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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
反攻戦闘編
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反攻戦闘編 3

 今日は朝から三人ともそわそわと落ち着きがない。

 それもそのはず、今日は渡辺が武器を仕入れて見せてくれるという話になっているのだ。彼女達の本来の目的が大きく進展するのだから仕方がないか。しかしどういうものを用意したのか、全く検討が付かない。

 朝食を終えた数分後には青柳が来た。白いワンボックスカーにサイキが少し反応しているが、あれ以来多少トラウマが和らいだようだ。朝食は終わったと言うと、さすがにそこまでは期待していないと否定された。

 「今日は警察署ではありません。もっと広い土地が必要なので、北東の端にある空き地に向かいます」

 「嫌な予感がするんだが、大丈夫だろうな?」

 「渡辺さんの指示なので私からは何とも。あとそれから、きっちり三人揃って来てほしいとの事でした。幸い天候は夜まで持ちそうですね」

 この話だけで私の懐疑心のメーターは振り切れる。絶対にあいつ何か企んでいるぞ。


 我々を乗せ出発。サイキはやはり乗る時に手を繋いできた。もうトラウマと言うよりは条件反射なんじゃないかな。

 四十分ほどで集合場所に到着……したのだが何もない。誰もいない。やはり何かの謀略に引っかかってしまったか?

 「……予定よりも三十分も早く着いてしまいました。暇ですね」

 お前の仕業か! まあいい、ここは車中でのんびり過ごそう。一応はしこちゃんに遅くなるかもしれないと連絡を入れておく。日曜日は人が少ないので一人でも回せると言っているが、やはりそういう訳にも行かないだろう。


 それから二十分ほどだろうか、渡辺が来た。後ろからはトラックが付いてきている。何を出すつもりなのか。

 「待たせたかな? 今回はとある人材を拾ってきたんでな、それの紹介も兼ねている」

 スーツの渡辺とは違い、普段着のような男女がトラックから降りてくる。

 「初めまして。造型堂という立体デザイン会社から来た造型師の新垣です」

 「同じく古田です」

 私も軽く自己紹介。そろそろ名刺でも作るべきだろうか。新垣が男性、古田が女性だ。見た目はどちらも若そうで、二十代後半かな? 渡辺は何処からこんな業種の人物を見つけてきたのだろうか?

 「ここの社長と知り合いでな、三人を模した造型フィギュアを作る時に、優先的に仕事を回してやると言ったらすぐに食いついたよ。だから三人事はこの二人も知っている。さっさと着替えても構わないぞ」

 「お前それ自分から情報拡散していないか? 人には散々気を付けろって言っていたのに何してるんだか」

 「だから信用出来る奴にしか言ってないぞ。そこは俺を信用してくれ」

 まあ今更か。渡辺には何かと世話になっているからなあ。


 「剣や槍はレプリカでも大丈夫って言ってただろ? だから普段手に入らないならばレプリカで済ませちまおうって訳だ。非現実的な造型の武器や、現実にあっても手に入らない武器もあるからな。それと一応、所謂エアガンではあるが銃も持って来ている。使えるかどうかは別だけどな」

 なるほど、だから立体デザインでトラックか。すると青柳も。

 「私も警察署の押収品から二つ拝借してきました。勿論返さなければいけないものなので、見せるだけですが」

 「押収品を勝手に持ち出すなんて大丈夫なのか?」

 「勝手にではないので大丈夫ですよ」

 さすがに許可を取ってある様子。


 さてそれぞれの部位のお披露目である。私も童心に帰りわくわくしている。やはり男はいつまでも男子なのだな。トラックの荷台が開き、積んでいたレプリカの武器類が見えた。確かに非現実的なサイズと造型の剣もいくつか。新垣という男性が解説してくれた。

 「そこの大きいのは、最近売れているモンキルというゲームがありまして、それの武器ですね。ゲームの武器なので現実でどうこうというものではありません」

 全ては既にスキャンの許可が出ているので、後は三人に任せる。さすがに身の丈の倍以上もある巨大な剣にはサイキも引いていた。


 「レプリカなので本物同様に扱うのはちょっと……すみません」

 構えて思いっきり振ろうとしているサイキを静止する古田。それを聞き謝るサイキ。あくまで造型の手本という訳だな。

 ここで一番目を輝かせていたのはナオだった。サイキは元からかなり強く、リタは新しい武器も手に入れた中、ナオだけは現在の槍の改修のみで済ませているのだから、そろそろ新しい武器が欲しいのだろう。


 「では私が持ってきたものもお見せしましょう」

 そう言い青柳は車の後部から何やら凄く長い箱を取り出した。

 「日本刀一本と薙刀一本です。本物ですよ」

 「ああ、サイキの友達一家が剣道場やってて、昨日そこでで日本刀触らせてもらったばかりなんだよ。惜しいなあ」

 見た目からがっくり肩を落とす青柳。かなり気合を入れて持ってきていたようだ。すかさず三人がフォローに入る。

 「あまりしっかり持てなかったから、いやー嬉しいなあ」

 「これ私に丁度よね。ありがとうございます」

 「スキャンするです。今すぐするです」

 その光景に涙を拭う仕草をする青柳。実際には泣いてなどいないが、こんな芸当も出来るのか。そうかこれが孝子先生を落とした、所謂ギャップと言う奴か。ここにナオ以上の策士がいる!

 しかし三人それぞれ本音も混ざっていたようで、かなり嬉しそうだ。こっちは振っても構わないという事で、二人とも試しに振っている。サイキは日本刀を、しかし昨日の事があったので物凄く慎重に。ナオは薙刀を大胆に振り回している。

 「ナオ、やり過ぎて指切り落としたりするなよ」

 注意を入れると、近くの木の枝を切ってみるナオ。そして途端に扱いが慎重になった。

 「思ったよりも切れたから……やっぱり武器だもの、危険性があって当然よね」

 ここら辺のさじ加減は技術者リタにお任せかな。


 その後は三人それぞれ三つずつ武器を選んでリタにスキャンを任せていた。渡辺が改めて全部スキャンしてもいいと言うと、まずは自分に合っていて有用性の高いと思う順に三つ選んだのだそうな。相変わらず律儀な子達だ。

 サイキは青柳持参の日本刀、西洋の直線的なロングソードという奴、そして最後は幅があり、刀身に何やら複雑な絵柄の描いてある剣。日本刀以外はゲームの武器であるらしい。最後の剣に関しては絵柄を参考にしたいらしく、武器自体はやはり刀がいいそうだ。

 ナオは青柳の薙刀、ハルバードという槍と斧が合体したような武器、そして槍ではなく柄の長い、片側が鋭くなっているハンマーのような武器。全て投擲には効果が無さそうだと言うと、それは今ので充分だという判断だそうな。

 リタは大型のスナイパーライフルと、これまた大型のショットガン、そしてアサルトライフルというのを選んだ。そのうち拳銃も種類がほしいのだが、まずは自分で触って確かめるまでは、今ある武器の延長にあるものを選んだとの事。

 皆結局皆堅実な武器を選んだな。


 そうだ、ついでなので私も三つ選ばせて貰おう。単なる余興ではあるが、こういうのは楽しんだ者勝ちだ。

 一つ目は少し長いナイフ。ジジイが振り回すにはこれくらいで充分だろう。勿論そんな事はしないが。

 二つ目はサブマシンガンと言われる中型の銃。よく映画でギャングが弾をばら撒いているのがこれだな。一度でいいから弾丸が切れるまで撃ち続けてみたいものだ。

 三つ目は何故あるのか分からない鉄球に鎖のついたようなもの。フレイルという種類の武器だそうな。遠心力で振り回して敵に当てるらしい。

 私がこれらを選んだ理由は武器の性能そのものではなくて、彼女達に武器の幅を理解させたかったからだ。彼女達の言動の端々からは、武器への興味はあれど、自分達の知る三つの武器以外を武器と認識しきれていない、という雰囲気がある。

 我々からすれば拳一つだろうが何だろうが武器になるのだが、そういう概念が構築されていないといった感じで、これが武器だぞと言われないと、そうなのかと気が付けない感じだ。これが概念の欠落なのかと改めて思うと、今回の催し物は本当に助かった。


 「でもなんでこんな所を選んだんだ? これくらいなら人気のない駐車場なんかでも良かったんじゃないか?」

 「もしもこの後すぐに廃材屋に行きたいって言ったらと思ってな。それに造型堂の二人に報酬も出さないとな」

 「報酬……何か企んでいると思ったら、その報酬が何かなんだな?」

 「ああ気付かれていたか。実は三人に協力してもらいたいんだが、そのー、武器を持ってポーズ決めてくれないか?」

 「あ、そういう事か! 三人を基に何か作るって、それの資料にするつもりか」

 「当たり。まああくまで趣味の範囲でだがな。約束しよう、金儲けには使わせないよ」

 うーん、迷ったが三人がお礼だと言って協力を申し出たので私から言う事は何もないな。撮影中の三人は相当に恥ずかしそうだった。そりゃあ普段そんな角度から写真撮られないだろうからなあ。仕舞いには足の裏まで撮影されていた。


 その後は私と青柳と渡辺で密会。ナオにはやはり怪しまれたが、すぐ引いた。

 「例の最初の侵略者だがな、見つかったぞ。と言っても既に消滅していたがな。別の監視カメラの映像にしっかりと顔まで見えていた。そして道路に飛び出した所でトラックに轢かれ消滅」

 「あいつら交通ルール知らないんだな。前も小型種がトラックに轢かれて消滅した事があるんだ。しかしこれで第一関門突破だな。協力本当に感謝するよ」

 「DNA鑑定のほうですが、既に指定機関への送付は済んでおり、後は解析待ちの状況です」

 「国家機関での鑑定だ、信憑性は高いから安心しろ。まあ実際彼女達の鑑定結果がどう出るかは分からないけどな」

 「本当に二人ともありがとうな。この恩は返しきれる気がしないよ」

 すると二人ともその必要は無いと声を揃える。渡辺は現役住人時代の借りを返しているだけだと言い、青柳は孝子先生との出会いで返してもらっていると言う。本当にありがたい話だ。


 その後は造型堂の二人から連絡先を貰い解散。廃材屋には先日行ったばかりなので大丈夫との事。そのまま帰宅する事となった。



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