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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
反攻戦闘編
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反攻戦闘編 4

 帰宅中の車内では早速三人で話し合いが始まっていた。一応リタに負担は掛けるなと二人に忠告をしておく。

 話を要約すると、サイキはより日本刀に近いサイズと重量に、更に空間アンカーを仕込みたいようだ。ナオはそもそも専用設計にしたいと言い出しておりリタを困らせている。当のリタはレールガンを仕込んだ拳銃という構想が優先の様子。

 「ナオのは論外として、サイキとリタのはどうにかなりそうだな。でも何度も言っているが……」

 「無理はするなよ、分かっているです。それに二人の言いたい事も勿論分かるです。でもまずはリタのペースで、リタのやりたいようにやらせてもらうです。こちらの世界に持って来た機材が少ない以上、複数の武器を平行で製作するのは不可能に近いので、ゆっくりやるしかないです」

 二人は「ごめんね」と謝っている。ここは本人に任せるしかないか。


 帰宅後すぐにサイキとナオはカフェへ。青柳が送ってくれるそうだ。リタは本人の要望により開発に専念する事にした。二人には土日はリタが休むとはしこちゃんに伝えてもらう事にする。はしこちゃんの事だから理由は言わなくても分かるだろう。

 先に昼食を済ませ、足早に部屋に篭るリタ。相変わらず無音なのだが、本当にどうやって武器開発をしているのか不思議でならない。武器を取り出すのと同じように、空中から部品を取り出していたりするのだろうか?

 気付けば外はもう暗い。そろそろ二人も帰ってくる頃だな。そうだ、今日は彼女達に晩飯のリクエストを聞いてみよう。接続をしてみると丁度カフェを出た所だった。

 「わたしオムライス!」

 「私は特にこれと言ってないわ」

 という事でオムライスかな?

 「カレーがいいです!」

 おっ、二階からもリクエストが来た。わざわざ接続せずに部屋から叫ぶとは、中々やるなあ。オムライスかカレーか……ならばここは一つ、あの料理を作ってやるか。帰宅後、早速手伝おうとするサイキ。

 「この匂い……オムライスじゃないよ?」

 若干残念そうな顔。オムライスは今度作ってやるよと言うと少し和らぐ。さてこれ以上は完成してからのお楽しみ。サイキには手伝う必要は無いから座って待っていろと指示。


 ケチャップご飯の代わりにドライカレーを使い、今回は普通に玉子で包み、その上にカレーをかければ長月荘特製オムカレーの出来上がり。使う材料が二倍になるので食費には痛いが、いつも頑張っている彼女達へのご褒美だ。

 リタを呼び三人揃った所で料理を運ぶ。突如として出現した、その一見して謎の存在感を放つオムカレーという物体に、三人は目を丸くしている。ふっふっふっ、してやったり。

 「オムライスと」

 「カレーが」

 「合体してるわね……」

 上手い具合に言葉が繋がり、笑ってしまう。狙っての事でない様子がまたおかしい。

 一口目はまさに戦々恐々といった感じ。反応はあまりないな。何だ残念……と思ったら食べる速度が一気に上がった。その後は三人とも一切の無言で、あれよあれよという間に一気に平らげる。

 そしてお支払いには満面の笑顔を頂き、心の中ではこれでもかと自慢げになる私。

 「美味しい! おかわりしたい!」

 「それで全部だ。残ってるのはカレールウだけだな」

 「じゃあまた今度作ってよね!」

 「これな、二倍の食費が掛かってるんだぞ? そう何度も作れるようなものじゃないんだよ。それから、明日の朝飯はカレーだからな」


 三人を満足させ、一息ついた所で悲鳴音が鳴る。侵略者の襲撃だ。場所は駅のすぐ南との事。この時間だとかなりの人出が予想される。それはつまり被害の拡大と、そして彼女達が否が応にも衆人の目に留まるという事を示す。非常によろしくないが、どちらを取るかは問う必要すらない。一切の迷い無く三人は飛び出して行く。

 「本当に迷惑な奴ら。せめて人のいない所に出てくれればいいのに」

 「文句を言っている暇は無いぞ。敵の数や種類はどんな感じだ?」

 「えっと、中型灰色と中型青色が一体ずつ。どっちも遠距離広範囲……。今回はリタが鍵だと思います。頼むねリタ」

 「頼まれたです」

 どちらも飛び道具持ちか。接近出来れば二人でもいいが、それ自体にも援護射撃が不可欠であり、リタの手腕が問われる。

 「被害を抑えるならばとにかく速攻ね。リタは私達が接近戦に持ち込むまでは援護、それからは自由戦闘ね。さてと……見えたわ。しっかし綺麗ね。この飾りは何?」

 「ああクリスマスイルミネーションだよ。って言っても分からないか。帰ってきたら教えてやるよ。今はとにかく侵略者の撃破が先だ」

 空からの三人の目線で見るイルミネーションは本当に綺麗だな。そしてその中にいる二体の侵略者。やはり日曜なのでかなり人が多い。被害は……腰を抜かしているような人はいるが、血を流していたり倒れている人は見えない。


 うーん、今の彼女達にならば、これは逆にチャンスになり得るかもしれない。

 「おいお前達、ここは敢えてがっつり目立て。そしてキッチリと勝て。大勢に見られているんだ、格好よく行け」

 「何それ、本気で言ってるの!? 顔が知られているからって、いくらなんでも……」

 「だからだよ。これだけの大人数の命を救うんだ。鮮烈な記憶として脳裏に焼き付けてやるんだ」

 顔を見合わせる三人。ナオは溜め息を一つ。

 「……もう、どうなっても知らないわよ? 二人とも、そういう事だから目立ちまくるわよ!」

 「ふふっ、楽しそう」「誤射だけはしないようにするです」

 二人はやる気だ。恐らく今までは戦闘を楽しむ事など考えられなかっただろうな。

 「よし、じゃあ散開! ショータイムの始まりっ!」

 この一言で分かった。一番ノリノリなのはナオだ。あの子そんなに目立ちたがりだったかなあ? それともどこかで心境の変化でもあったのかな?


 まずリタが牽制に入る。ショットガンからの光の雨が侵略者に降り注ぐ。陽動と足止め、更には周囲の目線を独り占めする事に成功。

 次に二人が駅前広場に急降下し、横並びの低空飛行で突っ込んでくる。

 「おーあれか!」「来たぞー!」「頑張れー」

 この時点で周囲から歓声が上がっている。既に十二分に認知されているという証拠だな。

 接近戦に持ち込み、イルミネーションに照らされる二人の剣舞が周囲の人々を魅了する。私も近くで見たかったな……なんて。

 リタも降りてきて、道路の真ん中、中央車線上に陣取る。小さい体に耳の生えた緑の頭。それだけでも見事に目立っている。「リタは相変わらず無愛想だな」と言うと「戦闘中です」と怒られてしまった。真剣さは変わらないな。

 リタは64式に持ち変える。周囲からどう映るかは分からないが、私から見ると敢えて銃撃の威力を落としているのが分かる、攻撃態勢に入りそうな側の侵略者を正確に撃ち、それを阻止させている。おかげで周囲に被害は全く出ない。光の尾を引く弾丸は、それだけで周囲のイルミネーションに匹敵する。


 「よしよし目立ちまくりだぞ。格好いいぞ! しかしこれ以上は被害が出る可能性もあるな。そろそろ仕上げよう。サイキ、ナオ、二体同時に倒せるかな?」

 「ふふっ、やってやろうじゃないの。サイキ、タイミング合わせるわよ! リタはごめんね」

 「甘いです。二丁持ちという手が……やめておくです」

 あっさりと諦めたな。

 「開発の事を考えるとここで無理は出来ないです」

 さすが技術者、そっちが優先なんだな。

 「準備オーケー! ナオ、カウントは任せるね」

 「よし、スリーカウントで行くよ!」

 別々の動きで舞いながらも息を合わせ始める二人。リンカーでの補助が効いているのだろうか?


 「スリー!」

 まだ二人の動きは揃わない。

 「ツー!」

 別々の動きで同時に距離を取り、横並びになる。これは上手い。

 「ワン!」

 構える二人。息を飲む私。

 「ゼロ!」

 一糸乱れぬ動きで両者同時に突撃しFA発動。サイキは袈裟切り、ナオは串刺し。

 全く同時に消滅する二体の侵略者。本当に綺麗に決めやがった。パソコンの外側の私も思わず拍手してしまう。勿論現場は大喝采だ。

 三人揃い一礼するといつも以上に派手に翼を広げ高く飛び上がり、帰路へと就く。


 しかしこの時、我々はやり過ぎていた。そして最後の最後にとても大きなミスを犯していた。その事を思い知らされるには、数日と掛からなかった。



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