反攻戦闘編 7
一方の学園サイドに視点を向ける
「ふわあぁーーぁ」
三人ともあくびをしている。夜十二時からの戦闘という、今までで一番遅い時間での戦闘だったので眠気が抜け切れていない。
「三人とも眠そうだねー」
「真夜中に戦闘があったのよ。全く、TPOを弁えて出てきてほしいわよ」
「あはは。出てくるのはいいんだ」
ナオと木村中山コンビはいつもの調子。一方リタと泉。
「なんかリタちゃん元気ないね。どうしたの?」
「ちょっと反省しているです。戦闘中は冷静にと思っているですが、リタの暴走で工藤さんに心配をかけてしまったです」
「うーん、私はそういうの分からないけど、血が騒いじゃうのかな? リタちゃんの野生の血がこう、グワーって」
「……あながち外れでもない気がするです」
今日で全てのテストが帰ってくる。まずは英語だ。
「はーい、テストを返しますよー。満点が一人いまーす。ナオさーんおめでとうございまーす」
最後列で小躍りするナオ。これで三教科満点。
「わたし……八十二点。リタは?」
「……見せないです」
「私見ちゃったわよ。六十三点ならいいじゃない」
「勝手に点数言わないでもらいたいです!」
リタに怒られているナオ。完全に調子に乗っている。
次に社会。記憶力勝負だ。
「返すぞー。満点は三人だ。平均点結構高いから点数が良くても油断するなよ」
「私以外に誰だろう……」
ナオはテストが戻ってくる前から、完全に自分が百点だと思い込んでいる。
「はい、青柳ナオさん、百点おめでとう」
思い込み通りだった。テストを返してもらい、振り返りざまに嬉しそうにガッツポーズ。
「ナオさんこれで四教科連続だ」「すげーなー」「パーフェクトゲーム来るかな?」
端々から驚嘆と期待の声が聞こえる。まさに鼻高々といった感じのナオ。
「工藤サイキさん、おめでとう。二人目の百点だ」
「んーやったあー!」
飛び跳ねて喜びを表現するサイキ。そしてナオとハイタッチ。
「リタさん、はい」
答案を受け取りそそくさと席に着くリタ。その光景に察する二人。しかし調子に乗っているナオはその矛を収めない。
「で、何点?」
「……六十一点。なんでこんな身にならない勉強をしなくちゃ……」
「駄目よ。そういう事は例え思っていても口に出さないようにね」
「分かってるです……」
言ってはいけない一言が口から零れそうになり、ナオに怒られる。それでも納得出来ないという表情のリタ。
最後に数学だ。これにはリタも気合が入っている。専門分野なので当然だ。
「よし答案返すぞー」
真剣な眼差しのリタ、心躍る表情のナオ、半ば諦めているサイキ。
「な……なん……九十八点、ですって……」
ナオの夢破れる。がっくりと肩を落とし意気消沈という感じ。
「あー七十点台から落ちちゃった。頑張ったのになあ」
サイキは六十九点だった。
「おかしいです。絶対に……」
リタも同じく九十八点。
席に座ると、すぐさま間違えた問題を計算し直すリタ。三十秒ほどで計算を済ませ、憤怒の表情でつかつかと教卓へと向かい、その気迫に周囲も何事かと注目をする。答案と教師を一睨みし、教師の持つチョークを奪い取り黒板へと手を伸ばす。
「……」
沈黙し固まるリタ。何故ならば、背丈が足りないのだ。手を伸ばしても黒板の半分までしか届かないのでは、計算式も満足に書けない。みるみる表情が険しくなり歯を食いしばる小さなリタ。
「っ!!」
授業中にもかかわらず翼を出した。その行動に教室の全員が一瞬声を出し固まる。そのまま浮上し、物凄い勢いで計算式を書き殴り、模範解答を導き出す。翼を仕舞い、投げるようにチョークを置き、そして黒板を強く一叩き。
「十八問目、先生の答えが間違っているです! 訂正を要求するです!」
鬼気迫る表情に完全に圧倒される数学教師。
「お、おう……」
じっくり問題とリタの計算を確認。
「……十八問目、確かに俺のミスだ。こっちの答えでバツになっている奴もってこい」
「間違えたら?」「んえ?」
更に何か食い下がっているリタ。
「……先生は間違えを認めても、まだやっていない事があるです。間違えたら、どうするですか?」
「あ、そういう事か。皆、俺が悪かった。申し訳ない」
頭を下げる教師を見て、満足げに席に戻るリタ。
「あ、点数直してもらうの忘れてたです」
リタの活躍により点数は見直され、数学はサイキ七十一点、ナオとリタは百点となった。
昼休みに入り、早速皆集まってくる。
「ナオちゃんパーフェクトだよー。凄いよー」
「いやここはリタちゃんの抗議でしょ。半端じゃない迫力だったもの」
「そうね、ここはリタの勝ちね。あれが無かったら私も満点になっていなかったし」
一斉にリタに視線が集まる。当人は思わず翼を使ってしまった事も含め、恥ずかしさで一杯である。
「えっと、ミスは正さないと、例えそれがどんなに小さな物であっても、大きな故障の要因になるです。だから計算が間違ったままになるなんて、絶対に許される事ではないです」
皆納得し頷いている。すると最上が一言。
「リタちゃんってさ、学者みたいな所あるよね」
「わたし達の装備の中にも、リタが関わっているのがあるから」
「へえ凄い! リタちゃん天才なんだね!」
益々照れるリタ。顔が真っ赤である。しかし深呼吸し努めて冷静にこう言い放つ。
「それでもやっぱり限界はあるです。散々それを痛感してきたです」
自分の知識で可能な事の限界、というものを一番よく分かっているリタだからこその発言。そんなリタを、泉が羨ましがった。
「リタちゃん、それて凄く贅沢な事だよね。自分の限界って中々知る機会がないと思うよ。私なんて限界が来る前に諦めちゃうもの」
これを聞き、リタは横の二人を見つめた。
「……リタは、贅沢ですか?」
その一言にサイキとナオは顔を見合わせる。
「うーん、贅沢というか、正直言って羨ましいと思う事はあるわね。でもそれは仕方がないじゃない? どうしても取り戻せないモノだってある。そういう事よ」
リタは少し考え、一つ頷き話を終わらせた。
帰りのホームルーム直後、急遽孝子先生に廊下まで呼び出される三人。何事かと不安げな表情だ。
「いきなりでごめんなさいね。長月荘でちょっとまずい問題が発生したから。……覚悟しておいてね」
「えっ……な、何があったんですか? 工藤さんに何か!?」
狼狽する三人。その表情には先ほどまでの喜び楽しさなど消え失せている。
「まずは学園長室に行きましょう。荷物持って来なさい」
急いで荷物を取りに戻る。
「サイキ途中まで……って顔青いけど、どうした?」
「ごめんなさい美鈴さん、今日は剣道場に行けないかもしれない。ちょっとわたしも状況が分からなくて……分かったらまた連絡するね。それじゃ!」
顔面蒼白で教室から飛び出して行く三人。それを見て、残されたクラスメート達もただ事ではない事態が発生したのだと感じ取る。
孝子先生に連れられ、足早に学園長室へと向かう三人。ノックをし、この状況でも礼儀正しく入室する。
「突然ですみません。確かあなた達には、専用の手段で工藤さんと連絡が取れますよね? 私から説明するよりも直接聞くのが早いと思いますので、使用を許可します」
頷き早速長月荘の工藤へと接続を試みる三人。
「……あ、工藤さん! どうなっているんですか!?」
「サイキか。すまん、簡潔に言うと長月荘がマスコミに見つかった。今お前達がそのまま帰ってくるのは非常にまずい。悪いがそこで待機していてくれ」
困惑する三人。血の気が引いていく。
「あ、あの……えっと……」
「どういう事よ……せっかく……」
「このままお別れなんて事はないですよね?」
展望の見えない奈落に突き落とされ、どうする事も出来なくなる。
「ここから先は俺も分からん。……ありがとうな」
「そんな事言わないで下さい!」
感情的になり声を荒げるサイキ。
「……とにかく今は待機。以上だ」
「そんな……」




