反攻戦闘編 11
火曜日。長月荘がマスコミに見つかってから今日で丁度一週間目。
青柳の脅しで一時は減った取材陣の数は、その後土曜日に彼女達がここにいる事が確定してからは、また増えている。仕舞いには青柳がいなくなったタイミングを狙い、敷地に侵入し盗撮紛いの行為をしようとする族まで現れた。おかげで私の心労はピークに達しつつある。
彼女達には不安感を与えぬようにと努めてはいるものの、それが顔に出てしまっているようで、逆効果になってしまっている嫌いがある。後数日とはいえ、その数日の間に何かがある可能性も否定出来ない。そして今日は午後から強い雨の予報だ。私の心は持つのだろうか。自分で自分に不安になってしまう。
午後になり雨が降り出した。せめてあっさりと終わる相手ならばいいのだが。そんな私の気持ちを弄ぶかのように、四度の悲鳴が聞こえた。時刻は三時を過ぎ、恐らく彼女達は青柳の車の中だろう。彼女達との接続を開始。
「結構雨が強いな。暖かい格好で……といっても無理か。状況は?」
「わたし達は車の中です。青柳さんはスーパーで買い物中。どうしよう、このまま放置して行っていいのかな?」
迷っていると店内から珍しく焦り声の青柳が接続してきた。
「既にかなりカゴに詰めているので、急いで精算します。三人は見つからない場所に移動した後向かって下さい。車はそのままで構いません」
話が終わると早速三人は飛び出し、店の裏手へ。
「えっと、侵略者は四体。北西に大型深緑、北東に小型、あと街の中央付近に赤鬼と緑。それぞれ一体ずつ」
「すまんがナオ、配置はお前に任せたい。俺は、その……」
「それ以上は言わなくてもいいわよ」
こんな時にすら気を使わせてしまっては、やはり司令官失格だな。
「そうね、サイキは北西の大型、リタは中央の二体で新しい武器を試してなさい。でも時間は掛けないようにね。私は小型を仕留めたらリタに合流するわ」
一番最初に現場に到着したのはリタだ。赤と緑か。まるでカップ麺だな。しかし距離的にはナオが一番近そうだったのだが、未だに到着の報告がない。
「先に緑を狙撃。試射は赤鬼相手で充分です」
まだ上空のリタには気付いていない様子の二体。早速64式で緑を一撃粉砕。やはり中型相手には過剰な性能だな。地上に降り、異なる形状の拳銃の二丁持ちという器用な事をやってのける。
「予想以上に動きやすくて、早めに作っておくべきだったです」
リタの体の小ささを生かした素早い動きと、取り回しの簡単な拳銃との組み合わせは大正解のようだ。
「こちらサイキ、北西の大型深緑を確認。ちょっと強引だけど、このまま一撃を狙ってみる!」
「おい無茶だけはするなよ」
「うん、分かってます。安心して!」
何とも心強い一言だ。サイキは高度を下げ、そのまま横一線に深緑に突っ込んで行く。
うん? 今までのサイキとは若干構えが違う気が。なるほど、たった一日だけでも剣道の成果が出ているのか。吸収が早いな。
「一撃いーっ!」
気合の声と共に横方向に切りつける。まるで豆腐を切っているかのようにあっさりと両断してしまった。かなりの速度で突っ込んだので、道路上を滑る。格好いいのだが、やはりその分、体に負荷がかかっているのではないかと心配してしまう。
「北西クリア。リタに合流します」
「ごめん、悪い知らせ。相手は小型の黒だ……」
ようやく聞こえたナオの声だが、その声に覇気はなく、恐怖心がにじみ出ている。
「ナオ、それ本当!?」
「残念ながらね」
「……分かった、今すぐそっちに行く。リタもさっさと切り上げて合流して!」
ナオ視点では真っ黒い影のような物体が見える。リタよりも小さいと思うので、身長は一メートルを切るくらいか。周囲を気にするように見回しており、既に何名かが倒れているのが見える。しかし黒い相手は今の所動く様子はない。次の獲物を物色中という事だろうか?
「えっと、何が……」
「いいから! 早く!!」
戸惑うリタにまるで怒鳴るようなサイキの声が飛ぶ。明らかに今までとは声色が違う。非常にまずいぞ、という雰囲気がこちらにまで届いてしまっている。
「小型ならそこまで警戒する必要もないんじゃ?」
「黒は違う。あれは別次元。今までのどれよりも強い。私一人だけで向かえば確実に死ぬ。三人でかかっても勝てるかどうか……。先に謝ります。つい先日したばかりの私の覚悟、ここで潰えるかもしれません。ごめんなさい」
嘘だろ……そんな奴が、しかもこの状況の中出てくるだなんて。最早自分の運命を呪うしかない。
「サイキ合流しました。リタは?」
「向かってるです。あと少し」
サイキの目線から見るナオの表情には余裕など微塵も感じられない。震えてすらいる。あのナオがここまで恐怖する相手か。これは勝ったとしても、ただでは済まないかもしれないな。
「リタ合流です。あれが小型の黒? 一見して普通の小型……どう違うですか?」
戦闘経験の浅いリタが二人に説明を求める。私は静かに聞いているしかない。
「小型侵略者の中でのボス的存在。あれ一体に蹂躙された部隊も少なくない。そもそも上位部隊の隊長や幹部クラスが総出で相手するような奴だから、わたし達三人であれを相手するなんて……」
サイキですら尻込みするのか。いよいよもってその危険さが分かってくる。
「でも、わたし達しかあれを倒せないんだ……わたし達がやるしかない! 二人とも、死ぬ気で行くよ!」
気合の言葉と共に小型黒と対峙するサイキ。次に少し距離を置き、援護態勢に入るリタ。
「……ああーもうっ! 私の意気地無しめ! 自分の覚悟を守らなくてどうするよ! ったく!」
自分に悪態を吐き、喝を入れるナオ。サイキの横に並び、戦闘態勢を整えた。
「来るよ!」
ナオに別次元とまで称された小型黒との戦闘が開始された。その渾名に違わない異常な強さなのは、私が一目見ても分かるほどだ。圧倒的速度、圧倒的反応、圧倒的力量。三人を相手にしても尚笑っていやがる。
「うあっ!」
サイキが飛ばされる。空中で後転し踏ん張り再度突入。一番強いはずのサイキでこれだぞ? 本当にこれはまずい。
「状況は?」
青柳からだ。私が現状と相手の危険さを説明。三人にはそんな余裕などないのは明白だ。
「分かりました。広域避難命令を出します。三人も聞こえていますね? 被害など一切気にせず、目の前の敵だけに集中して下さい」
返事はない。いや、返事をするほどの余裕すらないか。リタの狙撃は当たらない。ナオはサイキの援護に回るので精一杯。サイキの斬撃は尽く防がれる。有効打が入る気配を感じられない。
「一旦離脱!」
ナオの号令で黒から距離を置く三人。既に何度も吹き飛ばされ、常に動き回るしかない近接の二人は、もう息が上がっている。黒は離れた三人を追う気はないようだ。余裕を見せているのだろうか。
「リタ、本当はあんたは前に出したくないけど、そうも言っていられない。拳銃出して前に出て。ごめんね、無理して頂戴」
「……分かったです。一世一代の晴れ舞台って奴です」
「サイキはもっと速く強く。もう新しいのには慣れたでしょ?」
「あはは……無茶言うなあ。それならもうブースター使いまくるよ。体に負荷はかかるけど、例え壊してもやるしかないよね。……工藤さんごめんなさい」
「もう全てはお前達に託すしかないんだ。お前達のやりたいように戦え。お前達の謝罪は……三人揃った長月荘で聞いてやる」
これが今の私に出来る最大の励ましだ。
「あいつ、何か見つけたみたい」
黒が一直線に移動を開始した。その先にあるのは……東病院だ!
「止めるよ!」
追撃戦を開始。全方位から攻撃を浴びせるが、止まる気配がない。
「いっそ正面から行くです!」
まずい、またリタの悪い癖だ。
「やめろ死にたいのか!」
という私の怒鳴り声を無視し、ショットガンに持ち替え敵の眼前に立つリタ。
放たれた弾丸は拡散型だった。それに反応し黒が止まった。逃げ場がないと思ったのか、そのエネルギー弾を撃ち落した。行けると踏んだのか、リタは更に拡散するエネルギー弾を放つ。そしてそこに黒に隙が出来る。サイキが真後ろから攻撃を与えようとするが一瞬遅く、振り向いた黒に止められてしまった。上空からはナオが槍を投擲、素早く後退し黒はこれを回避。リタの強引な行動のおかげで、黒の標的は病院からは逸れたようだ。
しかしその黒の標的はリタに移ってしまった。逃げの態勢となるリタだが、相手の性能が上、回り込まれる。まずい所の話ではなくなった。間一髪ブースターを使ったサイキがリタの守護に入る。ナオも遅れて助太刀に入った。リタは……。
「うう……」
死を実感してか、目を閉じ手で顔を隠すように固まってしまっている。
「リタ! 目を開けろ! お前が動かないと二人が死ぬぞ!」
「リタ邪魔!」
動かないリタをサイキが蹴り飛ばす。かなり飛ばされたものの怪我はないようだ。やり過ぎだと注意したかった所だが、状況を見ればそんな事は言っても仕方がない。
「こんな……リタは……」
「馬鹿リタ! あんたでも今は作戦に組み込まれた戦力なんだよ! さっさと覚悟を決めて目を覚ましなさい!」
ナオの恫喝が飛ぶ。リタの目線が歪む。これは涙か。
「何か奥の手でもあればな。これじゃあ現状打破すら出来んぞ」
「……奥の手……あります」




