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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
下宿戦闘編
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下宿戦闘編 9

 二体の大型侵略者に挟み撃ちにされながらも、私の投げたサツマイモが敵の気を引いた事で一体の撃破に成功。しかしもう一体の攻撃範囲内に入ってしまっていた私。サイキは間に合わない。死を覚悟した。


 ドーン!

 突然、直上で謎の爆発が起こり、爆風に飛ばされる私。ショーウィンドウを突き破り、ガラス片を浴びてしまい、一瞬気を失った。

 (うっ……)

 激痛で目が覚める。まだ私は死んではいないという事か。しかし何処か怪我をしたようで床が血で染まっている。またサイキに泣かれるなあ、と思っていると、侵略者を倒した独特の空間の収縮が見える。どうやら二体目も倒せたようだ。するとサイキが飛んできた。やっぱり泣いている。必死に謝っている。

 「いや、これは俺のミスだよ。サイキが謝る事は無いよ」

 と、その時近づいてくる人影。

 「あんた、ビーコン打つの遅過ぎ!」

 呆気に取られる私。目の前には黄色い長髪の少女。いや、プロポーションがいいので大人の女性だろうか。誰だ?

 「ごめんナオ……とにかく色々あって、あのタイミングまで出せなかったの」

 サイキと知り合い? とすれば、このナオという彼女が二人目か。

 「出せなかったって、エネルギーなんてすぐ回復するでしょ。私も今のFAでエンプティだけどビーコンくらいなら一分もあれば……回復しないわね?」

 ああ、こういう子か。と一瞬で理解出来る見事な会話だ。状況を説明してもらおうかと思っていたが、先ほどの刑事が来たので後回しだ。私は頭を切り、左脇腹と左腕にガラス片が刺さっているものの、命に別状は無いようだ。

 「でもナオのせいで工藤さん怪我しちゃったんだよ! ナオ謝ってよ!」

 初めてサイキが怒った。それも私が怪我をした事に対して。素直に嬉しい……のだが、正直あれは不可抗力であってどうしようもなかったと思うのだが。むしろ私がヘマをしなければ大丈夫だったのでは……。

 「あーそこのお二人、喧嘩は後にして、署までご同行よろしいかな? あなたは先に治療を。救急車ももう来ますので」

 刑事さんの見事な仲裁が入り、救急車も到着。さすがにこれだけの大規模な被害が出れば死者もいるだろう。もう世間に隠しておく事は不可能だな……。私は自分の怪我よりも彼女達の処遇が気になって仕方がなかった。


 私は救急車に乗り、彼女達はパトカーに乗せられ別々に出発。私の傷は幸い深い物ではなく、数針縫っただけで翌日退院し、パトカーに乗り警察署までドライブとなった。驚いたのはこのパトカーの運転手。元長月荘住人の三宅という男だった。現在は高速機動隊におり、私の迎えには無理を言って自ら立候補したという。うむ、百円硬貨三枚贈呈だ。警視庁の刑事、高橋の事も何処かで知っているらしく、何かあれば全力でサポートします、と言ってくれた。更に驚いたのが今回の件。なんとマスコミは風船を使った連続爆破テロ事件として報道していた。

 「報道規制がですね、上の上のすごく上から掛かったんすよ。ネットの反応も片っ端から潰して回ってるみたいで、まあそっちはイタチゴッコみたいっすけど」

 そんな偉い人が我々の味方にいるのか? 渡辺かとも思ったがそれ以上の人物がいるのかもしれない。誰だろう……とにかく、今は得体の知れない協力者に感謝しておこう。


 警察署に到着した私はそのまま奥の会議室へと通された。そこにはあの二人もおり、取調べは私が来てから、私から開始するという話になっていた。二人はあまり寝ていないのか疲れた表情をしているが、いきなりこんな部屋に入れられては仕方がないか。私は取調室へと入る。ちょっとだけ気持ちが高揚したのは内緒だ。

 「どうも初めまして。私は警察庁の特務捜査班所属、青柳秀二といいます。これからあなた方の事は全て私の監視下に置かせていただきます。では取調べを始めます」

 いかにもな人物が来た。髪はオールバックに黒スーツ、眼鏡の先には眼光鋭い瞳。年齢はまだ若く、三十代前半だろうか。とするならば相当な切れ者か、所謂エリートなのだろう。その真っ直ぐに獲物を逃がさないような眼光に、私は言い逃れは出来ないと悟った。まあいいさ、ここまで来たら覚悟を決めてやろうじゃないか。

 後から知った事なのだが、この取調べは彼女達二人にも見られていた。恐らく私の言葉を人質に、彼女達から情報を聞き出すためなのだろう。


 「まずはあの二人との出会いからお聞きしましょうか」

 静まり返った取調室に、この青柳という刑事の声だけが響く。私は否が応にも緊張せざるを得ない。

 「まずは……九月二十一日の朝九時ごろ、サイキ、赤い髪の子が文字通り空から降ってきました。それが最初の出会い。黄色の子、確かナオと言いましたか。彼女とは昨日が最初です」

 眉一つ動かさず話を聞くこの刑事、なんとなーくだが、いい奴なのではないかと思った。ただのカンである。

 「何故彼女達、この場合はサイキという赤髪の子を、廃業して半年も経つあなたの下宿に泊まらせようと?」

 「気まぐれ、では納得しないでしょうかね? やっぱり楽しいですからね。色々な個性的な住人を迎えるのは」

 私の答えにも、この刑事は一切微動だにしない。

 「しかし彼女は、見た目小学生とも中学生とも取れる年齢ですよね。ご家族に連絡を取ろうとは思わなかったのでしょうか? 警察に連絡しようとは?」

 「それまでの状況から、彼女は一人でさまよっていて、警察に連絡した所でどうにもならないという想像は容易く出来る。事実彼女がさらわれた時は、警察は一切動けなかった。それに、あの涙を見てしまったからには、警察に任せて放り出すなんて出来ないですよ」

 淡々と進む取調べ。男は一切口調を変えず、表情を変えず、一点に私の目を見つめ続ける。それだけで心の中を見透かされている事が分かる。幾つかの質問が続くが、こちらが答えられない質問というのが来ない。


 「では最後にですが、どうして彼女達を信用しようという気になったんでしょうか?」

 ……そうか、この質問が全てを決めるのか。慎重に答えなくては。

 「第一に彼女が私を選んだという事。彼女は私の言葉に答え、ただいまと言った。そう言ったからには、下宿屋の主人としては信用せざるを得ない」

 「第二に、彼女は私を許してくれた。彼女の真実から逃げていたと、謝る私の頭を撫でてくれた。最初の日、私が彼女にやったように」

 「第三に、彼女の突拍子も無い話にはしっかりした理由があった。点と点は線で繋がっていた。二人目も来た。彼女の言った通りになった」

 「第四に彼女の涙。最初の襲撃後、彼女はずっと泣き通していた。それなのに翌日には健気な顔を見せる。あの歳の子があれだけの気を張れるんだ、信用出来ないはずが無い」

 「……そうですか」

 「そして最後に、彼女達は三度、私の命を救った」

 「三度? 襲撃事件は二度ですが、残りの一つは?」

 「私は、彼女の降ってきた九月二十一日……自殺しようと決めていました」

 私のこの告白に、この男はようやく姿勢を変えた。と言っても手を組み直した程度だが。

 「……十五年前の九月二十一日、私の妻と娘は轢き逃げ事件に遭い、命を落としました。長月荘の住人達は私を支えてくれました。しかし私の時間は止まったままになってしまった。確かに犯人は捕まったが、ただそれだけ。抜け殻となった私には、十五年という歳月は長過ぎた。そしてあの日、既に死を決めて何も無くなっていた私の目の前に、希望が降ってきた。あの”また来る”という一言で、私のその日の予定は狂ってしまった。死ぬ予定が、彼女を待たなくてはいけなくなってしまった。私はその日、生き続けなければいけなくなってしまった。そして、下宿の住人となった彼女が、部屋を出て行くその日まで、長月荘を、彼女の家を守らなければいけないんです」


 「……わかりました。以上で工藤一郎さん、あなたの取調べを終わります。お疲れ様でした」

 相変わらず無表情の男に誘導され、私は先ほどの会議室へと戻った。



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