006
格納庫に高速で回転する音が響く。
あれから三日。ハルトは手配した機材を持ち込んで、格納庫に缶詰になっていた。自主的に。
展開された空間投影モニターを尻目に、削られていく破斬の下半身の岩を見つめている。
「腹減った。デリバリーステイシアはまだこないか……」
どうやら未来の昼食を幻視していたようだ。
「少佐、お待たせしましたの」
やってきたステイシアの手には一つのバスケットがあった。
「待ってた。さあ、糧食の提供を要請する!」
「そんなに焦らなくても、お渡ししますの」
早く早く!
散歩をを待ちきれない犬のような様子を見せるハルトに、ステイシアは苦笑一つでバスケットを手渡す。
「少佐。ちゃんと手を洗ってくださいですの」
「俺は子供か!」
「もっきゅもっきゅごくん。ぷはっ。ごちそうさま」
「おそまつさまですの」
「しかし、あれだな」
「なんですの?」
「こんな蔦を編み込んだバスケットなんていまだに残ってるんだな」
「ああ」
両手をポンとたたくしぐさは、その揺れる胸も含めてハルトの視線を引き付ける。
「こういうのは文化保存の一環ですの。資源は限られていますが、残りコロニーが三機だからこそ、こういう文化も残すという方針ですの」
「なるほどな」
「で、少佐」
「うん?」
「わたくしの胸を見つめるその視線は、そろそろセクハラとして処分、いえ、処理していいですの?」
「言い直してもあまり変わってないよね、それ!?」
「くすくす」
「チクショウ! いちいち所作が様になってるなコンチクショウ」
「わたくしを犯したいですの? エロ同人みたいに。エロ同人みたいに」
「直接的に来たな、おい!」
「で、どうですの?」
「フォクネス大尉……ステイシアはかわいいからな。俺だって十代の健全な男子なんだよ!」
「あら。五百歳オーバーのおじいちゃんじゃなかったですの?」
「おい」
「冗談ですの」
「まったく。ピュアなオトコノコのハートをもてあそんでくれて」
「わたくしをものにしたいのであれば、身だしなみをきちんとしてほしいですの。正直、臭いますの」
「え。まじで」
「まじですの」
ハルトは慌てて自分の服のにおいをかいでみるも、すでに鼻がばかになっていて判別はできない。
「張り付いた岩石のクリーニング作業もまだ終わらないようですし、さっさとお風呂入ってきますの」
「そうするか」
気になる女の子に嫌われないために。
部下に嫌われないために。
前者と後者が九十九対一ほどの割合の思考をしながら、ハルトは三日ぶりに格納庫を出た。
「はふ。きっとサンドウィッチが手作りだってことは気が付いてないですの」