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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
反攻戦闘編
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反攻戦闘編 5

 「ただいまー」

 「おかえり。格好良かったぞー! 俺も近くで見たかったよ」

 三人の照れ笑いが可愛い。早々にリタは武器開発を再開。

 「それで、あの装飾は何なの?」

 私が言うよりもパソコンで詳細を見てもらうのが早いだろう。

 「へえ……いいなあ。私達はこういうの全くやった事ないもの」

 「そうだな、それじゃあ今度皆で出掛けようか」

 「ホームパーティっていうのもいいなあ。どうせなら友達皆呼んでみたい」

 「俺は構わないが、そういうのは先方にもちゃんと許可を取らないと駄目だぞ。計画を立てるならば早めにな」

 これは忙しくなりそうだ。どうせならば長月荘住人にも手伝いを頼もうかな。


 携帯電話が鳴った。青柳からだ。そういえば今回一切絡んでこなかったな。

 「すみません、手が離せない状況でした。それで戦果報告なのですが……」

 何か言い辛そうにしている。もしや我々が気付かない間に大きな被害が出ていたのだろうか。

 「人的被害は軽傷者六名のみです。物的被害もほぼゼロなので、あれだけの人数がいる中で、この少ない被害は素直に賞賛出来ますね」

 その結果に二人手を繋いで喜んでいる。

 「青柳の口調から、もっと被害が出ていたのかと思ったぞ。脅かすなよ」

 「今回の最大の問題は、イルミネーション撮影の為にカメラを持っていた人が大勢いたという事でして。間違いなく大騒ぎになりますよ」

 「ああ、それも見越して三人には格好良く戦えって言っておいたんだよ。拡散されるのはもうどうしようもないだろうから、ならばいっそ目立ってしまえってな。それに、現場の反応はかなり良かったぞ」

 「そうは言っても、限度というものがあります。もっと慎重に作戦を立てなければいけません。何となくでどうにかなる話ではありませんよ」

 怒られてしまった。うーん、失策だったかなあ。自信が無くなってきた。

 「明日以降の世間の動向は今まで以上に注視しなければいけません。場合によっては……覚悟も必要です」

 「はい。すみません」

 すっかり意気消沈な私。サイキに頭を撫でられるが、その優しさが今は辛い。


 翌日、やはりというべきか、朝から大きく報道されている。そして学園での戦闘以来、テレビ出演を控えていた松原栄利子もいる。

 「松原さんはご息女が以前の戦闘に巻き込まれた事があるとお聞きしましたが、今回の、まるでショーアップされたかのような戦闘はどう思われますか?」

 ショーアップされた、か……。やはりさっさと終わらせてしまうべきだった。遊びでやっていた訳ではないものの、いざそうだと言われてしまうと気落ちする。失敗したなあ。

 「多数の人命を助けているという点では文句はありませんけど、やっぱり早く解決するに越した事はないですからね」

 はい、全くもってその通りでございます。ぐうの音も出ませんとも。


 彼女達は私に気を使ってか、その報道には一言も触れずに学校へと向かって行った。私はその後はインターネット上の反応確認作業を開始。正直言って気が重い。

 動画サイトには複数の動画があり、それぞれ別の人、別の視点で撮影されている。コメントは格好いいだの可愛いだのが大半だが、鋭い視点を持つ人もいるもので「わざとらしい」という意見もある。

 そして複数ある動画のうちの一つに、今回の作戦以外での問題点を見つけてしまった。帰投する際に三人一緒に帰っていくのだ。その映像には駅が映るので方角も分かる。つまり三人の居場所が、即ち長月荘が見つかってしまう可能性が出てきた。

 勿論二ヵ月半も滞在していればご近所さんには気付かれてはいる。皆それを口にしていないだけだ。しかしこのヒントを目ざとく見つけたマスコミが来たらどうだろうか。問題は山積するのみ。


 SNSも覗いてみる。

 「指示が工藤さんなら、調子に乗っちゃったな」

 「綺麗だからいいけど、ねぇ」

 こちらはより我々に近いだけあり、辛辣である。名前の後に「傷心中」と入れておきたいほどだが、それ自体ふざけていると思われては元も子もない。

 そうだ、サイキのやりたがっているクリスマスパーティに使えそうな人材がいないかを聞いてみるか。というか、そうでもしないと気が紛れない。

 「何処でやるの? ホテル貸し切る?」

 「そんな金あるか。長月荘でやる予定だ。三人とその友達、俺も合わせると十人規模だ。さすがにクリスマスで皆忙しいだろうから、あまり期待はしていないぞ」

 結局は私一人でどうにかする事になりそうだけれどな。

 後はとにかく淡々と家事をこなす。動いていれば少しは気が紛れるというものだ。天気予報ではまた夜から雨。溜め息しか出ない。


 彼女達が帰宅。教室でもかなり話題になっていたそうだが、しかしそれ以上は語らず。

 いかんな、子供達にまで気を使わせてしまっている。ここは無理やりにでも平静を装わねば。夕飯も終わり、のんびりとしていると雨が降ってきた。昨日の今日でまたこれだ、今度は選択を誤らないようにしなければ。

 「そうだ、幾つかテストが帰ってきたよ。見ます?」

 勿論だ。私の気も紛れる。存分に弄り倒してやろうではないか。

 「国語と理科の二教科が帰ってきたわ。残りは明日ね。じゃあ見せましょうか。ふふーん、驚いてもらうんだから」

 「ナオのそれは自信満々過ぎて見る前から分かってしまうじゃないか」

 「勿論ですとも。どちらもひゃくてーん! いやったー!」

 まさに大袈裟にはしゃぐナオ。しかし本当に嬉しそうだ。

 「次はわたし。国語が九十一点、理科は七十四点でした。どっちも三分の二以上には入ってるよ」

 「さすが優等生。クラス上位決定だな」

 「一位じゃないのはちょっと悔しいけれど、ナオがいる限りは、ねえ」

 そう言い笑っている。それに答えるように自慢げなナオ。

 「さて次はリタだが?」

 無言で理科のテストだけを提出するリタ。点数は百点。さすが技術者と言った所か。

 「もう一枚は何処だー、出さないと孝子先生に言いつけるぞー」

 「……分かったです」

 ふくれっ面で出した国語の点数は四十二点。サイキに倍以上の差を付けられている。赤点ではないが、他の二人と比べると余計に落差が大きく感じられるな。

 「これは本当にナオに付いてもらったほうがいいな。罰ゲーム付きで」

 罰ゲームは冗談だが、狼狽するリタ。それを見て呆れるナオ。サイキはリタを擁護。

 「リタは武器開発で時間が取られているから、その分は仕方ないよ」

 「はっ! そうだ、武器開発してくるです!」

 物凄く分かりやすく逃げた。その光景に笑いが起こる。全く可愛いな、リタは。

 「じゃあわたしは剣道場に行ってきますね。この生活に早く慣れないと……」

 「無理をして体壊すなよ。あれならお前だけカフェの手伝いを短くするように、はしこちゃんに頼んでもいいんだからな」

 「うん。でも、きつくなったらわたしから言います」


 日付を跨ごうかという所で襲撃が発生する。遠くで三つの悲鳴音を確認。部屋から飛び出してきた三人を見ると、あまりよろしくない状況のようだ。

 「三点同時攻撃で、しかも三体とも大型。うち一体は病院前でリタが合流した時の奴だ。早くしないと被害が大きくなるよ」

 また難しい選択を迫られるのか。熟考している時間もなさそうだし、とりあえずは近距離には近距離を、遠距離には遠距離をあてがう。

 「私としてはこの遠距離型はサイキが……いえ、その采配にしましょうか」

 「こんな時に気を使う必要はないぞ。ナオが言うならばサイキに行かせよう」

 「大丈夫です。リタでも出来るです」

 私の畏れは見抜かれている。そしてそれがまた彼女達の負担へと繋がる。悪い連鎖が止まらない。何事もないように、そう祈るしかない。

 「私は北、サイキは東を。さっさと倒してリタと合流。リタ、無茶しないでよ」


 今回もまた青柳とは中々繋がらない。時間が時間だものな、仕方がないか。

 最初に戦闘を開始したのはサイキだ。場所は東の畑の中だな。これならば被害は少なく済みそうだ。

 「さっさと終わらせる!」

 そう一言、飛行したままの突撃体勢で、一発で左腕を切り落としてみせる。これならば確かに早く終わりそうだ。

 次にリタが到着。しかし住宅街のど真ん中だ。やはり速度重視でサイキにするべきだった。また失敗か。

 「射線に中々……」

 リタの目線では相手の攻撃対象をリタに絞らせる事には成功しているが、そのせいでリタ自身が攻撃態勢に入れなくなっている。細かく走り回っているが、いつまで持つか。

 「私も到着。早急に終わらせて行くからね。リタ頑張ってよ」

 ナオも戦闘開始。上空からの投擲で右腕を落とす。すぐさま槍を回収、再投擲で左腕を潰す。戦闘開始から三十秒とせずに無力化とは早いな。

 「東側クリア! リタ、今行くよ!」

 サイキは一体目の深緑を倒しリタの元へと向かう。時間にして二分ほどか。

 「北側もクリア! 待ってなさいよ!」

 すぐさま続いてナオも深緑を撃破しリタの元へと急ぐ。ナオは結局一分も掛からずに大型深緑を倒した事になる。サイキに負けず劣らず強いじゃないか。

 「リタのおかげよ。改修が凄く効いているの」


 「ううー……」

 リタが唸り始めた。戦闘開始からずっと攻撃を避け続けている。さすがにそろそろ体力の限界だろう。

 「リタ、壁に隠れて一旦休め。多少の被害よりお前のほうが大事だ」

 「ま、まだです」

 また暴走癖が出ている。最近は落ち着いたかと思っていたんだがな。

 「いいから今は……」「うあっ!」

 冷静にさせる前に被弾し飛ばされた。気絶はしていないが既に息が切れている。結構まずい状況だ。本人も焦って壁に隠れた。私自身もかなり焦っている。

 「リタ大丈夫か? 怪我はないか?」

 「痛いだけ……傷はないです」

 「ごめんな。そこで援護が来るまで隠れていろ。サイキは今何処だ?」

 「すぐそこ! 後は任せて!」

 サイキ目線で最後の遠距離型を確認。病院の時には分からなかったが、改めて見ると黒ではなく灰色に近い姿だ。中型も灰色は遠距離持ちだったな。もしかして大きさの他に色でも分別されているのかもしれない。


 「一気に叩き斬る!」

 間髪入れずにサイキの剣が赤く光る。まさかそのまま倒すつもりか?

 上空から急降下してくるサイキ。そしてそのまま宣言通りに垂直に一刀両断してしまった。あれだけ苦労していた敵を、こうもあっさりと倒してしまうのか。

 「南東もクリアを確認。リタ大丈夫?」

 「疲れた……です……」

 電池が切れたようにへたり込むリタ。その目線での映像が切れる。散々無理はするなと言っておきながら、当の私が無理をさせてしまった。合わせる顔がないな。

 ナオも遅れて到着。

 「リタ立てる? ……やっぱりいいわ。私が背負って帰ります。サイキ手を貸して」

 「リタからの映像が切れたんだが、本当に大丈夫か?」

 「ええ、疲れて寝てしまっただけよ。時間も遅いし、仕方ないわね」

 よく聞くと確かにリタの寝息が聞こえる。少し安心する私。しかし、また失敗してしまったな……。

 最早私の司令塔としての自信は空前の灯火である。



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