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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
反攻戦闘編
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反攻戦闘編 2

 第二十七剣士隊、隊長補佐サイキ対、長月荘主人工藤一郎五十八歳による因縁の? 剣道対決が始まる。


 私も相良父に胴着を着せてもらい、改めてルールを確認。そもそも勝てるとは露ほども思っていないが、万が一の場合にはサイキの秘密を知ることが出来る。これは非常に大きい。

 サイキは恐らく、防衛に徹しつつこちらの隙を突いて一撃で決めようとするはずだ。理由は簡単で、私をなるべく傷つけないようにと配慮するだろうからだ。ならばその一撃に出来る隙を逆に突いてやろうではないか。


 「一本勝負、始め!」

 静かな戦いが始まった。予想通りサイキは自らは打って来ない。サイキの腕の長さを考えてあまり近づかず、挑発を重ねよう。竹刀を払い続けていると、サイキがイライラしてくるのが分かる。面白いのでもう少し挑発してやろう。

 痺れを切らし少しずつ前へと出てくるサイキ。確かに大振りではあるが、そこからの斬撃の速さはさすがだ。ここは焦らず、ゆっくり隙を見定めるとしよう。


 ……ははーん、なるほど。サイキには竹刀の先端から動かす癖がある。普段から軽い剣を振り回しているので、手首のスナップを利かせて速度を稼いでいるのだろうか。

 よし、そろそろ私も打って出るか。素人の本気を見せてやろう。こちらから距離を詰め、面を狙っていると見せかけて上段攻撃を多めに出す。……あら? 意外とサイキが引いている。何か作戦があるのか?

 ここは一旦距離を取ろう……としたのだが、捻った側とは反対の右足が攣りそうになった。庇っていたので負荷が掛かっていたか。

 大きな隙の出来た私は順当にサイキに討ち取られた。


 一礼をすると大喜びするサイキ。初めて剣道で勝ったのだものな。ただし相手はお前以上に素人の私だぞ?

 「それよりも足大丈夫ですか? 最後動きおかしかったけど」

 私の不調を一発で見抜くとは、さすが熟練者の美鈴は鋭いな。

 「ああちょっと攣りそうになってな。最近ずっと左足を庇ってたから負荷が掛かってたかな。まあ痛くはないから大丈夫だよ」

 それを聞いて喜び一転焦って心配し始めるサイキ。

 「えっ、だい……えっと、一応救急箱積んでいますけど……」

 「怪我した訳じゃないし、ただ攣りそうになっただけだから大丈夫だよ。それよりもおめでとう。ずぶの素人に見事勝ったな、隊長補佐殿」

 「凄い嫌味な言い方……」不機嫌そうだ。

 「でも勝ちは勝ちだもん!」と思ったら笑顔になる。

 本当に表情がコロコロと変わる子だ。見ていて飽きない。


 「ははは。うーんそうだな、俺も一つ、お前の言う事を聞いてやろうか。どうする?」

 かなり熟考しているサイキ。何を言い出すのかハラハラものである。

 「……その時になったらお願いします。今はいい」

 貸しにしておくという事か。とんでもない事を頼まれる予感。

 その後はサイキを置いて先に帰る事にする。帰り際、再度剣道場を覗くと、今まで以上に真剣な眼差しで稽古に励むサイキの姿があった。どれほど強くなるのかが楽しみだ。


 剣道場から帰宅すると居間でナオが勉強をしていた。

 「ただいまー。腹減ったな。リタはどうしてる? お前は飯食ったか?」

 「おかえりなさい。リタは篭りっきり。私はご飯は……食べましたよ」

 嘘だな。昼食用に冷蔵庫に入れておいた食事がそのまま残っている。

 「おいこれ……」

 とナオを覗くとあからさまに顔を背けられた。電子レンジで温める事すらも警戒したのか。相当に傷付けてしまったようだな。これはちょっと反省。冷蔵庫に入っているのは私が食べるとして、ナオとリタには別の昼食を用意しよう。

 「わざわざ用意しなくてもいいのに」

 とは言うものの、少し嬉しそうなので良しとする。


 リタを呼ぶが反応無し。また集中し過ぎて人の話が耳に入っていないな。案の定私の部屋でパソコンを凝視していたので、パソコンを取り上げ強制移動。

 「あ、ああー……」

 という何とも情けない声に笑ってしまったが、私の笑い声すらも今のリタの耳には入っていないようだ。ちょっと度が過ぎているな。頭を軽く叩き目を覚まさせる。

 「先に昼飯食え。体壊しても知らないぞ」

 「ううー……でも、いいヒントが手に入ったです」

 「レールガンだっけ? ああいうのって、お前達の世界ならばもう存在していそうな技術だけどな?」

 「昔はあったとしても、今では衰退し消滅しているかもですし、そういう技術が後になって役に立つというのはよくある話です。恐らくは武器の概念も、途中で何らかの理由で衰退や消滅をしたんだと思うです。もしくは消滅させざるを得なくなったかです」

 どちらにしろ、まともな理由ではなさそうだ。

 「それから、拳銃の製作は一旦中止するです。この技術を取り入れて一から作り直しです。もうあの時みたいな経験はしたくないです」

 「あの時?」

 「学園での戦闘時、エンプティで弾丸一つ撃てなかった。誰の力にもなれなくなったです。確かにリタ達のエネルギーは何にでも応用が利くですが、なくなればただの置物。そんなのは嫌です」

 確かに剣や槍とは違って、銃は弾丸がなくなれば何も出来ない。


 二人をカフェに送り出し、SNSを覗いていると電話が鳴った。

 「相良です。明日の予定を教えていなかったもので。明日は所用によりお休みです。それからすみませんが、サイキさんが中々練習を終わろうとしないんですよ。熱心なのは結構なのですが……」

 相良父からだ。サイキの奴も集中し過ぎて周りが目に入っていないな。仕方がない。

 「すみません御迷惑をおかけして。こちらで別に連絡手段を持っているので、そちらを使って止めさせます」

 という事でサイキに接続。

 「おーいそろそろ練習終われー。迷惑になってるぞー」

 「……」

 無反応。先ほどのリタ以上に人の声が耳に入っていないな。

 「おい、いい加減にしろよ」

 「……ごめんなさい、後ちょっとだから」

 ようやく反応したが、これはいかんな、完全に自分しか見えていない。ならば奥の手だ。

 「言う事聞かない子には晩飯作らせてやらないぞー」

 「……美鈴さん、今日はここまでにしよ。時間も過ぎてるし」

 これで止まるとは、相変わらずだなこの子は。時間的に長月荘に寄っていると遅くなるので、そのままカフェに行ってもらおう。私も買い出しついでにカフェに寄ろうかな。



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