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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
下宿戦闘編
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下宿戦闘編 8

 「こんにちはーお久しぶりでーす」

 妻の実家である芦屋家に来た。

 「おうよく来たな。この前はどうした?」

 この人が現当主でもある妻の父親、私からしたら義父だ。御歳八十一歳であるが、まだまだ現役バリバリである。現在はお手伝いさんとの同居生活中。どうしたのか? というのは、いつもは妻と娘の命日に訪ねているのだが、今年は色々あったせいで遅れてしまった。私がどう言おうか考えていると怪訝な表情をするが、決してそれを不快に思っている訳ではないのは分かる。

 「下宿屋を一時的にですが再開しています。女の子が一人転がり込んできてしまって。いい子なので苦労はしていませんが」

 と説明すると、ガハハと豪快に笑い、とても嬉しそうな表情に変わる。

 私があの子の為に長月荘を再開したという話は、当然商店街の人達の耳にも入っており、皆一応に嬉しそうな顔をする。やめる時には気付かなかったが、いざ再開すると、こんなにも多くの人が長月荘を慕ってくれているのだと、その嬉しそうな顔を見るたびに私も嬉しくなる。これは私にも”縁”が巡ってきたのかな? だとするならば、サイキには本当に感謝しなくてはいけないな。


 仏壇に手を合わせ、近況報告と何気ない世間話をする。さすがにサイキの素性までは明らかには出来ないし、明かした所で信じるはずも無い。

 そこへ芦屋家長男が帰宅。私の妻の弟になるのだが、長男という事でいつも兄ちゃんと呼んでいる。芦屋家の大人どもでは一番下っ端の四十四歳である。元来寡黙な人であり、妻とはまだ恋人だった当時、私は挨拶をしても無視をされるので、相当に嫌われているのだと思っていた。実際には応援する側だったようで、お義父さんを納得させたのも、彼の一言だったという話だ。

 「……ん」

 一言、兄ちゃんが袋を渡してきた。何かと思えばサツマイモが入っている。お土産に持ってきてくれたのだ。

 「こういう気配りはモテるよね」

 「……うん」

 また一言。それでもモテるというのだから、さすが我が妻の弟である。

 「そういえば姉さんは?」

 芦屋家長女の所在を聞くと、私の顔を見に来る予定ではあったが、孫が遊びに来てしまい動けなくなったそうだ。孫か……私もそういう年齢だ。もし孫がいれば一杯遊んであげただろうな、と考えると泣けてきた。いや待て、我が家には赤い髪の孫がいるではないか。さすがに血は繋がってはいないが、自慢の孫として紹介出来る自信があるぞ。


 時刻も夕方五時半を回り、サイキは帰宅する頃だ。秋の日はつるべ落としという事で、私もあまり暗くなる前に引き上げる事とする。天気も若干悪くなってきた。傘を持って行けと言われたが、どうにか間に合いそうなので遠慮。車で買い物に行くという兄ちゃんにバス停まで送ってもらい、あとはバスに乗って帰るだけだ。

 バスに揺られていると予想よりも早く雨が降ってきた。まあ家からバス停までは近いのでそれほど濡れる事も無いだろうからいいか。最初の侵略者の襲撃時も雨だったな。

 ……と思っていると、突然強い風が吹いた。嫌な予感。周囲を見渡すと、来た方角である西の上空に何かが浮いている。あれがゲートか? 急遽次のバス停でバスを降り、西へと引き返す。すると上空を光が一直線にその場所へ向かって飛んでいく。直感的にあれが何なのか悟った私は、今時少なくなった折り畳みの携帯電話で長月荘に電話を入れる。

 ……出ない。何度掛けても出ない。直感は確信へと変わりつつある。

 ある程度進むと前方に逃げる人影がある。二回目の襲撃だ。間違いない。この先は片側二車線の比較的広い通りに出る。戦い易くはなるだろうが、その分人も多く、被害も爆発的に増えると思われる。


 「いた。なんかデカいぞ!」

 私の位置からは百メートル以上は離れているはずであるが、車の陰からでも見える大きさだ。周囲の建物と比較して四メートル以上はあろうか。今度は深い緑であり、人型ではあるが下半身が見えない。埋まっているのか? だとしたら全体は倍以上あるのか? どちらにせよここからでは判別は難しい。近づいてみようとするも逃げる人の波が押し寄せる。埒が明かないので近くのビルにお邪魔して二階まで上がる。

 まだ距離があり、よくは見えないが、奴の下には荷台を半分潰されたトラックが見える。その横には隙間が見える事から、下半身は埋まっているのではなく元から無いのだろう。腕の動作はかなり大振りで、奴自体は移動能力が乏しいと思われるが、その分安定して高い威力を出せるという事だろうか?

 奥をよく見ると赤いものが動いている。サイキだ。ただ動くのが見えるというほどの大きさだが、あの赤い頭は間違いない。私の位置とは逆側で戦っている。するとパトカーが数台走ってきた。すぐさま発砲体制に入る警官。

 お決まりの警告を発した後、間髪入れずに発砲を開始した。恐らく前回の時点でこうなる事を予測して発砲許可を出していたのだろう。しかし私からは銃弾が当たっているのかすら見えない。奴はというと、警官隊を完全無視した状態で、サイキだけを狙っているように見える。あんな大きさの奴からの攻撃、果たして無事で済んでいるのだろうか?


 今なら近づけるかもしれない。そう思った私は一本隣の道から、建物の隙間から見える奴を確認しつつサイキに声が届く所まで移動。前回、商店街の皆の声援でサイキの剣が光った。もしあれがエネルギーの回復と関係するのであれば、私の声援が少しでも彼女の力になれば。賭けである。

 「サイキ!」

 壁に隠れつつどうにか彼女から見える位置に移動。声をかけると一瞬こちらを見た彼女は軽く頷き、改めて気合を入れるように雄叫びを上げ切りかかって行く。今の彼女には涙は無い。相手の攻撃はかなり大振りで、私から見ても予備動作が分かるほどだ。やはり移動能力にも乏しいようで、最初の位置からは一メートルも動いていないように思える。これならば避ける事はそう難しくないか? しかし一発当たればその威力は想像に容易い。普通の人間ならばひとたまりも無いな。


 周囲を見回すと警官がかなり増えている。中には背広の刑事までいるが、何故か誰もサイキを排除するような事はしない。私のいる所にも刑事と思われる銃を持った人が来た。早く逃げろとは言われたが、私は彼女を見守ると決めたのだから、退く訳には行かない。

 「どうなってるんだ? あんたらサイキの援護に回ってるのか?」

 「上から命令が来てましてね、赤い髪の子は味方だ、援護してやれとね! っていうかサイキってなんだ? あの子の名前か? あんた関係者か?」

 一瞬戸惑った。確かに関係者ではあるが、同時に保身も考えてしまう。黙り込んでしまう私に、痺れを切らして刑事がこう言う。

 「ああどっちもでいいから、どうすればいいか教えろ!」

 「……じ、じゃあ、彼女を応援してくれ。心から応援してくれ! それで彼女は強くなれる!」

 普段ならとても恥ずかしくて人には言えないような台詞ではあるが、今分かっている限りの正解がこれなのだ。まじまじと私の顔を見た刑事は、私が至極真剣であるのを確認すると、無線で指示を飛ばした。

 「あの子を応援してやれ! 声出せ声!」

 すると方々から野太い声が飛び始める。さすが普段怒鳴る事の多い方々、声量が大きい。サイキは一瞬笑ったように見えた。次の瞬間、相手の右腕が切り落とされ、警官から歓声が上がる。相手の速度が遅いのが幸いしてか、今回はサイキに攻撃は一発も入っていない。これなら行ける!


 その時、また悲鳴のような轟音と強烈な風が吹く。一瞬で空気が凍りつく現場。まさか二体目だと!? 地上十メートルほどの位置に、大きな円形の物体が出てきた。

 「双子か!」

 私より先に刑事が叫ぶ。そう、先ほどから戦っている奴と見た目が全く同じ奴が出てきたのだ。場所はサイキを挟んだ反対側。挟み撃ちを食らった。いくら動きの遅い相手だとしても二体同時は分が悪い。しかも片腕になった側は、錘が無くなったからなのか、攻撃動作の速度が上がっている。これではサイキは攻撃態勢に入れない。腕の本数から実質三対一である。

 「どちらかの気を逸らさないと、どうしようもないぞ!」

 刑事さんの最もな一言。何か気を逸らせるものはないかと周囲を見るも、あるのは割れたガラス、転がっている角材とパイプ、お土産にもらったサツマイモだけだ。あの状態では近づく事は自殺行為、角材やパイプで殴りに行くのは不可能だ。ならば試しにサツマイモを投げつけてみるか? いや拳銃で撃っても動じない相手だぞ……。極度の焦りを見出していると、攻撃を避けるのが精々のサイキが隙を見てこちらに飛び込んできた。


 「片腕……あいつを止めて! 一瞬でもいいから!」

 息を切らし膝に手を置くサイキ。

 「一か八か……」

 こちらから声をかける間もなく、再び飛び出して行く。何かをやるつもりなのだろうか? ともかくここはサイキの指示に従おう。

 「片腕の奴か。よし!」

 今は右腕が無いので、サイキを注視する限り私のいる側は攻撃範囲外だ。

 「やってやろうじゃないか! 日本の警察ナメるなよ!」

 刑事が再び無線を飛ばす。一斉に”片腕”に向けての発砲が始まる。だがやはり奇妙とも思えるほどに、警官隊へは完全無視を決め込んでいる。

 (何故だ、何故警官隊には反応を示さない? よく見ろよく考えろ、何故サイキだけを狙う? 何かがあるはずだ……)

 老いた頭脳を全力回転。もしかして、技術力の高いものを狙っているのか? それとも別世界から来たのが原因か? いや、もっと単純なのかもしれない。奴らの攻撃も単純な動きが多い。まさか……。

 「刑事さん、このど真ん中を車で走り抜けられますか?」

 「はあ!? 何言ってんだあんた!」

 ごもっともである。

 私が考えたのは、奴は視野が狭く、目の前にいるからこそサイキだけを狙っているのではないかという事だ。先ほどサイキがこちらに飛び込んできた時、一瞬の事ではあったが奴らは動きを止めていた。つまり目の前を別の何かが通り過ぎれば、そちらに気が行き、動きが止まるのではないかという事だ。

 「しかし確信が無ければそんな危険な事は許可出来ない」

 「ならばもう一か八か、サツマイモを投げつけるまでよ!」

 半分自棄になっているのは認める。しかしこれ以上サイキに負担をかけさせる訳には行かない。私は奴が空振りするタイミングを待って飛び出した。サツマイモを片手に。

 投げられるサツマイモ。顔面に命中。奴は……やった、こっちを向いた!

 「いまだ! サイキやっちまえ!」

 私の叫びと呼応してサイキが緑色の巨体に飛び込む。あの時と同じように剣が光り袈裟切り切断される”片腕”と、その中を飛びぬけるサイキ。赤鬼の時とは違い、小さな爆発が起きた。そして収縮し消滅。

 よし、残り一体……という所で私はやらかしてしまった。私の立つ位置が、もう一体の攻撃範囲に重なっているのだ。背後から迫る影。振り向くサイキは間に合いそうに無い。


 すごい顔をしているぞお前。長月荘の鍵は……渡してあるか。いざとなればはしこちゃんや渡辺あたりが助けてくれるだろう。心配は無いな。さえ子、明美。父さん今からそっちに行くわ……。


 死を覚悟した。



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