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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
反攻戦闘編
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反攻戦闘編 9

 翌日七時半に青柳が来た。まだ朝食を作っている最中だぞ? と思ったらそれを狙っていたようだ。狡猾な奴め、よくやりおる。

 「そうだ、ついでだから買い物も頼めるか? 俺は動く事は出来ないし、三人に頼む訳にも、ましてや商店街の人に頼む訳にもいかないし」

 「そうですね。まあ仕方ありません。ただし立て替えて下さいね」

 「当たり前だ。お前の中ではどれだけ俺は金に困っているんだよ?」

 という事で、食糧問題は一応解決。

 「その代わり献立は私が決定します」

 しまった! 台所事情を握られてしまった!


 「今回の事態についてですが、マスコミがどうやって長月荘を突き止めたのか、これは分かりました。日曜日の戦闘時、三方に分かれる事なく飛び去った映像がありましたが、あれで見当を付けていた者がいたようです。そして月曜深夜、長月荘に入る所を目撃されたという訳です」

 「やっぱり、わたし達のせい、ですよね……」

 「どちらにせよ、深夜帯にあれだけ光を発していれば、いつかは見つかっていたでしょう。回避の出来ない問題だったというだけですよ。気持ちが沈むのは分かりますが、今は耐える時です」

 「そうだな。今は耐えてチャンスを覗うだけだ。だからそんな顔するなよ」

 暗い顔で落ち込む三人だが、そろそろ学園に行く時間だ。三人の背中を軽く叩き、気合を入れさせる。玄関前に目隠しするように横付けされた、真っ黒い窓ガラスの白いワンボックスカーに乗り込み、まるで護送される凶悪犯かというほどのフラッシュを焚かれる中、学園へと走って行く。こんな日が後十日も続くのか……。彼女達の心が、そして私自身の心が折れてしまわないかと不安になる。



 視点を車中へと移す。

 青柳はしきりに後方を警戒している。尾行の可能性を考えての事だ。一旦別方向へと走り、別の学校内へ。

 「えっ……?」

 「裏口から出ますよ」

 また車を走らせ、学園へと向かう。その行動の意味を理解し、塞ぎ込んでしまう三人。

 「いいですか、これは私の仕事です。迷惑をかけているだなんて思わないで下さい」


 学園の裏口に到着。そこから学生玄関へ。青柳も学園長と打ち合わせをするために学園内へ。勿論彼女達を巡る今回の報道は既に知れ渡っているものの、三人の顔色を見た誰もが声をかけるのを戸惑っている。

 「大丈夫ー? やっぱり顔色優れないねー」

 そんな中でも中山はあっさりと話題に触れる。しかしこの気の使わなさが今の三人にとっては救いである。

 「工藤さんも青柳さんも今は耐える時だって。でも、わたし達のせいでどんどん話が大きくなって行って、皆にも迷惑かかるし、でも侵略者の事を考えたら離れる訳にも行かないし……」

 暗い表情しか出来ないサイキ。他の二人も同様だ。それを見て、隣でずっと考えていた相良が口を開いた。

 「本当は、絶対に言わないようにって口止めされていたんだけど……最近工藤さんの行動に怪しい点は無かった?」

 「ええ、あったわよ。私もそこは聞いてみたけれど全てはぐらかされたわ」

 サイキではなく、一番その事に敏感だったナオが答えた。

 「やっぱり。あのね……」

 言葉を詰まらせる相良。三人と周囲の友達は不思議そうな顔をする。

 「ごめん。やっぱりいいや。でもね、これだけは覚えておいて。工藤さんは本当にサイキ達のためを思っているって。だから、あんた達から離れて行こうだなんて、絶対にしちゃ駄目だからね」

 言い終わった所で授業が開始される。三人はそれ以上は聞かない事にしたようだ。


 授業の合間の休憩時間中、青柳が教室の外から手招きをしてきた。険しい表情でナオが応じる。

 「終業式までは今朝の通りに尾行を撒いてから学園まで送ります。その後は六時限目終了頃に迎えに来ます。土曜日は四時限目終了頃に。私が直接教室まで迎えに来ますので、それまでは教室待機でお願いします」

 「はい。ご迷惑をおかけします」

 深々と頭を下げるナオ。青柳は頷く。

 「そしてもう一つ、一度でも学園の事を気付かれたら、その時点で退学処分が決定されます。私も手を尽くしますが、既に状況証拠は揃いつつあります。教育委員会の松原栄利子の事もありますし、いつ引き金が引かれてもおかしくはありませんので、改めてその覚悟をお願いします。……酷なお願いで申し訳ありません」

 ナオの表情が一層険しくなる。最早泣き出す一歩手前である。

 「駄目ですよ。笑顔でいろとは言いませんが、泣き顔を見せるのはいけません。気持ちを強く持って下さい」

 「……はい」

 青柳は帰っていく。それを見送るナオ。深く息を吸い込み、気合を入れ直す。

 「私が挫けてどうするよ……!」


 席に着くナオ。サイキとリタの服を引っ張り、二人は耳を近づける。ナオは敢えて小声で青柳との会話を報告する。

 「放課後は青柳さんが来るまで教室待機。それと、テレビに学園の事が知れたら、その時点で私達は退学。この事は皆には内緒。知れたら絶対無茶するんだから」

 目線だけで了解の合図を送る二人。

 「なんだったのー? って先生来ちゃった」

 中山の追求は二時間目の授業に阻まれた。


 次の休憩時間には中山はその話をすっかり忘れており、結局放課後までは何もなく終わった。午後のホームルーム終了前に既に青柳は到着していたので、急いで合流する三人。

 「初日なので念の為少し早く到着しておきました。焦らせるつもりではないので、友達との挨拶が終わってからでも一向に構いませんよ。それとももう少し遅くに来るほうが良かったでしょうかね?」

 「わたし達はいいので、青柳さんの都合で構いません。遅くなったら教室で待っていればいいだけですし」

 頷く青柳。すると孝子先生が青柳に親しげに声を掛けてくる。

 「秀二さんこんにちは。この子達の事、本当に頼んだからね。退学になんてさせたら許さないからね」

 「勿論、私だってそんな事はさせませんよ」

 そんな二人に周囲も何か妙な雰囲気を感じ取る。事情を知らない一般女子クラスメートが声を掛けてくる。

 「ねえ先生の彼氏?」

 孝子先生が反応するよりも早く青柳が応答する。

 「私は警察の者です。私には好きな人がいますから」

 「なーんだ。皆ー違うってさー!」

  一切嘘は言わずにはぐらかし、見事に勘違いさせる事に成功する青柳。


 その後はまた一旦長月荘とは別の方向へと車を走らせる。警察署付近のスーパーに寄って晩御飯の買出しだ。三人は青柳に言われ車内で待機。二十分ほどで買い物を終え、長月荘へと向かう。

 長月荘前の道路に居座っていたマスコミは数が減っていた。

 「不法占拠だと脅したのが効いたようですね」

 出発時と同じく、車を玄関に横付けし目隠し。ようやく三人は長月荘へと帰ってこられた。

 この生活が後九日続くのだ。



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