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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
反攻戦闘編
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反攻戦闘編 12

 「……奥の手……あります」

 やってしまった。サイキの静かな言葉に、何故かと言う明確な説明は出来ないが、間違いなく私は地雷を踏んだ。絶対に押してはいけないスイッチを押してしまった。そう思った。


 「ナオ、リタ、フラック使おう。スタンバイして!」

 「了解。それしかないか」

 「えっ!? だ、駄目です! フラックは使っちゃ駄目です!」

 「あんたね、それ以外に方法があると思うの? よく見なさい、私達三人でも押されてるのよ!」

 確かに三人がかり、しかも一人は戦闘狂とまで渾名されていた人物、サイキだ。そんなサイキも全力を出しているだろうに、それでも勝機の一分も見えない。そしてフラックとは一体何なのか……。あのリタが強く否定する代物だ。ろくな事にはならないのだろう。

 「何でこんな……でも……」

 リタの視点が歪み、瞳から涙が零れている。ぽつぽつと呟くような言葉には、何か後悔のようなものが感じ取れる。

 「もう、やるしか……っ!」

 リタは袖で涙を拭いた。一つ決意を固めたかのように呟くと、自分の頬を叩いた。大きく深く息を吸い込み、気合を入れ直す。

 「分かったです! フラックスタンバイです!」

 「フラックスタンバイ!」

 リタに続き二人も声を合わせる。その光景に私は頭を抱えるしかない。私はまた間違えたのだ。まるで手に取るように感じ取れるその危険性。


 「フラックスタート!」

 三人の揃った掛け声。そして小型の黒へと再度向かう。私はフラックとは何なのか、今見えている三人の視点からだけで探らなければいけない。

 「……」

 まず一つ目の今までとの違いは、その静けさだ。三人はスタートの掛け声以降、一切一言も喋っていない。連携のための声すらも出していない。

 それなのに、今までとは全く違う、驚くべき連携を見せている。サイキとナオの波状攻撃の、その一瞬の隙間を正確に撃ち抜くリタ。今までも二人の攻撃の隙間を狙い撃とうとする事はあっても、それを実際にやった事などないし、ここまで正確無比に何度も撃ち抜く事など出来るはずがない。


 そして説明の付かない連携のためか、三人の攻撃速度も明らかに上昇している。素早く動き回る黒に対し、それまでは目線から外れ、一瞬動きが止まる事もあったのだが、完全に目線を外している状態でも動きは止まらず、かつ正確に攻撃を当てている。そして黒から逃げ出す失態を演じたリタが、他の二人と同じ距離で黒へと立ち向かっている。その動きは素人のそれとは違う、二人と並ぶ立派な戦士であるかのように見える。フラックとは視点や経験の共有なのだろうか?

 ……視点映像の下部に、一番の懸念材料を見つけてしまった。三人が今まで地道に蓄えたエネルギーの、その残量が急激に減少しているのだ。明らかに何処かにとんでもない量のエネルギーを吸われているはずだが、見た目ではそれが分からない。それは最早カウントダウンであるかのようだ。

 (命尽きるまでのカウントダウン……やめてくれ、そんなものを使わないでくれ)

 しかし私の願いなど届く事はなく、無慈悲にも数値はゼロへと向かって突き進む。


 エネルギー残量が30%を切る頃には、更に連携の錬度が上がっている。あれだけ圧倒されていた黒を、今度は逆に押し返せているようにも見える。これならばどうにか……しかし残りエネルギー残量は刻一刻と減っている。

 三人の動きが変わった、そう感じた。連携は取れていたものの、手数重視で釘付けにしておく事が目的のように感じた今までとは違い、明らかに倒す事を重視した作戦に切り替わったようだ。

 しかし残りエネルギーは遂に20%を割り込む。間に合うのか?


 リタが若干距離を取り、64式に持ち替えた。そして今までの単発とは違う、連射を開始。これに対応するために黒が止まった。チャンスか?

 サイキがブースターを思いっきり吹かしていると思われる速度で突っ込んできた。どうだ!? しかし後一手が進まない。そのまま更にブースターを吹かしたサイキに押され、黒が後退する。その先にはナオだ。

 全力で振りかぶった体勢から投擲された槍が黒に当たった! 倒し切るには至っていないが、左腕を頂いた。いいぞ、これで黒の力は落ちるはずだ。

 再度サイキが切りかかる。後ろからはナオも来る。いけるか! と思ったが後ろ蹴りでナオが飛ばされる。残りエネルギーは数%。

 サイキは尚も果敢に切りかかり、押し通そうとするが届かない。サイキを蹴り飛ばし、再度後ろから来たナオに気を取られ振り向く黒。


 しかし蹴り飛ばされたサイキのすぐ後ろから伏兵が現れた。拳銃を、サクラという、最も小さな武器であるその拳銃を両手で支えるリタがいる。一度距離を取り64式で連射した本当の目的は、サイキの後ろに身を隠すためだったのだ。

 放たれる弾丸を黒は見抜けていない。ナオに動きを止められた小型で黒い侵略者の、その中央を見事貫く小さなリタの、小さな拳銃の、小さな弾丸。断末魔の叫び声を上げ、風穴を開けられたその影のように黒い存在は、小さく圧縮されるように消滅。


 「勝った……わたし達、あれに勝ったんだ……」

 残りエネルギーの一番少ないリタを見ると、たった0.04%という、本当にギリギリでの勝利だった。他の二人も残量は1%を割っている。

 「よくやったぞ! さあ帰って来い!」

 「贖罪……で……」

 唐突にリタの接続が切れた。贖罪、罪滅ぼし? リタは何か罪を背負っているとでも言うのか? とにかく今はリタが心配だ。焦る私。

 「おいリタ! どうした!?」

 「ごめんなさい。わたしも、限界……かも……」

 サイキの接続も切れる。狼狽するしかない私。頭の中が真っ白になる。

 「おい! おいっ!!」

 「一応生きてるわよ。でも、私ももう一歩も動けない。救援早く……」

 「こちら青柳、全速力で向かっています」

 「おいおいおい……何だよこれ……」

 私は、この言葉にならない感情を、誰にもぶつけられない。


 「見つけました。私が直接運ぶ! こっちに乗せろ!」

 初めて青柳が叫んだ。それだけで状況の悪さが分かる。私にはどうする事も出来なかった。止める事も、力になる事も出来なかった。

 青柳に抱えられ、車に乗せられた所でナオとの通信接続も切れる。

 「東病院に向かいます。誰か工藤さんを連れてきて下さい」

 「こちら機動ゼロハチ。既に向かっています」

 もう私の目には何も映っていない。ただただ事態を飲み込めずに空回りし続ける思考回路。私は何をさせてしまったのだろうか。彼女達は無事なのだろうか。その答えの出ない二つの思考だけが延々と堂々巡りを繰り返す。


 そして、そこからの記憶は無い。



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