011
夜。
ハルトは自室のベッドに転がり、黄丹の修理計画と破斬の修復状況とを見比べていた。
「黄丹の修理はめどが立った。残りはユニットの製造待ちだな」
共食い整備のユニット移行状況を確認して、空中に投影されたウィンドウを消す。
「問題は破斬だ」
投影されているウィンドウには、破斬の略式図に重なって赤い円が無数に点滅している。
「一度エンジン起動して自己修復機能を動かすか……」
そんな中、来客を告げるチャイムが鳴る。
「誰だ、トンビの鳴き声なんかチャイムに設定したやつ」
玄関まで出迎えると、そこにはゼルエスがいた。
「よ、久しぶり」
「いきなりどうした?」
「……聞いたか?」
ハルトは瞬間何のことかわからなかったものの、すぐにステイシアにクラスメイトが五人戦死していることを聞かされていたことを思い出した。
「五人、だったか」
「ああ」
そのまま中に招き入れ、ゼルエルの愚痴を聞く。
「ハルトがいた世界っていうのをようやく実感した気がするよ」
「まあ、あの頃はここまでひどくもなかったけどな。技術士官だったし。……まあ、それでも同僚の戦死は経験してるよ」
「だからか? 冷静にしてられるのは」
「かもな。そもそも死にたくなければ軍に入らなければいいんだ」
「教官にも言われたよ、それ」
「だろうな」
「……すまん、水をもらう」
立ち上がったゼルエスだったが、つまずいたのかよろけ、ハルトを巻き込んで倒れこんだ。
「ちょっ」
「す、すまん」
片手をついて体を起こすゼルエスだが、組み敷いた形になるハルトと視線が合い、見つめあう。
微妙に気まずい空気が二人の間に漂う。
ゼルエスが瞼を閉じ……。
「ステイシア。いつからそこで観察している?」
「お二人が見つめあっているあたりからですの。たまたま前を通りかかったら大きな音がしたので確認に来ましたの。けれども、まさかハルトさんがそちらの趣味だとは思いませんでしたの。個人の趣味にはあまり口をはさみたくありませんの。でも、今の世界は人口が減少傾向なので、できれば女性を相手にしてほしいですの。わたくしならいつでもかまいませんの」
「…………うわぁ!」
ここでようやく状況に気が付いたゼルエスが飛びのいた。
「もう終わりですの?」
「終わりだ終わり」
「残念ですの。でもタレこみにいいネタができましたの」
「おい。どこにタレこむつもりだ」
「もちろん男性の掛け算が好きな同僚のところですの。発掘隊に回収された皆さんのことは、いろんなところがいろんな意味で注目していますの」
「ほう」
「口止め料はディナーでいいですの」
「ほほう」
「なぜ手をわきわきさせながら近づきますの?」
「それはな。こうするためだ」
ハルトは一瞬でステイシアのこめかみをつかみ、一気に力を入れた。
「痛いですの痛いですの! つぶれますの!」
「つぶれるのが早いか記憶が飛ぶのが早いか勝負だな」
「それきっと同時ですのって痛い痛い!」
「不祥事は、ばれる前に始末しないとな」
「こめかみより胸を握ってほしいですのいたいいたい!」
「まだ飛ばないか」
「パワハラよりセクハラ推奨ーーーー!」
「懲りんやつだ」
ゼルエスに視線で合図して絞め落とさせる。
「きゅう」
「悪は滅びた」
「これオレたちのほうが悪だよな」
「気にしたら負けだ」
南無。