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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
奔走戦闘編
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奔走戦闘編 20

 長月荘に着くと青柳は情報収集のために車内で待機。数分後報告に来た。

 「今回は人的にも物的にも被害ゼロです。やはり浜辺だったのが幸いでしたね。それでは私は仕事に戻りますので、これで」

 襲撃はあったが、彼女達だけでもどうにかなったし、被害も無かったしで万々歳だな。さて着替えて買出しに行こうかな。


 ……うん? 脱いだ上着の肩に何か付いている。ゴミかとも思ったが何か嫌な予感。まるでそろばんの珠のような形をした、小さな半透明の赤い粒だ。机から拡大鏡を取り出し、よおーく見てみると、内部中央に明らかに機械的な何かがある。

 (あー、ナオにしてやられたな。これ多分発信機だ)

 出かける前、ナオに肩を触られたのを思い出した。

 「ゴミが付いていますよ」だなんて言っていたが、まさかこんな古典的な手を使うとは、あの策士め……。そうか、隣町に入った途端それを言い当てたのもこれのせいだな?

 うーん、これを逆手に取って焦らせてもやりたいし、後々のために取っておくのもいいかもしれない。そもそも何日くらい発信していられるんだ? 音声は? そんな事を思いつつどうしようか眺めていると、ふいに消えてしまった。落としたのかと見回してみるも何もない。私が長月荘に到着したのを確認して回収したのだろうか、それとも自然消滅か。

 ……まあいいや、考えても仕方がない。遅くなるのも困るので買出しに行こう。


 カフェに顔を出してみると、ナオが逃げるように奥へと引っ込んだ。やはり何かを隠している。しかしどれほど作戦が良くても本人がこれではバレバレではないか。私の注文を取りにはリタが来たので、いつものようにコーヒーを一つ注文。それからサイキを手招きして呼ぶ。

 「帰りに相良さんの剣道場に寄ってきたぞ。明日一緒に行って説明と剣道体験を受けられるようにしておいたからな」

 「やった。ありがとう」

 仕事中なので小さく喜んでいる。

 「それから戦果報告だが、被害は全くのゼロだそうだ。よくやったぞ」

 「当然っ、なんちゃって。皆にも言っておきますね」

 何だ随分と機嫌がいいな。そんなに剣道場に行きたいのか。


 夕食後、未だにこちらと目を合わせないようにしているナオを弄ぶ事にする。計画は既に出来ているのだ。

 「そういえばナオ、よく隣町にいるって分かったな」

 「え!? ええ、なんとなーく分かっちゃうものなのよ」

 「ほほお、ナオのカンは鋭いな」

 「ええそうでしょうそうでしょう」

 明らかに焦っているのが分かる。ちょっと、大丈夫か知将さん。


 ここで私はとあるものをポケットから取り出した。赤い小さなビーズだ。商店街の裁縫屋で、ナオに仕込まれた発信機と似た物がないか探してみた所発見したので購入、仕返しにとポケットに仕込んでおいたのだ。さてどう出るかな?

 「え!? なんでそれがまだあるの!?」

 「おー、ナオこれ知ってるのかー?」

 「し、知らないわよ。そんなビー……」

 固まった。完全に固まった。やはりビーコン、つまり発信機か。残りの二人を見ると、きょとんとした顔をしている。ナオの単独犯行という訳だな。

 「おうおうどうしたそんな脂汗かいて。これただのビーズだぞ?」

 まさに苦虫を噛み潰したような顔になるナオ。我ながらこのSっ気に万歳だ。


 「ああーもうっ!」

 テーブルをバンッと強く叩き立ち上がるナオ。隣の二人が思いっきり驚き引いている。

 「……ビーコン仕込んで動きを監視していました! すみませんでした!」

 逆切れ状態で頭を下げるナオ。言い隠すかとも思ったが自白したな。これだからこの子達は愛おしい。私は恐らくとても悪どい笑顔を浮かべている。

 「やっぱりな。それで、もしあの時俺が嘘を吐いたらどうするつもりだったんだ?」

 「直接乗り込むつもりだったわ。工藤さんや青柳さんに悪い事はしてもらいたくないもの。でもあっさり隣町に居るっていうのを認めちゃうんだもの、一瞬困ったわよ」

 「だって悪い事してないからなー、誰かさんみたいにこっそり肩に発信機仕込むような事もしてないし」

 「だあーもう謝ったじゃないの! はい、この話はもうこれでおしまい!」

 これでもう突っ掛かってくる事は無いな。そしてナオの弱みも手に入った。


 「あっ!」

 突然手を挙げるリタ。何だろう。

 「言い忘れていたです。明日中には拳銃が出来上がるです。今回は二丁用意したです」

 二丁か。青柳に見せてもらった拳銃それぞれかな。しかしいつの間にそこまで進んでいたんだか。また無理してないだろうなあ。

 「次に無理をする時は命懸けの時です」

 そうならないようにしろって事か。結構難儀な注文だ事。

 「性能的にはどうなる予定なんだ?」

 「中型までならば倒せる程度にはするつもりです。今回も64式と同じで、実弾をコーティングして使用するタイプです。……本当ならばエネルギー切れにも対応したかったですが、どうしてもアイディアが出なかったので保留です」

 「エネルギー切れか。火薬使ったら普通だもんな。後は……ああSF映画で電気使った銃ってあるよな」

 「電気……えっと、どういうものか調べられるですか?」

 食いついたな。パソコンでそれっぽい言葉を入力し検索。

 「これかな。レールガン、電磁加速砲。似たようなのに荷電粒子砲なんてのもあるな」

 「ちょっと読ませて下さいです」

 リタはそう言ったきり、結局夜中の十二時までそれ関連の文章を読み漁っていた。遅いから寝ろと揺すると、唸り声を上げて嫌がるほどだった。最後はナオに抱き上げられ、強制退場させられて終わり。しかし私が読む限り、彼女達の世界には既に存在してもおかしくない技術なのだがな。もしかして古過ぎて忘れられた技術だったりするのだろうか?


 一方サイキは剣道場に行けるのが本当に嬉しいのだろう、帰ってきてからずっと笑顔のままだ。しかし、そこまで強くなりたいのだろうか? というか今日のサイキは多分、当初自分が無理やりにでも強くなろうとした理由を忘れている気がする。

 明日の主役は間違いなくサイキだな。ついでだから、私もじっくり剣道の様子を見学させてもらう事にしよう。



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