002
二話目になります
そこは真っ白な部屋だった。
「どこだここは?」
目を覚ましたハルトは、部屋の白さからくるまぶしさに目を細めつつも体を起こした。
「妙に体がだるいな。病み上がりのような」
立ち上がろうとしても体が支えられない。
「しかし寝心地のいいベッドだ。病院にしてもここまで高級品を……!?」
しかして、ハルトが寝るそこにベッドはなかった。ベッドどころか、床までの間にハルトの体を支えるようなものは何もなかった。
「なんだこれ……?」
『圧縮空気ベッドですの。ハルト・サマーリアさん、おはようございますですの』
空間投影モニターが開き、そこに映った少女が答えをくれた。
「おはよう、でいいのか? どうにも時間感覚がないけれど」
ハルトの目は、ディスプレイの少女のある一点を見つめる。
――――――けもみみ? コスプレにしては違和感がなさすぎるな。本物? 軍用実験体か何かか?
軍属であったことがハルトが今見ているものをそのまま受け入れさせる下地になっているのだろう。
『わたくしの耳とか現状とか、お聞きになられたいとは思いますの。でも、今そちらに向かっているので、もうしばらくお待ちくださいですの』
「あ、ああ。わかった」
見知らぬ人物に、よくわからない状況。普段であれば抱くであろう警戒心も、なぜかハルトは抱くことができないであった。
モニターが消えてから十分ほどだろうか。壁の一角がドアの形に青い光で縁取られたかと思うと、そこから開き、先ほどの少女が姿を見せた。
――――――ふむ。耳だけじゃなくて尻尾もか。乳神、尻神、もふもふ神の三種がそろっているとか、まさに俺得。
「くすくす。わたくしの体、そんなに魅力的ですの?」
――――――バレテーラ。
「改めまして。わたくしはステイシア・フォクネス。ハルトさんの主治医ですの」
焦りを隠しきれないハルトだったが、一言聞き流せないものがあった。
「主治医?」
「ですの」
「誰の?」
「ハルトさんの、ですの」
ハルトは瞼を閉じ、深呼吸を一つ。
「よし。説明してくれ」
「はいですの」
今はハルト達がシェルターにこもった時から五百年後。
ハルト達がいたコロニー群はメーグ・オーガに食い荒らされ、生き残りの人たちは脱出。コールドスリープを施されていたハルト達は放置され、五百年後の今、旧遺物調査隊に発掘され、解凍処理を受けた。ハルトだけは意識が戻らず、ほかのクラスメイトが目を覚ましてからさらに半年が経過している。
「五百年の間に、人類の活動圏はスペースコロニー三つまで減少してますの。ここまで来る前になんとかしようと、希望者を集めて遺伝子改造を行い、わたくしみたいな獣人が生まれましたの」
「なるほど。マシナリーナイツは対抗手段足りえなかったか」
「そうでもありませんの。現在第二世代が稼働中ですが、何とか拮抗状態を保ってますの。初代開発者の名前は失われてますが、みんな感謝してますの」
「そう、か」
「少し眠るといいですの」
「五百年寝たあとなんだけどな」
「それでも急に環境が変わって疲れてますの。起きたら一通りの検査をさせてもらうので、今は眠るといいですの」
「わかった。ならそうさせてもらうよ」
確かに疲れを覚えていたハルトは、頷いた。
「おやすみなさいですの」
「おやすみ」