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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
反攻戦闘編
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反攻戦闘編 1

 「いつ行く?」

 「なるべく早く行きたい!」

 という事でサイキを連れ、相良家の剣道場に、事前に聞いていた開始時間、十一時丁度の到着を目指して出発。リタにはパソコンの使用許可を出し、ナオには昼飯はレンジで温めるだけのものを提示しておく。

 「私だけ扱い違わない?」

 「だってなー……」「あーはいはい分かりました」

 早めにナオにも活躍の場を作ってやりたい所だな。


 二十分ほど歩いて相良剣道場に到着。早速剣道場からは子供達の元気な声が響いている。サイキは興奮が緊張を上回っている様子。空回りしなければいいが。

 「サイキ来たね。ちょっと待ってて、お父さん呼んでくるから」

 少しして昨日も会ったガタイのいい相良父が登場。

 「ようこそいらっしゃい。今日はとりあえず無料体験という事にしてあります。ですがその前に美鈴に頼まれていましてね。どうぞこちらへ」

 最初に剣道場とは違う家の奥へと通された。他の部屋とは明らかに違う、屋根の高い畳敷きの広い和室だ。


 部屋には先に相良美鈴が待っていた。

 「相良さん、美鈴って言うんだね。初めて知った」

 「言ってなかったっけ? じゃあ今度から美鈴って呼んでいいよ」

 まさかサイキ自身も下の名前を知らなかったとは。

 「それでですね、話を始める前にサイキさんの使っているという剣を見せていただきたいのですが」

 「えっ……」

 固まるサイキ。相良父がその事を知っているとは思っていなかったのだな。

 「あーお父さんには言ってあるから大丈夫だよ。あたしだって力になりたいんだからさ」

 「さが……美鈴さんがそう言うなら、お見せします」

 早速呼び方を変えたな。サイキは若干警戒した表情ながら、いつも通り何もない空間から剣を取り出した。

 「うはーやっぱり不思議だわー」

 「おおー聞いていた通りだ」

 相良親子から驚きの声が上がった。サイキはちょっと照れているようだ。

 「確かに日本刀に似ていますが、鞘が無いのは危ないですね。持たせて頂いても?」

 「あ、はいどうぞ。軽いので気を付けて下さい」

 「……おぅ! 本当に軽いですね。まるで持っている気がしない。よくこんな重量で戦えるなあ……。失礼でなければ試し切りしてもいいでしょうか?」

 結構押しの強い相良父に不安な顔で無言で頷くサイキ。それを見て、美鈴がござを巻いたものを持ってきて台に立てる。凄く本格的だな。気合一発それを叩き切る相良父だが「うーん……」と難しい顔になってしまう。


 「次あたしー」

 と言い半ば奪い取るように美鈴の手に渡るサイキの剣。ちょっと危なっかしいな。サイキも思わず手が出そうになっている。

 少し空振りをした後、納得したように口を開く。

 「あーやっぱりねー。大振りになる原因はこれだよね」

 「美鈴さん、どういう事?」

 美鈴は最初から予想していたようだ。剣を返そうとするが、サイキはそのまま消し、驚いたかという感じで一つ笑顔。美鈴も改めて不思議がっている。


 この大振りになる原因については、父親が説明をしてくれた。

 「剣の重量が軽過ぎるんですよ。重さを力に加算出来ない分、どうしても大きく振りかぶらないと力が入らず硬質なものが切れない。だから隙が出来るという悪い連鎖が起きてしまっているんですよ。これではいくら切れ味が良くても、一定以上の強さにはなれないでしょうね」

 それを聞いて、あからさまなほど気を落とすサイキ。

 「私も以前、重さが足りないと言った事はあるんですが、いまいち理解していなかったようなんですよね。でも専門家の話を聞いて、しっかり理解したようです」

 「そうですか。でも本題はここからです。ちょっと失礼」


 相良父の歩いて行った先には……本物の日本刀が飾ってある。あれを持たせてくれるというのだろうか? 本物は私も初めて見る。綺麗だな。

 「やはり一番は本物に触れる事でしょうからね。サイキさん持ってみて下さい。結構重いので気を付けて」

 両手で受け取るサイキだが、その重さに明らかに焦った表情をする。

 「えっと、一キロくらいはあるのかな。こんなに重いのを振り回すのはちょっと……」

 「確かに子供が振り回せるような重さではないですね。大人でも扱いを間違えれば危険ですよ。でもその代わり一撃の威力はとても大きい」

 再度美鈴によりござを巻いたものが用意される。しかし手馴れているなあ。

 「サイキさんは刀の扱いには慣れていると思うので、試し切りをしてみて下さい。切れなくてもいいので小さめに振ればいいですからね」

 いきなりの実践である。我々は大袈裟なほど距離を開けたのだが、その事に少し不快な顔をするサイキ。まるで自分を信用していないのかとでも言いたげだ。

 「まあいいからやってみろ」

 一つ頷き、鞘から刀を取り出し構える。様になって……いや結構重そうだ。いざ構えてみると、その事に改めて危険性を認識しているようだ。物凄く真剣な表情になっている。


 「行きます」

 しっかり警報を出す辺り、よく分かっている。

 「はあっ!」

 気合一発袈裟切り。そして刀に振り回されて大焦りしている。こちらも焦るが、アンカーを使って強引に態勢を立て直した。

 「大丈夫かおい。俺みたいに足捻ってないだろうな?」

 「うん体に問題は無い。でも……えっと、お返しします」

 よく見ると鞘に仕舞う手が震えている。そして中々上手く鞘に仕舞えない。

 「ああ後はこちらで。そこにそのまま置いて下さい」

 「ごめんなさい……」

 それを見て笑っている相良美鈴。

 「あははー、あたしも最初振らせて貰った時、鞘に仕舞えなくなったわー。やっぱり重いもんねー」

 「それを笑うのはお前にはまだ早いぞ」

 と怒られている。こういう普通の親子の会話、私はあまり出来なかったなあ。

 一方のサイキだが、本物を振った事は相当に衝撃的だったのだろう。うつむきながら私の手を握ってきた。そしてその手は小さく震えている。威力と危険性の大きさ、そしてそれを制御出来なかった自分への不甲斐無さからだろうか。頭を撫でると無言で頷いた。私の安心させてやろうという心を読み取ったようだ。

 「この経験をどう生かすかはお前次第だぞ」


 次に剣道場へと足を運ぶ。小学生から高校生まで随分と年齢幅のある塾生達だ。ついでなので私も見学させてもらう事に。

 「なっちゃーん、ちょっとこのお姉ちゃんと勝負してみようか」

 小学校低学年だろうか、リタよりも小さい女の子が呼ばれた。この子とサイキとを勝負させるのか、これは面白い。本人はさっきの衝撃から未だ抜け出し切れていないようで表情が固い。

 美鈴の手伝いで胴着を着て、改めてルールの確認。


 「一本勝負、始め!」

 すると早速なっちゃんが攻め立てる。いきなりの防戦一方となるサイキ。というかこの子強くないか?

 「あれでも半年前に来たばっかりだよ。基礎が出来上がったっていう所で、まだまだあたしの足元にも及ばないよ」

 「自信満々だな。じゃあこの試合、どっちが勝つと思う?」

 「あたし? なっちゃんが勝つと思うよ。だってサイキは……」

 言い終わる前になっちゃんの胴が決まり勝負が着いた。一礼し戻ってくるサイキ。

 「ね? サイキは基礎がまだ中途半端だからね。色んな装備使って体の動きはとんでもない事になってるけど、それとこれとは全く別問題」

 そう言うとサイキに声をかける。

 「悔しいでしょ」

 「悔しい」

 「じゃー強くしてあげる。あたしに任せなさい」

 「……うん。お願いします」

 ならば私も美鈴にサイキを任せよう。早速美鈴とサイキとで一対一の練習が始まった。


 「ちなみにお父さんから見て、サイキの才能はありそうですか?」

 「ええ、間違いなく強くなりますよ。恐らく基礎をしっかり叩き込むだけでも、うちの息子に並び立つほどにはなりますね。美鈴に勝てるかどうかは本人の努力次第でしょうけどね」

 装備を使って空まで飛んだ本気のサイキに勝ったのだから強くて当たり前ではあるが、相良美鈴は一体どれほど強いのか。

 「小学五年の時に県大会で準優勝。ちなみにその時の優勝者は全国大会でも優勝しています。娘も全国大会に出る予定だったのですが、前日に気合を入れて食べ過ぎましてね、翌日お腹を壊して欠場という。まあ美鈴らしいと言えばらしいかな。あっはっはっ」

 憎めないキャラクターだな。何かと自分に無理を課すサイキにはぴったりだ。


 その後、剣道場の開設時間を聞くと、カフェの時間とは被らない事が分かった。しかも講習代は全額免除してくれるという。なんという太っ腹。聞くと美鈴から嘆願されたそうだ。我々の特殊な事情も理解してくれ、本当に頭の上がらない思いだ。

 「胴着はお貸ししますから、サイキさんと一勝負してみてはいかがですか?」

 「いやいや、私は五十八歳ですよ。それに足の怪我が治ったばかりなので」

 「そうですか。しかし娘の話を聞く限りでは、駆け引きならばサイキさんには負けないと思いますよ」

 「ははは、おだてても何も出ませんよ」

 曲がりなりにも素人対戦闘要員の対決だぞ? そんなの火を見るより明らかじゃないか。

 「わたしに勝ったら一つだけ、言う事なんでも聞くよ?」

 なんとまあサイキから仕掛けてくるとはな。

 「ふっふっふっ、本当に何でもなんだな? ならば秘密を打ち明けてもらうぞ」

 「……勝てたらね!」

 まだまだ若いもんには負けてたまるものか。



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