003
三話目です
「疲れた」
ここは病院の待合室。ハルトは朝からいくつもの検査を受け、疲れ果てていた。
「お疲れ様ですの。残りはあと一つですの」
「はぁ、五百年たっても検査機器が一つで済まないのはなんでなんだろうな」
「専門性の違いですの」
「本当に?」
「あんまり統合しすぎるとご飯が食べれなくなる人が出てきますの」
そらされたステイシアの目はよく泳いでいる。
「そんなに視線を泳がせなくても」
「あううう」
―――――やだ、この子かわいい。
「怒ってないですの?」
少しうつむいて上目遣いになるステイシア。その姿はハルトの心の奥深くを刺激する。
「大人の事情は大事だな」
「ですの。最後の検査の準備が整った様ですの」
「んじゃ、いきますか」
長引いたハルトの検査は、昼をまたぎ昼食というには少し遅くなっていた。
「あー、腹減った」
「うふふ。お疲れ様ですの。ご飯はそこらへんで食べるとして、食べた後にあっていただきたい人があるんですの」
「ご両親へのご挨拶はまだ早いかな」
ハルトの言葉にステイシアのほほが一気に上気する。
「ち、違いますの! 会ってほしいのは両親じゃなくて、いえ、むしろあっていただけるならそれでも……でもでもそういうのはもっとお互いを知ってから……」
―――――あっれ。なにかスイッチ押したか?
いきなり慌てふためき始めたステイシアに対して、満更でもない感情を抱きつつも、面白いのでそのまま観察することにするハルト。
―――――しっぽが面白いように動いて。うーん、和む。
「……じゃなくて! 今はわたくしの両親はどうでもいいですの。会ってほしいのは、わたくしの上司ですの」
「上司?」
「わたくし、これでも軍属ですの」
そういって展開された空間投影モニター。
そこに書かれていたのは、ステイシア・フォクネス衛生大尉という名前。
「軍医だったわけだ」
「ですの。ハルトさん達のコールドスリープユニットを見つけた発掘隊にわたくしもいましたの。その流れでそのまま最後まで目が覚めなかったハルトさんの担当を続けましたの」
「それは大変お世話になりました」
「全然大したことはないですの。それに過去形で終わらせるつもりはないですの」
顔の前で手を振るのも様になるなぁ、なんてことを考えつつも、ハルトは聞き逃せない言葉が入っているのに気が付く。
「え?」
「なんでもないですの! 気にしてはいけないですの! そんなことより何を食べますの?」
「何があるのか。そもそも俺が知ってるメニューって残っているのか?」
「そのあたりは大丈夫なのですの。中にはなくなってしまったものもあるのかもしれませんが、発掘調査で回収、復元がかなりされてますの。なんでしたら、満願全席でもいけますの」
「それはそれで食べてみたいが、その、金額的に大丈夫なのか?」
「ハルトさんと食べる分には経費で落ちますの」
「経費」
「経費ですの」
「ま、まあ、無難にラーメンとか」
「味噌、塩、しょうゆ、とんこつ、どれにしますの? あ、牛骨ラーメンなんてのもありますの」
「とんこつで」
「承りましたの。ささ、こっちですの」
とった手の感触に、ステイシアがほほを染めるまで三十秒。
ちなみに、にんにくましましラーメンライス餃子セットは、ハルトの胃袋を存分に満たした。