。早いとこ人手不足を解消してほしいっす」
『人類の支配圏が回復しないことには難しいだろうな』
「ままならないっすね………敵襲! 仮想平面三時上方四十七!」
『コピー。確認した。メーグ・オーガ来襲警報発令。全機戦闘態勢! 繰り返す! 全機戦闘態勢!』
◇
突如のビープ音が、早朝のコロニーに響き渡る。
ハルトもまどろみの中からたたき出された。
「なんだなんだ何事だ!」
『少佐!』
空中投影モニターにステイシアが映る。
「大尉、もしかして襲撃か!?」
『はい。非常呼集がかかっていますの。わたくしもこれから出撃ですの』
「俺はどうすればいい?」
『発着デッキでの補助を、と司令からの命令ですの』
「わかった。気をつけろよ」
『ありがとうございますの』
「ここの責任者は!?」
ハルトが到着した発着デッキは、整備員が上下左右前後、駆け回って殺気立っていた。
「ああん? 坊主、どうやってここまで来た!?」
話しかけた整備員がドスの利いた声で問い詰めてくる。
「ハルト・サマーリア少佐だ。命令により助勢に来た」
「少佐! 失礼いたしやした! おやっさん! おやっさーん!」
「おう、なんだうるせーぞ」
「少佐がこられてやす」
「今忙しいからほっとけ………少佐!?」
「ドーモ少佐デス」
「ナンデ!? 少佐ナンデ!?」
「いや、司令からの命令で」
「おう。司令ちゃんからか。オレッチちゃんはハムネス・スクワッティヌス。軍曹だ。おやっさんだろうが親方だろうが好きに呼んでくれ」
「わかった、軍曹親方。それで、俺が何をするかだが……」
「親方! 百五号機が異常発熱です!」
「俺が行こう」
「少佐様に何とかできるのか?」
「問題ない。俺が作ってから基本構造は大きく変わってないみたいだしな」
「作った……? おい、ヤス! ついていけ」
「おやっさん! おれは二百番台の搬出作業が!」
「そっちはンボンガボボンガンゴにやらせる」
「なっ!」
「案内頼んだ」
「………へい」